【今週はこれを読め! SF編】ダンジョン攻略、目からビーム!〜マット・ディニマン『冒険者カールの地球ダンジョン1 宇宙人襲来! 飼い猫とダンジョンに放りこまれたんだが?』
文=牧眞司
まったく肩の凝らない娯楽SF。ヒロイン役の猫(名前はドーナツ)が人間の言葉を喋り、戦うときには目からビームを出すなんていうかなりチープな設定だが、それもまた味わいになっている。ちなみにドーナツの台詞に「にゃ」が入るのは、邦訳版だけの特別仕様だ。訳者である中原尚哉氏のはからいである。
もともとは作者マット・ディニマンが自費出版で発表。それが好評を博し、SF読者にはお馴染みの老舗エース・ブックスからの商業出版がはじまったという経緯がある。シリーズ化されており、原書は現在七巻にまで達し、映像化企画も進んでいる。
地球人類が一瞬にして壊滅するところから物語の幕が開く。屋内にいた者は建物ごと潰されたのだ。建物だけではなく、地下鉄、自動車など、屋根があるものはすべてアウト。屋外にいた人間だけが助かった。主人公のカールもそのひとりである。同棲していた彼女の飼い猫ドーナツが気まぐれで窓から飛び出してしまい、それを連れ戻すため、あわてて外に出たところだった。夜中の急事だったので、まともな格好はしていない。下はトランクスのまま、上に皮ジャンを引っかけ、足にはガールフレンドの小さなクロックスを履いている。どう見ても不審者だ。
建物がみなペシャンコになった光景に唖然としていると、「生き残った人類はよく聞け」という声が響く。脳内に直接伝えているようだ。そこで事情が明らかになる。宇宙のシンジケートの取り決めに人類が従わなかったため、この処置がおこなわれた。人類はその取り決めなど知るよしもないのだが、シンジケート側は確かに通告をしたと主張する。なんのことはない、『銀河ヒッチハイク・ガイド』の地球破壊と同じロジックだ。
生き残った人間に与えられた選択肢はふたつだけ。ひとつは地上にとどまり、ほそぼそと自活する道。もうひとつは、地球ダンジョンへの挑戦。なんだかわからないが、このまま地上にいてもジリ貧だろう。第一、いまは冬空、トランクス姿ではこごえる。カールはえいやとばかりダンジョンへ突入した。
地球ダンジョンは、宇宙人が地球の地下に建造した全十八層で、一層ごとに制限時間が決まっており、その時間内に下の層への階段を見つけなければならない(時間が過ぎるとその階層は破壊される)。襲ってくるさまざまなモンスターとの戦い、活躍に応じたスキルアップ、条件クリアによるアイテムの獲得......と、ゲームさながらである。
それもそのはず、宇宙人はかねてより地球文化を研究して、人類に馴染みのあるダンジョンを構築したのだ。ドーナツが言葉を喋りだすのも、ゲーム的な仕様といったところ。しかも、ドーナツのステータス(筋力・知性・体力・敏捷・カリスマ)は、総じてカールより上だ。カールはすっかり従者扱いである。
第一層に入ったプレイヤーの総数は一三〇〇万人。それが見る見る減っていく。ドーナツとカールは協力してピンチを乗り越えていくのだが、その場面場面で両者の性格の違いがあらわれてくる。ドーナツは情け容赦がなく、人道に反することも躊躇しない。ケモノだからヒトの倫理は通用しないのだ。いっぽう、カールはタフ(元沿岸警備隊の偉丈夫、年齢は二十七歳)だが、お人好しな面がある。物語的には絶妙のバランスのコンビである。
ドーナツのお高くとまったところとか、カールのちょっと皮肉っぽいあんちゃんの感じとかも面白い。また、トリヴィアルな設定として笑えるネタも随所に仕込まれている。たとえば、ダンジョンを取り仕切っているAIがなぜか足フェチらしく、敵と戦う戦術として踏みつぶしスキルを好み、カールがアイテム獲得チャンスをゲットしてもいっこうにまともな靴が手に入らないのも、そのせいじゃないか、とか。
凶悪なモンスターや思いがけぬトラップ、味方のふりをして近づいてくる剣呑なプレイヤー、協力して先へ進むためのパーティの結成といった、ゲームの定番もキッチリ押さえられている。また、プレイヤーの動向はリアリティーショーとして銀河に配信されており、いかに視聴者からの反応を得るかも、プレイヤーの勝ち残りにおいて重要となる。そうしたバカバカしさが、作品のユーモラス成分を倍増させている。
ともあれ、ドーナツとカールの地球ダンジョン攻略はまだ序の口。この書評が公開されるころには、新たな冒険を描く続篇『冒険者カールの地球ダンジョン2 銀河生配信! デスゲームでめざせフォロワー爆増』が刊行されているはずだ。
(牧眞司)



