【今週はこれを読め! SF編】地下をめぐる龍、空に戻る日は来るか?〜馬伯庸『ドラゴン・メトロ--地龍鉄道--』

文=牧眞司

  • ドラゴン・メトロ―地龍鉄道―
  • 『ドラゴン・メトロ―地龍鉄道―』
    馬伯庸
    早川書房
    2,750円(税込)
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 現代中国エンターテインメント小説において、読者から絶大な支持を集めている馬伯庸(マー・ボーヨン)による、改変歴史ファンタジイ。舞台となるのは、牛筋皮をゼンマイのように巻いて動力とする飛行機などのテクノロジーが発展するいっぽうで、法力を使う道士も存在する、もうひとつの唐朝の長安だ。この都における重要な交通インフラの地下鉄は、龍がその身体を用いて乗客を運ぶシステムである。四方八方に張りめぐらされた地下隧道を往き来する龍! このイメージが、なんとも凄まじい。

 主人公の哪吒(なた)は好奇心旺盛な十歳の少年で、李靖(りせい)大将軍の息子だ。彼はふとしたきっかけで、龍の一体と知りあい、甜筒(キャンディ)と名づける。地下鉄として利用されている龍は、甜筒だけではなく何頭もおり、それぞれに個性を持っている。哪吒と龍たちの交流が、なんとも微笑ましい。溌剌としたジュヴナイルSFの味わいだ。

 龍たちはもともと高い空を速く飛翔する生き物だが、いまは地下で奴隷のように使役されている。その実状を知った哪吒は、彼らを解放してやりたいと考える。しかし、当の龍たちは閉ざされた地下で過ごす毎日のなか、自由を求めて人間に抗う覇気を失っているのだ。

 もちろん、龍は最初からそうだったわけではない。人間に捉えられたときには抵抗し、恨みのあまりわが身から一片の鱗を引き抜くほどだった。その鱗が積み重なって発生するのが、孽龍(げつりゅう)という空を舞う魔物だ。これまで長安は幾たびも孽龍の群れの襲来を受けており、飛行部隊がそれを退けてきた。しかし、地下鉄網の発達によって使役される龍の数が増えたことで、孽龍の発生頻度が増え、またその力も強くなっている。

 孽龍対策に関しては、合理的な軍事の専門家である李靖大将軍と、神秘的な技の伝承者である清風(せいふう)道士とのあいだで軋轢があった。哪吒と龍たちの物語と並行して、李靖を出しぬこうと画策する清風の暗躍が進んでいく。それらが入り組み、哪吒は何度となくピンチに追いこまれる。そのあいだに孽龍の襲撃があり、読者はページを閉じる暇がないほどだ。ぐいぐい読ませる。さすが馬伯庸だ。スチームパンクならぬ牛筋皮パンクの意匠や、『封神演義』の流れを汲む志怪小説的なスペクタクルも興を添える。

(牧眞司)

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