第15回:カレーを作って梅田へ

ある火曜日。たっぷり寝て起きて、日中は家で少しずつ仕事を進めて過ごした。15時頃、ふと、夕飯は久々にカレーにしようと思った。凝ったカレーではない、定番の具材が入った、ただのカレーが食べたい。

野菜も売っている近所のコンビニで、玉ねぎとじゃがいもとにんじんと豚バラ肉と固形のカレールーを買った。

野菜をそれぞれ、粗めに切って鍋で少し炒めて、そこに豚肉も追加してさらに炒めて、水を加えて、しばらく煮込む。まだカレールーは入れていないから、この時点ではただ野菜と肉とを茹でただけのものである。

私はこのカレーにまだならない途中の状態、まだ何の料理でもない状態が好きで、いつもこの時点でつまみ食いを始めてしまう。

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「にんじんはまだ硬いかな?」と、最初は火の通りを確かめるだけのつもりだったのが、「茹でただけのにんじん、うまいな」と、食べ出すと止まらないのだ。にんじんに加え、玉ねぎとじゃがいもと豚肉を小皿にとって、塩コショウを少しふって食べてみるとすごく美味しい。カレーになる前のこの状態の方が、私はむしろ好きなのかもしれない。具材をだいぶ多めに入れたつもりでいたが、気づけばかなり食べてしまっていた。

「これぐらいにしておいてやろう」と、仕方なくつまみ食いをやめ、カレールーを入れてしまうと、もうそれは完全にカレーだ。あの途中の状態に戻すことはできない。今度、あの途中のものだけをお腹いっぱい食べてみたいと思った。

鍋にカレーができあがった。これから外出して、帰ってきたらカレーが待っているというのは、なんだかうれしいものである。

それから少しして、電車に乗ってJR大阪駅へ向かう。今日は「梅田クラブクアトロ」という音楽スペースに用があるのだが、地下街を歩いてそこまで行く道のりが未だによくわかっていない。「大阪駅 クアトロ 行き方」と検索し、「ああ、あの道を行けばいいのか」とやっと理解して進む。

会場ではアメリカ出身のサックス奏者であるサム・ゲンデルと、同じくアメリカのベーシストであるサム・ウィルクスの二人によるライブがあり、前々からチケットを取ってあった。そのチケットを取った後、追加の出演者として野口文の名が出て、私はその野口文という人の音楽も最近聞いてすごく好きになったので、「得した!」とうれしくなった。

かなり早めに会場に着いた気でいたが、すでに多くの人が集まっていて、後ろの方の、のんびり柵に寄りかかってライブを見られるような場所は埋まっていた。私はあまり前の方のギュウギュウの場所に行くのは好きではないのだが、今日はそうすることにして、とはいえ、ステージに向かって端の方の、そこまで過密にならない場所に立つことにした。

入場時、すでにクレジットカードで購入してあったチケットとは別に、600円のドリンク代の支払いが必要となる。水でも600円、酒でも600円。同じ値段だと思うと絶対に酒しか選びたくない私である。生ビールを注文し、まあ、今日はこのライブに行くから休肝日にすることは無理だとわかっていたが、その通りになった。

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開演時間まで30分もある。一人で来たので話し相手はいない。リュックから文庫本を取り出してみたが、それを読むには照明が暗くて、結局スマートフォンを取り出して、政治のニュースなどを見て過ごした。

19時を少し過ぎて野口文のステージが始まる。野口文と、もう一人、私の位置からはほとんど見えなかったが、ギターを弾いているらしい人と二人で演奏していた。シンプルなピアノのフレーズを(おそらく)ルーパーというエフェクターで反復させて、その音を少しずつ変化させたり、そこに色々な音を重ねたりする。街の雑踏っぽい環境音とか、電車の中っぽい音なども重なる。

何枚かのアルバムを最近愛聴していたのだが、それとはまた違う、自然音のアンビエントみたいな感じで、60分で3曲。途中、気が遠くなるような感覚(いい意味で)を味わいつつ聴いた。

野口文のステージの後、しばらくしてサム・ゲンデルとサム・ウィルクスのライブが始まって、二人はヘアースタイルも服装もすごく似ていて、なんともキュートである。二人の演奏は、再生されたトラックの上にサックスやベースを重ねていくもので、でもそれぞれの楽器に多彩なエフェクト処理がリアルタイムでなされて、音色も響きも自由自在というか、その都度変わっていく感じだ。

たまにリズムが入るけど、基本的にはゆったりとした夢の中のような、幽玄とした演奏で、ここでもまた現実と夢の間をさまよいながら聴く感じになった。短い夢をたくさん見た気がする。

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アンコールもあって、終わってみれば22時近い時間になっていた。ぼーっとした頭で出口に向かい、CDやTシャツを売っているブースを少しだけ覗こうと思っていたら肩が叩かれ、振り返ると久々に会うRさんの姿があった。

「あ!来てたんですか!」と驚き、また久々に会えたことがうれしくもあって、「時間があったらコンビニでお酒を買いませんか!」と誘った。

会場近くのコンビニでそれぞれ缶チューハイを買い、人通りの少ない一角で立って飲む。「いいライブでしたね」と感想を言い合った後、ここしばらく、色々あって忙しかったのだというRさんから話を聞く。夜風が涼しくて気持ちいい。

こうしてたまたま会えたのをきっかけに、二人の共通の知り合いも交えて近いうちに飲もうという話に。こんな風に、ささいな偶然から次の約束へと繋がっていく感じが私は好きである。Rさんとは途中まで電車の帰り道が一緒だったので、駅まで歩く。さっき検索で確かめた道だったのに、さもよく知った道だという風に私は格好をつけて歩いた。家に帰ればカレーが食べられることを思い出し、うれしくなった。