【今週はこれを読め! エンタメ編】新川帆立『魔法律学校の麗人執事 1』がめっちゃ面白い!
文=高頭佐和子
エリート魔法学校が舞台?
主人公の女子が男装して男子寮で生活?
オレ様系御曹司の執事に?
聞き覚えのある設定がテンコ盛りだ。そういうの嫌いなのか?って聞かれたら、まあそれなりに好きだったりしたこともあったわけですが、今は胸キュンとかは別に求めてないしねえ、読まなくていいかなというのが正直なところだ。だが、そこに「著者が新川帆立氏」という情報が加わると、脳内が混乱する。法律に対する超高度な知識を持つ人気ミステリ作家が、なぜときめき要素爆盛の学園ファンタジーを? よく見ると、タイトルは「魔法学校」じゃなくて「魔法律学校」だ。魔法律って何よ? まずは冒頭だけでもという気持ちで読み始めたのだが......。おいおい「読まなくていい」って誰が言った? めっちゃ面白いではないか!
野々宮椿は、女子修道院で育った孤児の中学生だ。スポーツテストは全国1位で、全国模試でも1位、筋肉質で高身長、正義感が強く面倒見が良くストイックで、家事もこなすスーパー中学生である。クリスマスの日、クラスメイトの本田くん(わかりやすくクソ野郎)に自宅パーティに誘われる。よく思われたい椿は、頼まれるままにひとりで汚い部屋の掃除やら参加者全員分の料理やら後片付けを完璧にこなす(いやいや、やらなくていいでしょ?)が、告白したところ「どうしても女に見えない」「男前すぎる」という理由で振られてしまう。
なんだコイツは、何様だ? 成敗して気分をスッキリさせたいところだが、傷ついた椿はひとり河川敷にうずくまって泣く。「女やめる!男になってやる!」と叫んだところ、変なおじさんが現れる。日本で一番有名な「魔法律一族」条ヶ崎家の当主を名乗り、日本一優秀な十五歳である椿に、執事になってほしいのだという。「息子と一緒に魔法律学校に行って、あいつを助けてやってほしい」と言われ、椿は契約を交わしてしまう。
なぜ話に乗ったのかといえば、エリートはみな魔法律学校出身なのだ。ずる賢い悪魔と契約をし、魔法を使えるようになるためには、法律を学ぶことが必須とされている。魔法律学校には出自の良いものしか入学できず、椿のような庶民は通えないはずなのだが、条ヶ崎家の推薦があれば入れるし、財政難に苦しむ修道院を救えるだけの報酬も約束するという。覚悟を決めた椿は長い髪を切って男装し、男子としてご主人様である条ヶ崎マリスに仕え、同じ部屋で暮らすことを承諾する。
童話の世界から抜け出してきたように美しく、傲慢で俺様な「魔法の天才」マリス。条ヶ崎家のライバル一族の出身で、なぜか椿に関心を持つミステリアスな「氷の王子様」伊織。トップクラスの魔力量を持ち、自分の欲望のためには他人を利用して傷つけることも厭わない美少女スミレ。椿は、キャラの立った登場人物たちに翻弄されつつ、女子であるということを隠しながら、知力と身体能力と精神力で日々を生き延びていく。
魔法を独占するエリートたちと使えない庶民たちが分断されている社会、悪魔と契約する人間が力をつけてきた歴史、魔法における契約の重要性などの設定が面白い。現実離れしつつも、実際の歴史や現代社会の仕組みと歪みがあちらこちらに投影されている。学園では「魔力量」がものをいう。女子は格上の結婚相手を見つけようと必死だ。魔力量トップの天才・マリスは当然モテモテだが、めちゃめちゃ偉そうでイラッとさせられる。椿に対しても、傲慢そのものの振る舞いをするのだが、「俺は神に愛された男だ」とか自分で言っちゃうあたりが滑稽でもある。どういうわけなのか、魔力量ゼロの椿は、魔法関係の授業には全くついていけない。生徒たちからも見下され冷たい仕打ちを受けるが、決してへこたれず、持っている能力を使って反撃する姿がかっこいい。そして、時々見せる乙女な部分は愛おしい。椿様......惚れました。
職務は懸命に果たしつつも、時には契約も盾にしつつ従順に振る舞わない椿と、ただの俺様ではない部分を徐々に見せてくるマリスとの関係が、変化していく様子にドキドキしつつ、あっという間に読み終わってしまった。ファンタジーやライトノベルはあまり読まないという方にも、ときめきは求めていない方にも、お楽しみいただける小説だ。10月発売予定の第2巻が、今から待ちきれない!
(高頭佐和子)