【今週はこれを読め! SF編】死と暴力の暗黒神話〜キアヌ・リーヴス&チャイナ・ミエヴィル『再誕の書』

文=牧眞司

  • 再誕の書
  • 『再誕の書』
    チャイナ・ミエヴィル,キアヌ・リーヴス
    河出書房新社
    4,290円(税込)
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 チャイナ・ミエヴィルは『都市と都市』『言語都市』などの傑作で、現代イギリスSFを牽引する実力作家のひとり。パルプ小説的意匠を現代感覚でブラッシュアップする「ニュー・ウィアード」という流派の代表格である。そのミエヴィルの新作は、なんと名優キアヌ・リーヴスとの合作だ。

 リーヴスは子どものころからコミックの大ファンであり、自分自身のアイデアとして「不死身の戦士」のキャラクターと世界観を温めてきた。それが作品として結実したのは2020年。リーブスとマット・キントが制作・執筆、ロン・ガーニーがイラストを担当したコミック・シリーズ『BRZRKR』がスタートしたのだ。このシリーズを小説化するにあたって、リーブスは自身が愛読していたチャイナ・ミエヴィルに依頼。本書の巻末に掲載された堺三保氏の「解説」によれば、「リーブスはミエヴィルが大物作家過ぎて断られるのではないかと不安だった」という。しかし、ミエヴィルはこのオファーを受け、リーブスからは基本的な設定と大まかなあらすじを提供、あとはミエヴィルが自由に執筆をおこない、本書が世に送りだされた。

 主人公は、半人半神とも言うべき神秘を背負った戦士ウヌテ、通称"B"(バーサーカーのB)。彼は驚異的な再生能力を有している。殺されることも、事故などで死ぬ場合もあるのだが、そのたびに不思議な卵が出現し、そのなかから再生するのだ。また、ウヌテは戦闘中に制御不能な殺戮モードに入ると、すべての意識が飛んでしまう。

 すでに八万年も生きつづけている彼にとって、人生は呪いのようなものだ。しかし、彼は言う。「おれは死にたいわけじゃない。求めているのは"死すべき運命(モータリティ)"であって、それはまったく別のことだ」。これがこの作品の基調をなす。

 いま、ウヌテはアメリカの特殊部隊〈ユニット〉とともに仕事をしているが、おとなしく〈ユニット〉のルールや命令に従うわけではなく、自分の考えでしばしば単独行動をおこなう。いっぽう、〈ユニット〉にとってウヌテは味方というよりも、研究対象なのである。彼の不死性を突きとめること、その価値は計り知れない。

 作品全体は、次の三つのパートが並行して語られる。

(1)現代パート......三人称。ウヌテと〈ユニット〉に降りかかる超常的な事件と暴力。〈ユニット〉によるウヌテの不死性の研究。

(2)過去パート......一人称。それぞれ独立したエピソードで、「医師」「召使い」「妻」「密航者」「孤児」がウヌテとのかかわりを物語る。エピソードによって時代はまちまち。

(3)大過去パート......二人称。有史以前の世界を舞台に、ウヌテの放浪が描かれる。文中「おまえ」と呼ばれるのがウヌテである。

 エピソード単体で見ると、過去パートの各話が、それぞれ完成した短篇小説の出来映えだ。とくに「密航者の物語」は、いぶし銀の冒険小説として印象に残った。

 いっぽう、SFの展開としては、現代パートにおいて、ウヌテの不死性にまつわる謎(それは彼自身も知らない)と、ウヌテと拮抗する勢力の正体が、しだいに明かされていくのが読みどころである。もう一体の不死身の存在として、バビルサ(凄まじい牙を持つイノシシ)が登場し、ウヌテと奇妙な引力で結びつく。それも含め、ミエヴィル流「ニュー・ウィアード」の外連に満ちた演出と、ビザールにしてハードボイルドな雰囲気が、これでもかとばかりに堪能できる。そのメインストーリーに、過去パートや大過去パートで示された要素が有機的に絡んでくるという、たいへん凝った構成だ。死んでもまた甦る超人的な主人公、彼すらコマにすぎない超越的な二大勢力の拮抗という、めくるめく構図は、A・E・ヴァン・ヴォークト『非Aの世界』を彷彿とさせる。

 ちなみに、コミック版の『BRZRKR』は近々、早川書房より邦訳が刊行される。実写映画やアニメの企画も進行中だという。

(牧眞司)

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