第16回:串カツから始まる昼

ある火曜日。梅田の地下街を歩いて串カツ屋を目指す。正午からその店を取材させてもらう予定になっていて、乗った電車が遅れていたのでちょっと焦ったが、なんとか時間に間に合いそうで安堵した。

店の前に立って待っていると、雑誌の編集者とカメラマンの方が現れた。カメラマンは初めて会う方だったので、名刺を渡して挨拶する。そして串カツ店の店内へ。数年前に一度取材させてもらっていて、店主はその時のことを覚えてくれていたようだった。

お店のお話を改めて伺った。私に色々と話を聞かせてくれながら、店主はひとときも手を止めずに串カツを揚げていく。店内にはお客さんがたくさんいて、カウンターでお酒を飲んでいる人もいる。私の前にも串カツの盛り合わせとチューハイが運ばれてきた。

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「では、普段通り飲んでください」とカメラマンから指示を受け、チューハイのグラスを持ち上げる。キリッとした後味の、この店のチューハイが好きである。一口飲んで、串カツを食べて、またチューハイを飲んで......。

このような取材になることはわかっていたので、昨日を休肝日にしてあった。久々の(といっても一日開けただけだが)チューハイなので、なおさら美味しかった。昨日の朝は前日の深酒が祟って激しい二日酔いに苦しんでいた。

最近私は、二日酔いを利用して休肝日を乗り切るという技を覚えた。二日酔いで目覚めると、当然だが具合が悪く、酒など一切飲みたくならない。昨日の酒席のことを回想するだけで気持ち悪くなるほどだ。「うーうー」とうなりながら、体調が少しずつ元に戻るのを待つ。そうこうしているともう夕方になっている。そこまでたどり着けば儲けもので、後は夕方以降の残り時間を乗り切ればいいだけなのだ。数時間前まであんなに苦しんでいたくせに、回復してくるとまた性懲りもなく「酒、飲んでもいいかもな」などと思ってしまったりするが、そこはノンアル飲料でしのぐ。

このように、二日酔いを追い風にして休肝日を乗り越えるために、休肝日の前夜はついつい飲み過ぎてしまうからいけない。

とにかく、そのようにして昨日は酒を抜いたので、今日は晴れ晴れとした気分で飲んでいられる。あくまで取材なので、店ではチューハイを一杯だけ飲んで終わりとなった。一度帰宅して仕事を少し進めた後、夕方に再び街に出た。

大阪メトロ恵美須町駅近くの居酒屋で友人たちと待ち合わせた。行ったことのない居酒屋だった。東京から来た友人が、検索して見つけた店だという。4人掛けのテーブル席が一つと、あとはカウンター席だけの店で、友人が4人席を予約してくれていた。

メンバーの中には初対面の人もいて、私は少し緊張しつつ、生ビールを何杯か飲んだ。お造りの盛り合わせが見た目にも華やかで、そしてどれも新鮮な味わいだった。

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お造りの他にもいくつかの一品料理を注文して、それがどれも美味しく、ゆっくり腰を据えて飲みたかったが、私たちにはその後の予定があった。予想外に安かった会計の金額に驚きつつ、「この店、絶対にまた来よう」とみんなで言いながら店を出て、タクシーに乗って「難波ベアーズ」というライブハウスを目指す。

大阪・なんばにある老舗ライブハウスが「難波ベアーズ」で、建物の老朽化のため、2026年7月末をもって、現在の場所での営業を終了することが決まっている。今日はそこで見汐麻衣と山本精一の「二人会」というライブイベントがあって、私と友人たちはそれを見に来た。

それがメイン目的だったのだが、前の飲み会がギリギリまで長引いたため、会場内はすでに満員状態で、私はスピーカーの横の、ステージがほとんど見えない場所に立つことになった。

最初はそれが少し残念だったが、これはこれで、聞こえてくる音だけに集中することができていい気がしてきた。山本精一の弾き語りからスタートし、その後に見汐麻衣が、やはり弾き語りスタイルで演奏をして、最後に二人が数曲、一緒に歌った。

山本精一の歌が、私はずっと好きである。乾いた、表情でたとえれば怖いほどに真顔のような歌声で、なのに聴いていて感情が揺さぶられる。ギターの響きはその歌声と対照的に時おり熱気を帯びて、でも攻撃的ではない、優しい音に聞こえた。愛聴しているアルバムの中の、好きな曲も聴くことができた。

見汐麻衣の歌も......というか、私は見汐さんと何度か会って少しだけ話をしたこともあり、頭の中では見汐さんと呼んでいるので見汐さんと書くことにして、その見汐さんの歌声が、またいい。都会のはずれの静かな夜の風景が浮かぶようなクールさもあって、でも同時に温泉街のスナック街が想起されるような、艶っぽいエレジーというかブルースというか、そんな空気もまとっている。ギターの響きがかっこいい。ステージは見えないから目を閉じて聴いていた。

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「ベアーズ、なくなるのかー」と、昔からこの場所を知っていたわけではないくせに、寂しくなる。来月、あと数回、来るつもりでいる。友人たちとコンビニでチューハイを買い、飲みながら駅まで歩いて解散した。すっかり酔っていて、見汐さんのアルバムをパソコンで再生しながら、気づけば床で眠っていた。