第224回:伊与原新さん

作家の読書道 第224回:伊与原新さん

2019年に『月まで三キロ』で新田次郎文学賞、静岡書店大賞、未来屋小説大賞を受賞した伊与原新さん。地球惑星科学を専攻して研究者になった伊与原さんが読んできた本とは、ある日小説を書きはじめたきっかけとは。エンタメから分かりやすい理系の本まで、幅広い読書遍歴を語ってくださいました。

その4「進路を決めたプレートテクトニクスの本」 (4/7)

  • 十角館の殺人 <新装改訂版> (講談社文庫)
  • 『十角館の殺人 <新装改訂版> (講談社文庫)』
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  • 時計館の殺人<新装改訂版>(上) (講談社文庫)
  • 『時計館の殺人<新装改訂版>(上) (講談社文庫)』
    綾辻 行人
    講談社
    792円(税込)
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――大学は神戸大学に行かれたんですよね。そこで地球科学科(現・惑星学科)に進んだという。

伊与原:高3の時だったか、地学と物理を教えてくれていた先生に「読みなさい」と言われたのが、東大の地球物理の教授の上田誠也先生が書いた『新しい地球観』という岩波新書でした。1971年に出た、プレートテクトニクスの本なんです。プレートテクトニクスというのは1960年代後半から急速に確立した理論で、地球の表面で起こっている事象のすべて、地震から火山から何から何まで、とてもきれいに説明してしまうので急速に受け入れられたんですけれど、1970年代はその展開がまだ熱い時期でしたね。その頃に書かれた本でしたが、読んだらすごく面白かったんです。プレートテクトニクス理論が成立していく過程の、なんというか、ワクワクする感じが伝わってくる。それを読んで「ああ、地球科学のほうに行こうかな」と。それで、大学はそっちのほうで受けることにしたんです。

――では、大学生活での読書内容に変化はありましたか。

伊与原:普通の大学生のように遊んで暮らしてまして、本はそこから急にエンタメ時代に突入していきました。文学作品は一切読まなくなって、気楽に読めるものを選んでいました。その時に、遅まきながら初めて新本格に出合ったんですね。綾辻行人さんの『十角館の殺人』を最初に読んで、すごいものを知ってしまったと思って。今も僕は『十角館の殺人』と『時計館の殺人』はミステリーの最高傑作だと思っています。
 僕は横溝正史ミステリ大賞でデビューしていますが、選考委員の一人が綾辻行人さんだったんですよ。綾辻さんが一番推してくださったそうで、とても嬉しかったですね。

――授賞式でお会いしたんですか。

伊与原:ええ、お会いして少しだけお話ししたんですけれど、「諦めずに書いていたらいつかきっと日の目を見るよ」と言ってくださって、いまだにその言葉だけを頼りに生きているっていう(笑)。本当に今でも、「綾辻さんがああ言ったしな。もうちょっと頑張ろう」って思う時があります。
 僕の受賞作は全然本格ミステリーではなかったんですけれど、すごく推してくださって。北村薫さんも推してくださったそうですけれど、綾辻さんが一番褒めてくださったみたいなんです。まさか自分が綾辻さんに褒められる日が来るとは、大学生の時は思いもしなかったというか。その頃は小説書くと思っていなかったですから。
 学生の時は綾辻行人さんと島田荘司さん、京極夏彦さんがすごく好きで読んでいました。東野圭吾さんとか宮部みゆきさんもだいたい読みましたし。

――東野さんや宮部さんは作風も幅広いですが、どのあたりがお好きですか。

伊与原:宮部みゆきさんは『火車』が話題になっていた頃でしたね。東野さんは『秘密』を最初に読んで、あとは......。「ガリレオ」シリーズはその頃からあったかな。『悪意』なんかもすごくよかったです。
 それと、大沢在昌さんの「新宿鮫」シリーズがすごく好きでした。船戸与一さんも、年上の知り合いに「面白いよ」と言われて『山猫の夏』などの南米三部作とか、『砂のクロニクル』とかを読んだらすごく面白かった。それまであまりハードボイルド系とはあまり接点がなかったんですけれど、『新宿鮫』が好きだったからすんなり入ってきましたし。レイモンド・チャンドラーなんかもちょこちょこ読みましたが、それはあまりピンとこなかった。チャンドラーは父親が好きだったんですけれども。
 父親はエスピオナージというのかな、ブライアン・フリーマントルとかフレデリック・フォーサイスといったスパイものが好きで、うちの本棚にもあったんです。それを大学生くらいから読み始めたら面白かったですね。フリーマントルは『消されかけた男』とかの「チャーリー・マフィン」シリーズという、うだつの上がらないスパイが出てくる小説が好きでした。フォーサイスは『ジャッカルの日』。情報部とか公安の話が好きで、麻生幾さんもすごく面白いと思って読んでいました。大学生の頃はそんなのばっかり読んで、科学方面では教科書くらいしか読んでいないかもしれません。

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  • 新宿鮫 新装版: 新宿鮫1 (光文社文庫)
  • 『新宿鮫 新装版: 新宿鮫1 (光文社文庫)』
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  • ジャッカルの日 (角川文庫)
  • 『ジャッカルの日 (角川文庫)』
    フレデリック・フォーサイス,慎, 篠原
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