第19回:狩野英孝のセロリ塩ラーメン

ある火曜日。いつも髪を切ってもらっている美容院に14時に着くように家を出る。週末に雑誌の取材があり、もしかしたら自分も写真に撮ってもらうことになるかもしれないので、あまりボサボサした頭では恥ずかしい気がした。それで急きょ、切ってもらうことにしたのだ。

美容師のGさんにはおそらく10年ぐらい前からずっと切ってもらっている。2か月に一度程度、いつ行っても元気いっぱい、近況について聞かせてくれる。

Gさんの一家は夫と、そして3人のお子さんがいて、その家族の話もよく聞かせてもらう。先日、なんだかちょっと疲れて元気がない日があったらしいのだが、夕方、3人のお子さんのどなたかが急にカブトムシを二匹、友達からもらってくることになった。

そうなると色々と受け入れの準備が必要で、物置にしまってあった虫かごを取り出して中を綺麗に洗ったり、その中に入れる土を近所のホームセンターに買いに行ったり、いきなり忙しくなる。二匹のカブトムシを一つの虫かごに入れて、片方が「パンチ」、片方が「ジン」という名前に決まった(名づけの理由はGさんにはわからないらしい)。子どもたちがその様子をしばらく見ていると、どうも二匹の相性が悪く、喧嘩をしているようだという。それはいけないと、もう一つ、やはり物置にあったらしい小さな虫かごも持ってきて......と、やることがいきなり増えて、そんなことをしているうちに結果的には楽しく賑やかな一日になったという。髪を切ってもらいながら「そうなんですね。いいですね」などと相づちを打って聞く。

その後は私の最近の仕事の話になって(Gさんは私の本もよく読んでくれている。ありがたい)、シャンプーもしてもらってさっぱりして、ドライヤーで髪を乾かしてもらっているとGさんのスマホから着信音が流れて、お子さんからの電話だった。Gさんはそのままスマホをスピーカー通話モードにしたので、お子さんの声が聞こえる。めちゃくちゃ元気な口調で「〇〇ってどこにある?」みたいなことを聞いてきて、それに対してGさんが返答した後、「あんな、ジン、名前変わった!カブキになった!」とお子さんが言う。「え?何?カズキ?誰の名前?」「え?カズキちゃう!カブキ!」「え?カズキやろ?」「ちゃうって!カブキ!」「カズキ?何?正式な名前、メールして!」「わかった!」というやり取りが続いて、実際今「カブキ」と書いているけど、それは私の聞き間違えかもしれないのだが、カブトムシの新ネーム発表の瞬間に立ち会えて面白かった。

カブトムシの「カブ」からの「カブキ」なんじゃないかと私は思っているのだが、どうだろう。Gさんの家では色々な生き物を飼ってきたらしい。カブトムシもそうだし、海で獲った小さなカニとか、かたつむりとか、そういうものが飼われて、いつか死んで、死ぬといつも近くの公園に埋葬する。「うちの家族、めっちゃ色々埋まってます。あの公園に」と、そんな話を聞くのが楽しい。

Gさんの美容院の近くには好きな古本屋があるので、帰りにそこに立ち寄るのが楽しみである。ただ今日はこれといった収穫はなく、古いグルメガイド本を一冊、300円で買っただけで帰宅。溜まっていた仕事に取り掛かる。

夕方になって外へ出ると空がピンク色に染まっていた。日が落ちても簡単には涼しくならず、近所の川沿いを歩いていると汗ばんでくる。途中のスーパーでノンアルコールビールを買って、そこのスーパーはそんなに安くないから、もっと安いスーパーまで行く。

「龍馬1865」というノンアルコールビールを飲みながら歩く。何度か飲んだことがあって、「なんでこんな名前なんだろう」と思いながら、一度も調べたことはない。

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スーパーではセロリと鶏ひき肉と、中華三昧の「北京風香塩」という袋麺を買う。私は夕飯に狩野英孝のセロリ塩ラーメンを作って食べようとしているのだが、それにはセロリと鶏ひき肉と「北京風香塩」が絶対に必要なのだ。

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「狩野英孝のセロリ塩ラーメン」という呼び名は私が勝手にそう決めただけのものである。何年か前、『狩野英孝のクセうまラーメン』というBS番組があって、お笑い芸人の狩野英孝が日本各地のクセの強いラーメン店をめぐるというもので、なんとなく録画して見ていた。

その番組はほどなくして終了してしまったのだが、最後の方、コロナ禍でなかなかラーメン店でロケができなくなったらしく(そのことも番組終了の要因だったのかもしれない)、そのかわりに、スタジオに料理人を招き、袋麺のアレンジレシピを披露してもらうようになった。

そこで紹介されていたレシピがセロリを使った塩ラーメンで、それを食べた狩野英孝はたしか「今まで食べたラーメンの中で一番うまい!」と、ロケであちこちのラーメン専門店をめぐってきたのにそんなことを言っていいんだろうかと思うほど絶賛していて、「そんなに美味しいのか!」と思って私も真似してみたのだった。

以下に紹介するのは番組で紹介されていたものとはもう違って、自分になじむ風にさらにアレンジしてしまった作り方だが、たぶんそれほど大きくは違っていないはず。

①葉っぱもついたセロリを一本用意する。セロリの下の硬い茎のところの外皮をピーラーや包丁の背などで少しだけ取る(その方が食べやすいので)。茎のところは5センチぐらいの長さに細く切る。葉っぱは細かなみじん切りにする。

②細長く切った茎の部分をフライパンで鶏肉と一緒にオリーブオイルで炒める。塩コショウをふる。ちなみに私はいつからか鶏ひき肉でやるようになったけど、鶏肉ならなんでも合いそうである。

③炒めているのと同時進行で、鍋で「北京風香塩」を調理していくのだが、規定量の500ミリリットルのお湯を沸かす際、細かく刻んだセロリの葉っぱを水の状態から入れておいて、一緒に煮立たせる。お湯が沸いてしばらくしたら、後は普通にそのお湯で麺を茹でる。

④スープも入れてできあがったラーメンを丼に移し、その上に炒めたセロリの茎と鶏肉をのっけて、できあがり。

⑤食べる。うまい。

番組では、オリーブオイルではなくラードを使ってセロリを炒めていたが、私はオリーブオイルで試してみて、それで十分美味しかった。あと、番組ではたしかサッポロ一番塩らーめんを使っていた記憶があるのだが、私は断然、中華三昧「北京風香塩」をおすすめしたい!もし「狩野英孝のセロリ塩ラーメン」を食べたくなって、このラーメンが近所のスーパーで売り切れていたら、私は隣町にでも買いにいく。それぐらい、これじゃないとダメという感じに、いつからか、なった。

今日もやっぱり美味しかった。スーパーで買ったノンアルコールビールを矢継ぎ早に何缶か飲んで、なんとか休肝日をやり過ごせそうだ。