【今週はこれを読め! エンタメ編】前に進めなくなった男子高校生の青春小説〜若林正恭『青天』
文=高頭佐和子
とにかく、めちゃめちゃ売れている。発売後数日で在庫が枯渇した店舗が続出し、大きく重版もかかった。読み終えた人々の反応も熱く、いろいろなタイプの友人知人が勧めてくる。「アメフトに熱中する男子高校生の青春小説」といわれても、完全に文化系で暑苦しいのが苦手な私としては正直あまりピンとこなかった。ここまで売れるのはなぜなんだろうという好奇心で、読んでみたのだが......。
オリンピックにもワールドカップにも関心がない。球技のルールはほとんどわからないし、ラグビーとアメフトの区別ももちろんつかない。体育会系の部活も避けてきた。そんな私も、今『青天』にグッときている。
主人公のアリは、大学付属高校のアメフト部に所属している。春季大会を終えたら、3年生のアリたちは部活を引退し、大学進学のため全国の付属校で行われる統一テストに備えるのだ。だが、学年ワースト10の成績をキープしているアリは、今からどんなに頑張っても上の大学に進学はできない。それどころか卒業できるのかも怪しいのだが、大会で目立った活躍をすれば、スポーツ推薦の声がかかるかもしれない。5日後に迫った試合にどうにか勝ちたいという思いで、戦術マニアのチームメイト・河瀬と共に対戦相手となる強豪校の練習を隠し撮りしに行くのだが、バレて通報されるどころか、情けをかけられてしまう。
河瀬は諦めず戦略を考えてくるが、試合は予想通りボロ負けだ。最後にはチームメイト同士の喧嘩まで起きて、不完全燃焼なまま引退となってしまう。
部活では結果を残せず、勉強もできない。学校をサボって雀荘に入り浸ったり、パー券を押し付けられたり、盗難バイクに乗ったりもするが、不良にもなりきれない。やさぐれた日々を過ごす孤独なアリを救ってくれたのは、勉強してみたら意外と楽しかった倫理の教師・岩崎との対話と、「一緒に、秋大出ませんか?」と声をかけてくれた後輩の高山だった。
テンポの良い会話と、地の文のツッコミが絶妙だ。ユーモラスな表現をいい具合にまぶしつつ、先の見えない不安とコンプレックスに押しつぶされ、前に進めなくなった十代男子の心境が丁寧に描かれていく。青春がすっかり遠くなった私の心も、反応してキュっと縮こまるようだ。アメフトを再開することを決めたアリだが、やる気は空回りし、後輩たちにも煙たがられる。
どうせ勝てないんだし、もうやめなよ。それよりも勉強だよ。今から頑張って、どこかの大学に合格したら、またアメフトをやればいい。もし私がアリの身近な人物だったら、ちゃんと向き合いもしないで、そんなふうに普通の意見を言ってしまうんだろうな。なんだかすごくつまらなくてカッコ悪い大人になっちゃった気がする。
例の強豪校との試合を前に行われた岩崎との対話。今の自分の全てを賭けて出場した試合。自分で考えて、コンプレックスにもがき苦しんで、仲間やライバルと体をぶつけ合ったアリの目の前に広がる光景を、とてつもなく美しいと思った。頭でっかちな私の前には決して現れない青い空を、見せてくれてありがとう、アリ。
(高頭佐和子)

