第233回:岩井圭也さん

作家の読書道 第233回:岩井圭也さん

1997年の香港返還を題材にした『水よ踊れ』が話題となっている岩井圭也さん。少年時代から漠然と小説家になることを意識しつつ、理系の道に進み研究職に就いた後で新人賞への投稿を始め、作家デビュー。毎回まったく異なる題材を作品テーマに選ぶ岩井さんがこれまでに影響を受けた本とは? 1冊1冊に対する熱い思いを語ってくださいました。

その2「キャラクターに夢中」 (2/7)

  • 封神演義 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)
  • 『封神演義 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)』
    藤崎竜
    集英社
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  • 国語入試問題必勝法 新装版 (講談社文庫)
  • 『国語入試問題必勝法 新装版 (講談社文庫)』
    清水 義範
    講談社
    770円(税込)
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  • 塚原卜伝十二番勝負 (講談社文庫)
  • 『塚原卜伝十二番勝負 (講談社文庫)』
    津本陽
    講談社
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  • 明治撃剣会 (文春文庫)
  • 『明治撃剣会 (文春文庫)』
    津本 陽
    文藝春秋
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  • 新選組血風録 (中公文庫)
  • 『新選組血風録 (中公文庫)』
    司馬 遼太郎
    中央公論新社
    1,026円(税込)
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  • 永遠についての証明 (角川書店単行本)
  • 『永遠についての証明 (角川書店単行本)』
    岩井 圭也
    KADOKAWA
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――中学時代はどのような本を読みましたか。

岩井:なぜか『三国志』に異様にハマった時期がありました。といっても小説や漫画ではなく、武将をカラーのイラスト付きで紹介した図鑑です。学校の図書館にありました。現代の自分とは全然違う格好をして、一人一人壮絶な人生を送ったことが書かれてあって。植物や動物の図鑑には全然興味を示さなかったのにこれにハマったということは、やっぱり人間に興味があるんだなっていう。でもそこから『三国志』の小説や漫画を読んだわけではないんです。中国の歴史絡みでいえば、その頃「ジャンプ」で連載していた漫画の『封神演義』は好きだったんですが。

――小説は書いていましたか。

岩井:真似事みたいなものは書いていました。でも書き切れずにいました。書く内容は、特に変わらず、主人公が小学生から中学生になったような話だったかと思います。
 ちょうど漫画の「ぼくらの推理ノート」シリーズにハマっていたので、それを真似し、ものを書いて、で、やっぱりミステリは書けないな、と思って。もしかして今もそれを続けているのかもしれないですよね(笑)。

――読む本もミステリが多かったのですか。

岩井:いや、シャーロック・ホームズは読みましたが、中学時代にハマった作家さんはユーモアとかコメディの路線の人が多いですね。清水義典さんの『国語入試問題必勝法』や『バールのようなもの』は、こんな人を食ったようなことを小説でやっていいんだと言う驚きを含めて好きでした。他にも原田宗典さんや東海林さだおさん、土屋賢二さんの読んで笑えるエッセイもすごく読みました。

――ゲームで遊んだりはしませんでしたか。

岩井:ゲームはほとんど買ってもらわなかったし、自分でもすごくやりたいとも思わなかったんです。小学校5年生の時にセガサターンを買ってもらっていくつか遊びましたが、自分の人生の中でそんなにゲームをやっている記憶はないですね。唯一、「ロックマンⅩ4」だけは結構やりましたが、それも全クリはしなかったです。ポケモンが爆発的に流行していた世代なんですが、私はゲームボーイを持っている友達から借りて何回か遊んだ程度です。

――ドラマや映画など映像関連で好きだったものは。

岩井:「古畑任三郎」はもう、ハマりにハマりました。VHSに全部録画してもらって、何度も見て、犯人の名前も全部言えます。今でもしょっちゅう見ています。

――どなたがゲストの回が好きだったんですか。

岩井:役名で憶えているので役者さんの名前がすぐに出てこないんですが...米沢八段の話が好きでしたね。えーっと、坂東八十助さんですね、今の三津五郎さん。他にも明石家さんまさんの回や「VS SMAP」の回も好きでした。「古畑任三郎」についてはいくらでも語れます。
 面白いなと思うのは、見ていて「古畑頑張れ」って気持ちにならないところですよね。エンタメって主人公に感情移入させるのが鉄則なところがあるのに、どちらかというと「犯人頑張れ」という気持ちになる。でも結局毎回、小憎らしい古畑に追い詰められる。その時に面白く思えるのは、犯罪のトリックよりも、なぜその人がその殺人を犯したのかっていう動機の部分。「焼蛤」が鍵となる回では周囲の人が一緒になって隠ぺいしようとするところが印象に残ったりして。トリック以外のところで魅せるミステリに触れたのは「古畑任三郎」がはじめてだったかもしれません。

――映画はあまり観ませんか。

岩井:あまり観ないのですが、中学生の時に観た「七人の侍」はよく憶えています。なんで観たんだろう。一時期、津本陽さんの小説にハマっていたんですね。一応剣道をやっているので『塚原卜伝十二番勝負』や『明治撃剣会』を図書館で借りて読んで、そこから司馬遼太郎の『新選組血風録』なども読んだので、その流れでツタヤかどこかで借りたんだと思います。観てみたら、昔の映画なのにこんなに面白いのかと驚いて。それで次に「影武者」を借りたら、それはそんなにハマらなかった。
「七人の侍」は七人の一人、久蔵が格好よかったですね。普段は寡黙なんですが、闘ったらいちばん剣が強い。最後に雨の中でダダダっと撃たれて絶命するシーンもすごくて。もちろん、映画全体も好きです。全員に個性があって、対決に至るまでの盛り上げ方も見事。でも私にとってあの映画の魅力の8割は久蔵ですね。こうして振り返ってみると、その頃から孤高の天才肌が好きだったのかもしれません。デビュー作の『永遠についての証明』も孤独な数学者の話でしたから。

――『永遠のついての証明』は数学科の学生たちの話で、親友が残したノートに数学の未解決問題の証明が書かれてあったというお話でしたよね。数学は得意でしたか。

岩井:超苦手でした。

――え、あんなに数学の世界を繊細に描かれていたのに?

岩井:数学は偏差値が低かったです。高校で文理に分かれる時に、数学が嫌いだし国語のほうが得意だからどうしようか迷ったんです。でも生物が好きでしたし、理系のほうが将来潰しがきくだろうと思ってそっちを選びました。
 数学と物理が嫌いで、国語と生物が好きだったんです。生物もまた違うアプローチで人間とはどういうものかに近づいていく分野なので、結局、人に通じる部分のある科学に惹かれていたのかなと思います。

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