第31回:至福の通帳繰り越し散歩

ある火曜日。普段使っている銀行口座の通帳が少し前にいっぱいになった。「こういう時は窓口に行かないといけないんだろうな、面倒だ」と思ってしばらく放置していたのだが、検索してみると、大きなATMコーナーには通帳自動繰り越し機みたいなものが設置されていて、そこで簡単に新しい通帳に切り替えられるらしい。

その繰り越し機のあるATMコーナーは、たとえば大阪の梅田に行けばあるそうで、家から電車に乗ってもそんなに遠くないから、そこでもよかった。が、私の住まいから30分ぐらい歩けば着く駅の近くにも設置されていることがわかった。

自動の機械ですぐ処理が完了するとはいえ、そこまで行かなければならないのは、まあ、面倒には変わりない。しかし、今、大阪はようやく涼しくなって、割と晴天が続き、日中に散歩するのが好きな私にとってはこの上なくいい気候なのである。どうせ何もなくたって散歩するのだし、そこに目的が一つ加わって、やりがいがある。

家の近くを流れる川の、その流れに沿って長く続く遊歩道を歩いていけば目的の駅まで行くことができる。今日は休肝日にすると決めているので、まずは大型のリカーショップに立ち寄り、ノンアルコールビールを何缶か購入した。それを飲みながら、よく晴れた空の下、川沿いの道を歩く。

こんな気候がいつまでも続いてくれるなら、多少憂鬱なことがあってもなんとかやっていけそうなものだ。川面を眺めていると、いつもこの川で見かける大学のカヌー部のカヌーや、船舶免許の講習中らしいボートや、水陸両用の観光バスがすいすい進んでいく。

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水陸両用バスには何度か乗ったことがあって、その時の楽しかった記憶が、車両を見ることで思い出された。陸から川にバシャーンと突入していく瞬間が派手でいいのだ。

大阪に生活の拠点を移すことになって、最初に住むことになったのがこのあたりだっただけで、私は大阪の土地勘もなく、大阪のエリアごとの特徴もほとんど知らずに来たのだが、大川という川が近くを流れているというだけで本当にありがたい。

気分が落ち込んでいても、川べりを少し歩くと気が休まるのだった。しかもその大川を上流の方に歩けば淀川の河川敷のだだっ広い景色が眺められるし、下流の方へ進めば大阪城公園もすぐ近くだ。大阪の市街地には緑が少ないとよく言われるのだが、この辺りは自然環境に恵まれている方だと思う。

京阪電車の天満橋駅が近づいてきて、その駅ビルにATMがあるから、まずはそこで今日の課題を済ませてしまう。通帳自動繰り越し機に通帳を入れ、しばらくしたら新しい通帳が出てきた。開いて見てみると、この前の週末、土曜の夜間にコンビニでお金を9000円おろして手数料が200円ぐらい取られていて、その9000円は飲み代ですぐになくなってしまい、日曜日にまた1万円おろして100円ほど手数料を取られている。足りなくなることを見越して、土曜の夜間の時点で2万円おろしておけばいいものを、なんかケチケチして、結局損をしている。そんな自分の愚かさがしっかり刻印された通帳を手に、再び外へ出た。

どこかで昼食をとろうと思っていた。最近は昼ご飯代をずっと節約してきたから、たまには外食をしてもいいだろう。天満橋駅に直結しているOMMビルという建物があって、以前、大阪の文学フリマが今ほど大きな規模で開催されるようになる前、そこが会場になったことがあった。私はそこにブースを出して、その帰り、地下の飲食店街で生ビールを飲んで打ち上げをした。

その時に歩きながら、「ほおー結構色々な飲食店が並んでいるんだな」と、いつかゆっくり食事しに行こうと思っていたのだった。そこへ行ってみることにした。

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フロアマップを見て第一候補にしていた「味千拉麺」は、店の前に行ってみたら臨時休業中だった。一度頭をリセットして、フロアをぐるぐると何周かしてみる。頑張って選択肢を二つまで絞った。「酒房 百番」という店のサービスランチ「へれかつ丼+うどん又はそば」のセットが700円だというのでそれか、あるいは、「KOREAN BISTRO SO」の「韓ラーメンnabe定食(日替り前菜三種・国産十穀米・キムチ付き)」が1000円だという、そのどちらかにしよう。

二つの店の前を何度も行ったり来たりする。「酒房 百番」の方はえんじ色ののれんが渋くて、ちらっとのぞいた店内も大衆酒場っぽい雰囲気で、自分にはなんとなくこっちの方が似合いそうだというのはわかる。きっと落ち着くいい店だろう。しかし、「自分に似合うって、なんなの?」という、自分的にありそうな方に引っ張られていることに抗いたい気持ちが湧き起こってきた。それで「KOREAN BISTRO SO」へ。

惣菜三種も、牛骨でダシをとっているというラーメンもすごく美味しい。ステンレスの箸で食べるからまた美味しい。

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いい昼ご飯になった。すっかり満腹になってまた川沿いを歩く。キンモクセイの香りがどこからか風に吹かれて私のところまで来る。秋だな。こんな気持ちのいい気候は、一日たりとも無駄にしたくない。きっとあっという間に終わる秋の日を、できるだけ大事に味わいたいと思いながら、ゆっくりと帰り道を歩く。