第23回:塩屋でチューハイをたくさん売る

ある火曜日。電車に乗って神戸・塩屋へ向かう。賑わう須磨の海水浴場が車窓から見えて、そこから少しで塩屋駅に着く。天気がいい。

IMG_8282.JPG

駅前でHさん、Yさんと合流して歩き出す。私が肩からかけているトートバッグの中には昨日、「シモジマ」で買った50個入のプラカップが二つ、計100個と、これも昨日の夜にスーパーで買って冷やしておいたレモン10個が入っている。

塩屋駅から歩いて数分の場所にある旧グッゲンハイム邸という洋館で『盆ボヤージュ』というイベントが開催される。そのイベントは今年で6回目で、毎年のお盆の恒例イベントとして、界隈の人たちには知られている。

私は2年前から、そのイベントでお酒やおつまみを出す「塩屋ハッピーマンデークラブ」の下っ端として声をかけてもらっており、去年も手伝いをして、今年はついに「一人で何かやってみませんか」と言ってもらった。でも実際、自分がそういう場で一人で何かができる気はせず、親しい飲み仲間にサポート役を頼むことになった。

それで今日、レモンチューハイを作ることになって用意(というほど大したものではないが)をしてきたのであった。

IMG_8284.JPG

旧グッゲンハイム邸に到着し、今日の我々のスペースとして割り当てられた2階へ。長机と椅子と、事前に仕入れてもらったキンミヤ焼酎が置かれていて、あとは開演時間まで慌ただしく準備を進める。

サポートメンバーのHさんとYさんと、焼酎をどれぐらいの濃さにするか、どんな流れで作っていくかなど、真面目に確認する。メニュー表なども作って貼って、バタバタしているうちにイベントがスタートした。1階には「盆ボヤージュ」ではおなじみのDJ陣がそれぞれに音楽を再生し、お客さんが気ままに踊っている。2階は休憩所のような雰囲気で、涼しくて椅子もあって座っていけるので、一休みしたい人が上がってくる。

「チューハイの酎や」と、ギリギリになって考えた屋号の我々の店に、割とひっきりなしにお客さんが来て、チューハイを注文してくれる。キンミヤ焼酎と炭酸水とカットレモンだけの、甘くない、すっきりしたチューハイ。「これ、すいすい飲めますね」と言って何度も飲みに来てくれる人もいた。

IMG_8288.JPG

サポートメンバーの一人であるHさんは、私がやっているバンドのメンバーでもある。住まいは東京にあるのだが、今回、タイミングがあって手伝いに来てくれることになった。Hさんと私はもともと会社の同僚として出会った。私のいた会社がHさんのいた会社に吸収されることになって、Hさんのいた大きな会社に対し、私のいた会社は人数も少ない。そうなると、こっちとしては、ちょっとした居候のような、「お邪魔します」と言いたくなるような心細い気持ちになるものだ。

私がそれまでいた会社とは比べ物にならない広いオフィスで、肩身の狭い思いをしているところ、Hさんは気さくに接してくれて、音楽の趣味も近いことがわかって、だんだん仲良くなった。オフィスは六本木にあって、近くの居酒屋はどこも高かったので、よく一緒にコンビニ前で発泡酒を飲んだ。

そんなつながりから、気づけば自分のバンドに入ってもらうことになり、当初いた会社からはお互いに離れたが、付き合いが長く続いている。

私はHさんと一緒に仕事をしていたことがあるからわかるのだが、Hさんは物腰が柔らかいのでみんなに頼られ、仕事を抱え込み過ぎて疲れ果ててしまうということをずっと繰り返している。それで仕事がストップすることを本人は申し訳なく思い、それが精神的な負荷にもなっているらしかった。

まったく仕事をする気のない、めちゃくちゃルーズな人が会社でうまくいかないのはわかる(私はまさにそのタイプだ)が、Hさんは仕事もできて、みんなの和を取り持つことができる人なのである。なのだが、そのコントロールがたまにうまくいかないだけで、本人が疲弊する。これは大変もったいないことではないか。コントロールがうまくいけば、とか、あるいは、もう少し全体の仕事量が少なくて済むような環境なら、Hさんも周囲の人も、気楽に働き続けられるに違いない。

そんな私の勝手な思いもあり、塩屋のイベントに声をかけてみたところもあった。私が塩屋で出会った人たちは、どこかみんな、悠々として見えて、実際そんな表面的な部分からはわからない苦労があるのかもしれないが、少なくとも、絶えず何かに追われ続けているような感じはしない。そもそも、そういう資本主義のスピード感のようなものから一定の距離をおくために塩屋にいる人もいるのではないか。

と、私が思っている塩屋で、Hさんも一緒にチューハイを作って、注文してくれるお客さんと冗談を言い合ったり、たまに1階に音楽を聴きに行ったりしているのは楽しいことだった。こんな場、こんな時間があることをたまに思い出してもらえたらと......まあそんなことまで考えるのは図々しいか。

仕事帰りに駆けつけてくれたKさんも加え、4人で作業を分担しながら頑張る。イベントは13時から21時半ごろまでの長丁場で、当初、我々は100杯のチューハイを作ろうと、それを目標値にしていたのだが、カップも焼酎も足りなくなって買い足し、予想以上の数になったようだった。最後は疲れ果てて、1階でDJを聴きながらゆらゆらと体を動かし、お疲れ様のビールで乾杯した。

一日、天気がずっとよくて、昼もそこまで暑くならず、夜は涼しくて庭に寝転んでいる人もいるぐらいだった。空にとんぼがたくさん飛んでいて、これは去年、同じイベントがあった時もそうだった。不思議なことに、とんぼたちはこの日だけいっぱい飛んで、その前後はあまりいないらしく、「音楽を聴きに集まっているみたいですよね」と言っている人がいた。また来年もこんな風に集まれたらなと思った。その時までみんな元気でいられたらいい。

IMG_8294.JPG