【今週はこれを読め! SF編】超高温の地球、体内でダイヤを育てる民〜関元聡『摂氏千度、五万気圧』

文=牧眞司

  • 摂氏千度、五万気圧
  • 『摂氏千度、五万気圧』
    関元 聡
    早川書房
    2,530円(税込)
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 第十三回ハヤカワSFコンテスト優秀賞受賞作。関元聡はすでに日経「星新一賞」グランプリを二年連続で獲得している注目株だ。同賞は一万字以内という枚数制限があるので、こんかいのコンテスト(規定は400字詰め100〜800枚)受賞で、長篇作家としての実力を示したことになる。

 舞台は温暖化が著しく進行した未来の地球。地表の平均温度は五、六〇度で、季節によっては八〇度に達する地域もある。外での活動には断熱スーツが不可欠だ。森には赤い植物群が繁茂し、異形の獣たちが棲息する。

 人口は激減し、生き残っている人間は、コクーンという完全閉鎖環境のカプセル都市で暮らしている。コクーンは、かつて宇宙から地球を訪れた謎の存在〈救済者〉が遺していったもので、全世界に四十七基ある。

 作品全体は三つのパートが並行して進む。

「アサヒ」のパートは、〈結晶の民〉が暮らす島の物語で、一族の娘アサヒの視点で綴られる。〈結晶の民〉は外見も生活も意識も人間とほとんど変わりないが、超高温化した地球で生身で暮らせる点が違う。彼らは女性だけの種族で、生まれ落ちた瞬間から体内でダイヤモンドを育てはじめる。本書の表題『摂氏千度、五万気圧』は、通常、ダイヤモンドが生成する状態に由来する。ただし、〈結晶の民〉の体内でいかなる機序が働いているかはわかっていない。

「エリー」のパートは、バンクーバー・コクーンのアカデミーで学んだエリーが主人公だ。彼女は、まず研修生として調査遠征に参加する。四十七基あるコクーンのうち、いくつかと通信が途絶していた。調査隊は現地を訪れ、なにが起きたかを探るのだ。また、バンクーバーでは、火星への移住も検討され、そのための技術開発も進んでいる。このままでは地球に未来はないという判断だ。

「ユズリ」のパートは、人間に奪われたものを取り戻すべく、世界をめぐるユズリの物語だ。彼女は〈結晶の民〉だが、いまは島を離れて独りで行動しており、人間に強い復讐心をいだいている。

 読み進めるうちに、「アサヒ」「エリー」「ユズリ」のパートは同時ではなく、時代的に前後があるとわかってくる。出来事の因果がどうつながっているのか、それが徐々に見えてくるよう作品は構成されている。

 それぞれのパートにおける主人公への感情移入は別にして、SFのシチュエーションに着目して読むと、物語を大きく牽引する謎はつぎのふたつだ。

1)〈救済者〉がコクーンを遺していった目的・動機。

2)〈結晶の民〉の正体・出自。

 さらに物語進行においては、「エリー」パートで語られる火星移住が重要な意味を持ってくる。すべてのピースがキッチリと結びつくクライマックスがみごとだ。コンテストの選評では、選考委員の小川一水氏は「悲観と諦念がにじむ結末」と述べ、菅浩江氏は「スケールが大きく綺麗なラスト」と評している。いっけん逆の感想のようだが、実際に作品を読んでみれば、これが食い違うものではないことがわかる。

(牧眞司)

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