第13回:久々に会う友達と
ある火曜日。前夜の酒が残っていて、なかなか起き上がることができない。幸い、日中は仕事を淡々とこなしていけばいいスケジュールである。いつもより長めに横になり、昼前からようやくパソコンの前に座る。
返信できていなかったメールをチェックし、一度先方に提出した原稿の再確認作業などからスタートする。いつも思うのだが、原稿を仕上げて入稿して、それで終わりではない。私は何度やってもそこを忘れがちで、「送信!よし終わった!」とそこで何かを成し遂げたような気持ちに浸ってしまうのだが、その後にも作業は続くのだ。
原稿の内容やそれを提出する先にもよるのだが、書く時間と同等かそれ以上に直す作業に手間がかかる場合もある。そして今、なかなかに骨の折れそうな修正作業が目の前にある。取り掛かろうとして、いや、やっぱりまずは何か食べようと思った。鍋で湯を沸かし、もやしを入れ、少し茹でた後に袋麺を投入。テレビを見ながら食べる。
台風が日本に近づいてきており、地域によっては警戒が必要だという。私の住む大阪では夜半から大雨になるらしい。窓の外は雨が降っている。聞こえる雨音は時おり強くなって、また収まる。
「今日はどうなるだろうか」と思いながら、とりあえずは仕事に取り掛かるしかない。「やるぞ!」とようやく向き合う気持ちになったところで食後の強い眠気がやってきて......。
夕方になった。「17時に神戸駅で」と、Hさんと約束してあった。窓の外の雨は、今は少し弱まっているようだ。支度をして外に出る。傘をさして駅まで歩く。
神戸駅の改札の向こうにHさんの姿が見えた。手を上げながらICカードを改札にタッチすると、チャージ額不足で通れなかった。精算機のある場所まで行ってチャージして、と、もたついた後、ようやくHさんのもとへ。
「お久しぶりです!」と挨拶して、行き先は明確に決めぬままとりあえず歩き出す。お互いの住まいからの距離を考えると神戸駅あたりがちょうどいいかと、それだけで決めた集合場所だったから、特にどの店に行こうかと決めていたわけではなかった。それはHさんも同じようだったので、まずは「石井商店」という角打ちまで行ってみることに。
雨はまだそれほど激しくはないが、風が強い。私の安物の傘はすぐに裏返りそうになる。神戸駅の南東に10分ほど歩くと、駅前とは雰囲気が変わり、静かな住宅街だ。
久々に行く「石井商店」だったが、前に来た時と変わらず、店内は賑わっていた。カウンターに背を向けるような位置に配置された壁際のテーブル前に二人で立つことにして、まずは大瓶のビールで乾杯する。
Hさんと前に会ったのは東京で、もう2年以上も前になるらしかった。共通の友人に紹介してもらって知り合って、一緒に飲んで......とはいえ、それほど何度も会ったことがあるわけではない。近況を聞けばHさんは実家のある兵庫県に拠点を移し、しばらくゆっくり日々を過ごしていたらしかった。
Hさんが住んでいるという街の名を、私は初めて耳にした。兵庫県の西の方で、大きなイオンがあるだけで他にはあまり何もないという。「昔はもっと色々あったんですけど、久々に地元に戻ってきたらかなり街が変わっていました」と、そんな話を焼き明太子をつまみながら聞いた。何もない街と聞くと、そこに行って何かを探してみたくもなる。
私たちの後方、カウンターの周りには常連客がずらりと立っていて、中にはスーツ姿の人もいる。台風が近づいているというので早めに会社が終わったりしたんだろうか。「鶏皮餃子、お待ちどうさま」とこちらに運ばれてきたその品を、私たちは注文していなかった。「あれ、どこやろう鶏皮餃子は」とお店の方が店内のお客さんに声をかけるも、誰からも手が上がらない。「よかったら、ここの注文にしてください」とHさんが言って、鶏皮餃子は我々のテーブルに置かれた。とても美味しかった。
せっかくこのあたりに来たのだから角打ちをハシゴしたい。歩いて数分の場所にある「菊地酒店」へ向かう。こちらも私は久しぶりで、入口すぐにずらっと並ぶ惣菜の小皿が見た目に華やかで、そう、この店も大好きだったんだと思い出した。タケノコとカニカマとチューハイ。サービスでいただいたソフトせんべいが、また旨い。
Hさんも私も東京に長くいて、今は関西で暮らしている。まさか神戸の角打ちでこうして二人で飲んで語らう日が来るとは。Hさんもこのまま当面は関西にいようと思っているそうで、またこうしてたまに飲みましょうと話した。
20時で終わるお店なので、それを今日の区切りにして解散することにした。雨はまだそれほど強くなく、本当にこれから大きな台風が来るのだろうかと思うが、たしかに風は強さを増しているようだ。駅にたどり着くと、電車は通常通り動いていた。それぞれ反対方向の電車に乗って帰るから、Hさんとはそこで別れた。
私の方面の電車はまだしばらく来ないようだったので一度ホームまで上った階段をまた降り、改札内にあるコンビニで缶チューハイを買う。この一缶が余計なんだといつも後悔するのに、酔った自分がそれをよしとしてしまう。明日こそ、久々に休肝日にしようと思いながら、駅のベンチにしばらく座っていた。
