【今週はこれを読め! エンタメ編】少年MJとおじいちゃんの関係に心打たれる!〜みうらじゅん『ブツゾー・キッド』

文=高頭佐和子

  • ブツゾー・キッド
  • 『ブツゾー・キッド』
    みうらじゅん
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 忘れられない展覧会がある。2018年に川崎市市民ミュージアムで開催された「MJ's FES みうらじゅんフェス!マイブームの全貌展 SINCE 1958」だ。尊敬するみうらじゅん氏(MJ)による収集物と創作物の迫力に圧倒されまくる1日を、そこで過ごした。なかでも印象に残ったのが、膨大な量のスクラップ・ブックである。子ども時代に制作された怪獣と仏像のスクラップ・ブックが特に印象的だった。オリジナリティに溢れ情報の詰め込み方が恐ろしいほど情熱的で、「栴檀は双葉より芳し」ということわざがピッタリとハマるのだ。

 少年MJ、どんな子どもだったのかなあ。タイムスリップできたら、どんなことを考えているのか直接聞いてみたい。怪しまれずにお近づきになるにはどうすればいいだろう? そんな妄想を脳内で繰り広げるファンを、大いに喜ばせてくれる一冊が刊行された。

 怪獣が好きで、1年生の時からスクラップ・ブック作りに熱中していた小学4年生の「僕」は、母方の祖父に習字を教えてもらうことになった。小学校の校長を定年退職した古美術趣味のおじいちゃんは、気難しい人物と思われているのだが「僕」には優しかった。見せてくれた土門拳による仏像写真の構図に、「僕」は映画館で見たキングギドラを思い出す。おじいちゃんは、そんな感想を抱く孫を子ども扱いすることなく、一緒に仏像を見に行こうと誘ってくれる。趣味を怪獣から仏像にシフトさせた「僕」は、ブツゾー・マスターであるおじいちゃんから教えを受けて知識を増やし、土門拳風の仏像写真の撮影やスクラップ・ブック作りに熱中する。ついには仏教中学に入学し、将来はお坊さんになりたいという夢を抱くが......。

 渋すぎる趣味に熱中する少年MJの突っ走り方が微笑ましい。入試の面接にスクラップ・ブックを持ち込んで合格を勝ち取ったり、お寺の息子と仲良くなって普通の参拝では入れない場所に入って興奮したり、初デートで仏像愛を炸裂させてフラれたり......。そんなMJらしい行動が愉快で、読んでいるとニヤニヤが止まらなくなる。おじいちゃんはいろいろなことを教えてくれたり、貴重な経験をさせてくれるけれど、決して押し付けがましくなく、対等な人間として「僕」の意志を尊重してくれる。その温かく節度ある関係に心打たれる。もし、師であるおじいちゃんとの日々がなければ、名著『マイ仏教』(新潮新書)や人気シリーズ『見仏記』シリーズ(KADOKAWA)は生まれなかったのかもしれない。

 子どもが好きなことに熱中すること、それを温かく見守る大人がいること、そのことがどれだけ素晴らしい光を生み出して、世の中を明るく照らすのかということを、読み終わった今実感している。おじいちゃんの人物像を、歴史的な面から深く分析するいとうせいこう氏による解説も感慨深い。ファンの皆さんはもちろん必読だけど、そうでない人にもぜひ読んでいただきたいと思う一冊である。

(高頭佐和子)

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