第27回:どこにも行かない
ある火曜日。朝から雨が降っていて、予報によると今日はずっとやまない、どころか、夜からさらに雨が強くなるかもしれないらしい。今日は外に出ずに過ごそうと決める。
腰を据えて取り組まなければいけない仕事がある。どちらも締め切りギリギリ(というか、一つは少し過ぎている)で、自分にとってはなかなか難しい仕事だからこそ、なかなか取り掛かれずに逃げていた。これ以上引き延ばすことはできないので、覚悟を決め、まずは片方から始めることにした。
いや、その前にまずは食事だ。昨日、また別の仕事の取材で徳島県三好市の大歩危というところに行ってきた。駅前にある「歩危マート」という小さな売店に、土地の特産品が色々売られていた。欲しいものがたくさんあって困ったが、その後の移動もあったので、小さなエコバッグに入るぐらいにとどめることにした。そこで買ったものの一つが「祖谷とうふ」で、縄で縛って持ち運べるほどに硬いことから、「岩豆腐」という異名もあるものらしい。一丁と半丁とが売られていて、半丁の方でもずっしりと重たかった。
それを冷蔵庫に入れてあったから、取り出して少し包丁で切って食べてみる。なるほどこれはすごい。硬めの木綿豆腐をもっともっとハードに塊にした感じで、水分があまり内包されていなくて、それ単体で食べるとちょっと口の中がもそもそとするような。風味は濃厚で、そもそも硬い豆腐が好きな私は「これはいい」とうれしくなった。普通に醤油やポン酢をかけて食べるより、たとえばオリーブオイルをかけるとか、何かと一緒に煮込むとか、なんというか、"潤い"をまとわせたくなる。
「祖谷とうふ レシピ」で検索したら、「この豆腐は麻婆豆腐にも最適だ」というようなことを書いている人がいた。それで「おっ」と思い、2食入りの1食分が残っていたインスタントの「皿うどん」(乾麺とスープの素がセットになったもの)にこの豆腐を使ってみるのはどうだろうと思った。同じく昨日、大歩危で買ったシイタケもあったし、もやしも冷蔵庫にあった。具材はこれで十分だ。
できあがった祖谷とうふ皿うどんは、やはり美味しかった。皿うどんの粉末スープに片栗粉が入っていてとろっとした感じになるので、それが硬い豆腐に潤いを与え、ちょうどいい。無心になって食べて、食べてしばらくしたら眠くなって、寝た。
1時間ほどで起きて、今度こそ仕事に取り掛かる。そこからは集中して作業できた。なんとか書き終えて、気づけば夕方になっていた。それで少し気持ちが軽くなり、いつもならここでお酒を飲みたくなるところだが、今日は休肝日にすると決めている。いや、実はその2日前も久々の休肝日にしていたので本当はお酒を飲んだっていいのだが、「火曜日は休肝日」と題した文章を書いていながら、ここ最近、あまりに火曜日に酒を飲み過ぎている。こうして毎週書いているからこそ、今日を休肝日にする気になった。続けていてよかった。
とはいえ、ただ水を飲んで過ごすのはあまりに寂しいので、近所のリカーショップまでノンアルコール飲料を買いに行くことにした。外に出てみると雨は思ったより強く降っておらず、あんなに暑い夏がようやく去ったのだと、噛みしめたくなるような涼しさだった。
リカーショップには色々な種類のノンアルコール飲料が売られているので、色々買う。ノンアルコール飲料にはアルコールが含まれていないから、グッと一気に飲めてしまう。なので最低でも4缶は必要だ。本当はもう5缶買っておきたいが、節約もしたいし、と、4缶で我慢することにした。
家に帰ってすぐさま一缶飲む。今日のうちにやらなければならないもう一つの仕事は、少し前にしたインタビューを記事形式にまとめるというもの。インタビューはICレコーダーに録音してあり、文字起こしまでは済んでいる。そのままの状態だと30,000文字近くあるものを、読みやすい形に整え、7,000字程度に収める必要がある。
私はいつもそうなりがちなのだが、人から聞いた話はどの部分にも意味があって(相手が色々と考えながら私に向かって話してくれたのだからそれは当然なのだが)、文字数を削るというのがとても難しい。どの部分を残してどの部分はカットするというようなことを、私が判断していいものなのだろうか。そんな権利が私にあるのだろうかと思いつつ、なんとか作業を進めていく。
思ったよりだいぶ時間がかかって、明け方に近い頃、ようやく作業が終わった。その原稿データをメールで送り、今日、自分ができるだけのことはやった。買ってきたノンアルコール飲料のうち、3缶は飲んでしまっていたが、あと1缶、冷蔵庫に入っている。自分へのご褒美にと、打ち上げ気分で飲む。よく冷えていて、炭酸が爽快で、うまい。休肝日はいつも夜が長くて退屈なのだが、今日は疲れたし、眠気も感じている。あとはこれを飲んで寝てしまえば、明日になって、明日になれば酒が飲める。
