第21回:岡町をみんなで歩く

ある火曜日。正午に蛍池駅にいた。私は1年以上前から、阪急宝塚線という鉄道路線の各駅を歩き、その様子をレポート記事にまとめるという仕事をしている。

阪急宝塚線の全線だとちょっと範囲が広すぎるというので少しエリアを区切って、それでもこれまでに計14駅、一回ずつに分けて歩き、駅周辺の雰囲気を体感し、立ち寄った飲食店で街のことを聞かせてもらったりするというような取材を続けてきた。

その取材が一旦終わりを迎え、これから時間をかけて一冊の本にまとめていこうという話になった。そのように提案してくれる出版社があるというのは、心強いことだ。せっかく本にするからには各駅の散策記事だけでなく、色々な要素を足して、内容を充実させたい。そう思っていたところ、知人が阪急宝塚線の沿線で物件を探すという話を聞いた。

正確には、その知人は必ずしも阪急宝塚線沿線でなければと思って物件を探しているわけではないそうなのだが、書店をやるのにちょうどいいスペースがないかと考えていて、知り合いからのおすすめ物件を広く募っているそうなのだ。

それで今回、阪急宝塚線の蛍池駅近くの物件をその人が内見しに行くと聞き、そこに私も同行させてもらうことにした。沿線で物件を探しているところを取材することができたら、その沿線なりの特色を身近に感じられるかもしれない。そんな機会は滅多にないことだし。

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とはいえ、お店をやる場所を決めることになるわけだから、それは即決できるほど簡単なことではないし、物件を探している本人にとっても、「一旦持ち帰ってちょっとじっくり考えてみたい」というのが本音らしく、ただ空っぽの建物を数人で見るという時間が過ぎて、それで終わった。

電車に乗って一駅、岡町駅まで移動して、早々に打ち上げが始まった。「来夢来人」という中華料理店へ。

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岡町駅近くの商店街沿いにあるこの店は、老舗のいわゆる町中華として長年続いてきたのが、先代から二代目へと代が変わるにあたり、フレンチ出身の二代目のエッセンスを加えて、中華料理をベースにした一皿を食べながらワインを飲めるようなお店になったのだという。

我々はカウンターに座り、まずは瓶ビールで乾杯。さらにそこに一人、また一人と後から加わるメンバーがいて、気づけば総勢10名ほどの大所帯となった。物件探しの密着取材のつもりが、気づけばただ大勢で昼から酒を飲んでいる。まあこれはこれで、この沿線の面白さを味わっていると言えなくもないか。

岡町という駅の周辺にも、私は取材で訪れたことがあった。取材のつもりで歩いたところ、すごく気に入って、その後にも何度か散歩しに来た。駅からすぐの場所に原田神社という大きな神社があって、その周囲に商店街があって、落ち着いた雰囲気と活気とがちょうどいいバランスで混ざり合っているような、そんな街。

「来夢来人」を出た後、商店街をみんなで歩き、「イナキク酒店」という、早くからクラフトビールの仕入れに力を入れてきた店として界隈では有名らしい酒屋へ立ち寄る。「うちゅうブルーイング」という醸造所の「うちゅう エンジェル」という、ブルーベリーのスムージーみたいな濃いお酒をみんなで買って味見したりして、賑やかな楽しい時間を過ごす。

その日はそれで終わらず、タクシーに分乗して吹田市まで移動して、厳選した地酒を売る「十徳日本酒販売所」というショップへ。その店内で酒米を使ったもんじゃ焼きを食べつつ、日本酒を飲むという不思議なイベントが開催されるというので、みんなで行くことになった。

もはやこうなると、完全に物件探しも、阪急宝塚線沿線の取材のことも関係なくなって、ただ、変わった飲み会にいるだけの自分である。

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もちろんそれはそれで楽しい。私は東京から大阪に引っ越してきて12年になるのだが、最近になって、あちこちに知り合いが増えてきたなと思う。何かきっかけがあって知り合いができたという感じではなく、これまでの12年の中で少しずつ出会っていった人たちに、実はそれぞれ共通の知り合いがいて、たどっていけばだいたい繋がっていたことがわかってくるような、そんな感じ。点と点が線になってきたような。引っ越してきた当初の、特に最初の3年ぐらいは寂しさを感じることが多かったので、その頃のことを考えると、長くいたからこそだなと思う。

「そうか、もう12年もいるんや? 長なったなー!」と、一緒に飲んでいる人から驚かれながら、日本酒を飲む。大阪の能勢にある秋鹿酒造のお酒。

ここ最近、休肝日を作れていないから、酒のダメージがじわじわと蓄積してきているのを感じる。今日もすでに飲み疲れた状態になってきて、みんなはまだまだここで飲んでいくらしいが、自分だけ中座することにした。「またなー!」と送り出してくれた知人たちの中には私よりだいぶ年上の人も多く、みんな元気で酒が強くてうらやましかった。駅までの10分ほどの道のりをふらふらと歩きながら、めっきり酒に弱くなってしまった自分を感じて、少し寂しかった。