【今週はこれを読め! SF編】さらりとした奇想から現代テーマのSFまで全十二篇〜キム・イファン『おふとんの外は危険』

文=牧眞司

  • おふとんの外は危険 (竹書房文庫 い 6-1)
  • 『おふとんの外は危険 (竹書房文庫 い 6-1)』
    キム・イファン,関谷敦子
    竹書房
    1,760円(税込)
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 キム・イファンは韓国の現代作家。レイ・ブラッドベリ『火星年代記』に感銘を受けて作家を志し、インターネットで作品発表を開始した。長篇小説は2004年から現在まで十を超える数を出版しているが、単著の短篇集は本書がはじめてだという。

 表題作「おふとんの外は危険」は、目覚めたとき、冬用ふとんがしゃべりだすところからはじまり、主人公が行く先々で、さまざまなものが話しかけてくる。とぼけた味の奇想小説で、さらりと面白い。

「Siriとの火曜日」は、うってかわって現代的なSF。音声サービスAIのSiriが実体のあるアンドロイドに実装されることになり、主人公のハジュンはそのテストモニターをつとめる。Siriはネットワークにつながっており、ハジュンがSNSにあげた些細なことまで参照、それに膨大な情報を組みあわせて推測し、的確な助言や提案をしてくる。それは痒いところに手が届くというレベルを超えており、薄気味悪いほどだ。逆に、ハジュンとのやりとりから得たリアルな個人情報も、現在進行形でネットに吸いあげられているということになる。真綿で締めるような監視社会にフォーカスした物語だが、ハジュンはSiriの機能を知ったうえで、ある行動に出ており......というミステリ的な仕掛けが凝らされている。

「君の変身」も一級品のSF。身体改造というフィクションでは古典的題材だが、医療技術が発達した現代社会では切実にしてデリケートな問題に、真っ正面から挑んだ作品だ。外科的回復手術、身体機能の過剰な追加、趣味的な器官切除、そのほか倒錯的な目的、臓器交換、美容、ジェンダー......ラディカルなシミュレーションが次々に繰りだされ、どうやっても倫理が追いつかないさまが炙りだされる。

「#超人は今」は、ソウル区内に忽然とあらわれ、ピンチに陥ったひとびとを救い、悪人を懲らしめる超人の物語。超人はスーパーヒーローとして崇敬を集めるが、その正体はまったくわからない。語り手の僕は、超人を目撃した人物の証言を集めながら、その実態を探っていく。もしかすると、超人は正義をおこなっているのではなく、そもそも人間のことがわかっておらず、超人なりの行動原理で動いているのかもしれない。いずれにせよ、超人がおこなっているのは超法規的行為であり、社会はそれにどう対処すべきかという議論も浮上する。ちょっと不条理な雰囲気さえ漂う傑作だ。

 そのほか、星新一の初期作品を思わせる皮肉なオチの「運のいい男」、メタフィジカルな展開の「万物の理論」、淡い情緒が尾を引く「透明ネコは最高だった」など、全十二篇。

(牧眞司)

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