第28回:姫路のハモしゃぶ

ある火曜日。昨日を休肝日にしたから、たっぷり寝たのにまだ眠い。これはもしかしたら自分だけなのかもしれないが、休肝日の翌朝はやけに眠たいのだ。一見、逆っぽい。「昨日、酒を飲まなかったから寝覚めがよくて朝から元気だ!」と、そうなりそうなものなのに、酒を抜いた翌朝の方が体が重たいのである。これはどういう理屈なのだろう。体の方が「昨日はアルコールが体内に入ってこなかった。これは貴重な機会だから、このタイミングであちこちを休ませよう」と判断し、私を眠らせようとしているのだろうか。けなげな体。

しかし私は起き上がり、ノートパソコンの前に座る。今日、姫路に飲みに行く約束があり、そのために昨日を休肝日にしてあったのだ。私が住む大阪から姫路までは電車で1時間少しかかり、運賃は片道1500円ほど。大阪から神戸の三ノ宮あたりまで飲みに行くのは気軽なのだが、姫路はちょっと遠く、小旅行という気分になる。だから本当なら早い時間に姫路に行って、街を散策したり、前から気になっているお店を訪ねたりしたかったのだが、どうしても先にやっておくべき仕事があった。

思った以上に時間がかかり、仕事がやっと片付いて家を出て、姫路に着いたのはちょうど待ち合わせの時刻だった。飲みの場に誘ってくれた友人はすでに目的地の店に入っているらしかったので、そこへ向かう。「あけぼのストア」という店である。

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この店は、なんと形容したらいいのだろう。昔ながらの、食料品や生活用品などを販売するような街の売店、今でいうところのローカルスーパーの古い版みたいな、そういう雰囲気の店なのだが、店内にテーブルと椅子があって、お酒を飲むことができる。売店版の角打ちというか。

客は店内の冷蔵ケースから瓶ビールや缶チューハイなどを取ってきて自分のテーブルへ運び、そこで飲む。最後に空き瓶や空き缶の数を集計してお会計となる。それとは別に、店内にはパック入りの惣菜やスナック菓子などの乾きものも売られているから、それをつまみにしてもいい。近くの会社に勤めている人たちが仕事帰りに寄って乾杯していくような店である。それでいて街のマーケットでもあるから、普通に野菜とか飲み物とかを買って帰る人もいる。

それだけでも独特な店なのだが、さらに面白いことに、予約をすると鍋料理を食べることができるのだ。店主はかつて鮮魚店で仕事をしていたそうで、そのツテゆえか、新鮮な魚を仕入れることができ、それで鍋を作ってくれるのである。

私がこの店に初めて行った数年前、「いい店だなー」と思って飲んでいると、近くの席に鍋を囲んでいるグループがいた。「あれは何だろう」と気になって、しばらくして店主に聞いてみると、事前に予約してあれば提供できるのだという。当然、その日の私は予約などしていなかったのだが、店主は優しい方で「ほんの少しなら余っている材料があるけど、よかったら食べてみますか?」と言ってくださった。

それで出してもらったのがハモ鍋で、それがこの店の名物らしい。初夏から晩夏まで、たまに仕入れができない時を除き、予約さえすればだいたいは食べられるそう。ハモの骨の表面を焼いて、それで出汁を取り、ハモの身をしゃぶしゃぶにして食べる。それ以外の具材は、玉ねぎ、しめじ、豆腐、水菜ぐらいで、シンプルである。鍋料理の専門店ではない、というか、そもそも料理屋でもないから、あくまでお酒のつまみとしての鍋という感じだ。

とはいえ、黄金の出汁でいただくハモしゃぶなんて、とても贅沢なものである。私はこの店で初めて食べた。

そのハモ鍋を今日は友人が予約してくれて、友人のSさんと、その友人で今日初めて会うMさん、そして私という3人で食べようというのだ。SさんとMさんは大の相撲好きで、テレビ近くの席を取って、相撲中継に見入っている。相撲に疎い私だが、瓶ビールを飲みながらなんとなく見ているだけで楽しい。

しばらくして店主がカセットコンロと鍋を運んできてくれて、自ら丁寧に骨切りをしたハモの身と、その他の具材ののった大皿も、テーブルの上にやってきた。

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あとはセルフスタイルで、出汁が沸騰したところでハモの身をしゃぶしゃぶとして食べたり、具材を入れたり、自由にやる。

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そもそも出汁がとんでもなく美味しいのだが、それで煮込んだ玉ねぎがまた極上である。ハモの身はふわふわと柔らかく、サッと煮る程度にしないとほろほろ崩れてしまうほどだ。感動的にうまい。そしてその美味しいハモが、皿の上に相当たっぷりある。鍋にはさらにハモの天ぷらがセットになっていて、そっちはそっちでまた美味しい。

相撲を見ながら、ゆっくりとそれらを味わい、なんと優雅な時間だろうと思った。鍋の中が空になると、最後には締めのそうめんが出てくる。この辺りのご当地そうめんである、揖保乃糸だろうか。それがまた、出汁に馴染んで最高なのだ。もともと美味しかった出汁が、しゃぶしゃぶしたハモと、野菜などから溶けだした旨みによって、より味わいを濃くしている。

すっかり満喫して、店を出たのが19時半。まだ夜は長い。ライトアップされた姫路城に見とれながら歩き、次に行く店を探した。

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