第11回:梅田から東花園

ある火曜日。15時から梅田で打ち合わせ。ビルの30階にある喫茶店が打ち合わせの場所で、窓からの景色がすごかった。しかし天気が良くて日差しが強く、しばらくしてお店の方が窓のカーテンを端から順番に下ろしていって、それが終わると、ここが30階であることを感じない喫茶店になった。

丸一年ほどかかった本作りがようやく大詰めで、原稿内容を細かく見て直していく段階である。原稿をプリントした束を広げ、「この部分をこんな方向で直した方がいいかなと思いました」というようなことを編集者のKさんが説明してくれた。見直しの作業の締め切りを聞き、紙の束を受け取った。

Kさんは旅好きで、しょっちゅうあちこちに出掛けているという。東京に住んでいて、今日の朝に新幹線に乗って大阪に来た。旅は好きだが、それは移動している状態が好きなのであって、ホテルや旅館にじっとしているのはそれほど好きではないらしい。なので今日もこれからすぐ東京へ帰るのだとか。

Kさんを大阪駅の改札近くまで見送って一人になる。エスカレーターに乗って駅ビルの屋上スペースへ向かう。

先週も来た映画館にふらっと入り、今日は映画を見る時間はないが、ポップコーンだけ買ってしまいそうになった。

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今日は朝早い時間におかゆを少し食べただけだったのでお腹が減っていた。いや......しかし......ポップコーンの一番小さいSサイズ単品でも450円する。映画を見ながら食べるのなら全然気にならないのだが、ただの食べ物として見ると割高に感じる。それならコンビニでスナック菓子でも買った方がいい。やめよう。

夜に向けてできるだけお腹をすかせておきたくて、結局何も食べずに我慢して、駅ビルの中の書店をうろついて時間を潰した。Hさんから連絡があり、早めに仕事が片付いたとのことだった。

今夜、東大阪市の東花園駅の近くにある店でラーメンを食べることになっている。「ら道本店」という名の店で、一年半前から予約してあった。

その店は普通のラーメン店とは違い、ラーメンスープの工房で、店主が一日数組にだけラーメンを提供している。そのようなスタイルなので、食べに行くには事前の予約が必要で、しかもそれが「明日」とか「来週の何曜日」とかではなく、「来年の何月何日」みたいに先になる。

私は8年ほど前にお店を取材させてもらったことがあって、その帰り際に次の予約をして、また一年何か月か後に食べに行って、またその帰りに予約して、と、8年の間に5回食べに行った。ただラーメンを食べに行くというよりは、恒例行事のような感覚。

いつも友達何人かで食べに行き、帰りに「じゃあまた一年半後に食べに来ましょう」とみんなで約束する。もちろん、その時のタイミングで行ける人も行けない人もいて、メンバーはその都度、少しずつ変わっているが、とにかくそんな風にして前々からみんなで楽しみにしているラーメンなのである。

連絡をくれたHさんも今日のそのラーメン会の参加メンバーである。お店を予約している時間はまだだいぶ先で、Hさんと私とで先に集まっていることにした。なんせ一年半前から楽しみに待っていたラーメンの日なので、今日、酒を飲むことは決めていた。「じゃあ布施あたりで軽く飲みましょう」と、いい酒場がひしめいている東大阪市の布施の街へ向かうことにした。

これまで何度も行ったことのある角打ちで瓶ビールを分け合って乾杯した。楽しみなラーメンをできるだけ美味しく食べるため、つまみは最低限に留める。とはいえ、お店の失礼にならない程度に、あまりお腹にたまらなそうなものを何品か。しめじポン酢とか、高野豆腐とか。ビールがすぐになくなって、缶チューハイに切り替える。

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明るい時間からたくさんのお客さんで賑わっている店内の、少し離れた場所からこんな会話が聞こえてきた。

「γ-GTPとかあるやろ、俺、200いくつやねん」「それは高い方?」「高いっていうんやけどな、日本の基準は厳し過ぎるという説もある」「ああ!アメリカはもっと高いんか」「うん。欧米では200なんか全然普通らしい」「そうかー、まあ、体も大きいもんな」

日本の基準は厳し過ぎるという強引な解釈に「気の持ちよう」という言葉を思い浮かべつつ、健康診断を受けるたびにγ-GTPの高さについて指摘される私はチューハイを飲んでいる。

軽めのところで切り上げ、ゆっくりと東花園駅へ向かう。駅から15分ほど歩いた静かな住宅街に店はあって、というか、予約制の店だから外観はただのアパートなのだが、その前で今日のメンバーがみんな集まった。階段を上がり、2階にある部屋に通される。

部屋に入ったら、ラーメンができあがるまでの間、部屋の隅の冷蔵庫に入った缶ビールや缶チューハイなど(ソフトドリンクももちろんあり)を取って飲んで待つ。

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運ばれてきたラーメンを見て、「そうそう、こういうラーメンだった」と思う。豚骨ベースのスープなのだが、豚骨っぽい香りがしなくて、色味がとても綺麗である。具材はシンプルで、とにかくこのスープを味わうための一杯という感じ。

替え玉したり、ライスを追加してスープに入れて食べたりしながら、各自、思い思いに食べ進める。さっきまであんなにお腹が減っていたのに、すっかり満腹である。持ち帰り用のスープも買い、次回の予約も完了。次は来年の8月になるという。いつも通り「また来年、みんなで食べに来ましょう!」と約束する。

店主に見送られつつ店を出て、夜道を歩く。まだ21時台だが、すっかり満ち足りた気分でそのまま駅に向かって電車に乗って解散。ああ、美味しかった。いつも次を予約するたびに「そんな先まで元気でいられるかな」と思うのだが、今回もまた、食べに行くことができてよかった。