【今週はこれを読め! コミック編】命の与え方に目を見張る〜古山フウ『河童のパキチ』

文=田中香織

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 その秋、田んぼの一部は青いままだった。飢餓の先触れを横目に、一家の子どもたちは収穫に励むが、末っ子・パキチの姿は見当たらず、母のツネは彼を必死に探し回る。その不在に、夫である「父っつぁ」が気づいてしまったら──かねてより言い渡されていた悪夢が、現実となってしまうからだ。

 だが努力もむなしく、父っつぁはツネの前に現れ、「パキチはカジカを取りにやらせろ」と告げる。家長である夫の言葉は絶対だ。幼い子どもには理不尽すぎる仕打ちであると、ツネは内心反発しながらも、森で見つけたパキチの手を引き、川辺へと向かう。

 そうして川へ入ったパキチは、ツネの投げた石を頭に受け、流されていく。彼の命を救ったのは、下流にいた黒犬のクロと、はぐれ者の男だった。

 目を覚ましたパキチは、「河童になって家族を見守ってほしい」という母の願いが叶っているかを、男に確かめる。その言葉から男は事情を察し、「お前は立派な河童だよ」と太鼓判を押して、自身の住みかへと誘う。

 幼いころに読んだ、日本の昔ばなしを思い出した。形を変えて何度も紡がれる飢餓の話は、当時を生きた人々にとって、身近な出来事だった証でもある。だから、パキチの身に起きたことは特別なものではなく、かつての日常の一部だったことも十分に理解できる。

 だからこそ、「こんな命の与え方があったのか!」と目を見張った。パキチは祈りの具現化だ。むろん、人が河童になることは、現実にはあり得ない。それでも、「どんな姿であってもいいから生きてほしい」というツネの切実な願いが、パキチの新たな生を拓いた。救いとも思える展開に、人が長く物語を必要とし、創作物をよすがとしてきた理由を垣間見た。

 パキチやクロは、極限までデフォルメされた線で描かれている。つぶらな瞳とシンプルな形は、人間である家族や、背景の細やかな描きこみとは対極に位置する。また、父っつぁには顔がない。黒く塗られた顔面からは、当然ながら表情が読み取れず、他のキャラクターの描写とは一線を画す。そうした対比の数々は、物語をより鮮明に浮かび上がらせる。

 本作は『月刊コミックビーム』で連載されている。1・2巻と、本作の読切版を再収録した短編集『おじさんの塀』の3冊同時発売で、連載版との違いを読み比べられるうえ、変化と深化も存分に味わえる。巻末に収録されたあとがきや作品解説も嬉しい。

 なお、本作がお気に召したら、前作『ひとひとがみ日々』(小学館)全5巻もぜひ。

(田中香織)

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