【今週はこれを読め! SF編】南部の町が隠しつづけた謎と戦慄〜エミリー・カーペンター『ゴシックタウン』
文=牧眞司
すでに映像化がはじまっている話題作。『ゴシックタウン』というタイトルが直球だ。アメリカ文学には南部ゴシックという系譜があり(とくに有名なのはウイリアム・フォークナー)、南部特有の閉鎖的な社会・文化を背景として、グロテスクな物語が展開される。ちなみに本作品の作者エミリー・カーペンターは、南部の州のひとつアラバマの出身。物語の舞台となるジュリアナは、隣のジョージア州の町という設定だ。
主人公はビリー・ホープ。ニューヨークでレストランを経営していた三十代の女性で、心理カウンセラーの夫ピーターと、まだ幼い娘のメレディスと暮らしている。コロナ禍によるシャットダウンによって、繁盛していた店は二年前に閉店。コロナが収まった現在、彼女のもとに、ジョージア州ジュリアナという町から移住勧誘のメールが届く。たった百ドルで居宅が手に入り、起業の支援もしてくれるという。ジュリアナは、新しい住民を獲得するためのプログラムをおこなっているのだ。
熟考の末、ホープ一家はジュリアナへ移住する。牧歌的な環境で、住民たちもおおむね温かく迎えてくれ、ビリーの新しいレストラン事業も順調なスタートを切る。
そのいっぽうで、気がかりなこともいくつかあった。
噂によれば、家の近辺に蓋がされていない井戸があるらしい。しかし、ピーターがいくら探しても、そんな井戸は見つからない。
ビリーは悪夢にうなされる。子どもたちが身を寄せて泣いていると、闇の中から老婆が立ちあらわれ、「やつらは......あなたから......何を奪った?」と言うのだ。不思議なことに、同じ夢をメレディスも見たという。
ビリーの新しいレストランは店名をニューヨーク時代と同じ「ビリーズ」とするのだが、そう決まる前の検討段階で、メレディスが提案したのが「ロタリー(Lottery)」である。怪奇小説や奇想小説の読者なら、ここで膝を拍つだろう。シャーリイ・ジャクスン「くじ」の原題が"The Lottery"である。小さな町の奇妙な風習を扱った超有名短篇だ。カーペンターはジャクスンに敬意を表しつつ、読者に目配せをしている。ただし、メレディスが口にしたLotteryは、使っていない寝室にあった古い本で見つけたもので、その内容は「くじ」ではなく「土地抽選会」だ。その昔、アメリカ連邦政府は先住民からすべての土地を取りあげ、白人の入植者に分けていたのである。
見つからない井戸、母と娘が見た同じ内容の悪夢、不穏なLottery......これだけ揃えば、ゴシック小説のお膳立てとしてはじゅうぶんだろう。いよいよ恐怖の本篇がはじまると、読者は身構える。
戦慄への序曲が、ホープ家の飼い猫ラムジーの変調だ。しばしば家の外に出て行くようになり、獲物を獲ったり、怒りっぽくなる。そんなラムジーの様子を見て、メレディスは「その子、カタワンパスになっちゃったの」と言う。カタワンパスとは聴き慣れない言葉だが、南部の古いスラングで、「ねじれた」「めちゃくちゃな」という意味だ。
その後、ビリーとピーターのあいだに溝ができ、ピーターが家を出て戻らなくなる。また、この土地にある金鉱をめぐる噂や、製材所で発見された古い遺体などの謎が浮上する。こうしたビリーの身のまわりやジュリアナの町のあれこれが、しだいに不穏な空気をまとわりながら恐怖の核心へと集束していく。
そして、現在進行形の物語に挟まるように、過去へと遡るエピソードが挿入される。そこで語られるのは、ジュリアナの創設者である八家のうち、有力なミネット家、クリーバーン家、ダルゼル家の三大名家の暗い歴史だ。読者はビリーがまだ知らない、ジュリアナの背景にふれることになる。これら挿話のなかで衝撃的なのは、あたりまえのように「生贄」という言葉が出てくることだ。
気の早い読者は「作者本人が盛大にネタ明かししているじゃないか!」と嘆きそうだが、それほど単純な仕掛けではないのでご安心を。
(牧眞司)


