
作家の読書道 第240回:大前粟生さん
2016年に短篇「彼女をバスタブにいれて燃やす」が「GRANTA JAPAN with 早稲田文学」の公募プロジェクトで最優秀作に選出されてデビュー、短篇集では自由な発想力を炸裂させ、『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』や『おもろい以外いらんねん』、『きみだからさびしい』などの中長篇では現代の若者の鋭敏な価値観を浮き上がらせる大前粟生さん。今大注目の若手を育ててきた本と文化とは? リモートでおうかがいしました。
その2「中高生の間で流行った「ホムペ」」 (2/6)
――中学校に入ってからはいかがでしたか。
大前:小学校とあまり距離が離れていない中学校だったので、教室の面々も変わらず、大きな変化はなかったです。そこでも図書室で本を借りて読むことが多かったですね。たしか、山田悠介さんの『リアル鬼ごっこ』がすごく流行っていたので、その流れで学校の中でのデスゲーム的な話はすごく読んでいました。
それと、毎週何曜日かの朝に15分の読書時間があったんです。そのために買ったんだと思うんですけれど、文豪の文庫作品のカバーを人気漫画家さんが描くシリーズが出ていて。僕はちょうど『デスノート』を読んでいたので、小畑健さんが表紙を描いている『人間失格』を買いました。その頃はわりと自意識に悩んでいたりしたので、中身も面白く読みました。
他には、「ジャンプ」漫画のノベライズも読んでいました。『BLEACH』とか『銀魂』のノベライズがあって、小説オリジナルのキャラクターが出てきたりすることに興奮していました(笑)。
いま思い出したんですが、中学時代の終わりの頃に家のテレビが変わって、ケーブルテレビが導入されたんです。それまで周囲に全然文化的なものがなかったんですが、スペースシャワーTVやMTVのような音楽専門チャンネルを観たりして、漠然と、自分の知らない文化が沢山あるってことを知ったんです。
インターネットもやってはいました。でも、通信速度がめちゃくちゃ遅くて重たくて、ひとつのページを開くのに数分またないといけなくて。それでも、フラッシュ動画とかニコニコ動画などを見ていました。「歌ってみた」動画も流行っていて、こんなふうに一般の人が発信することもあるんだなと思っていました。
――高校生活はいかがでしたか。
大前:通っていた中学校から進学するとしたら、だいたい4つか5つくらい高校の選択肢があって、そのひとつに行ったんです。なので中学からの知り合いもそこそこいて、でも初めましての人が大半、みたいな環境でした。
2年生の時だったかな、携帯を持ち始めたんです。普通のガラケーなんですけれど、当時「ホムペ」というのがあったんですよね。簡単なブログみたいなもので、中高生たちがグループや個人で日記を書いたりするのが流行っていたんです。みんな好き勝手に更新したりそれを見たりしていて、教室で直接会った時にも「昨日見たで」などと話題にしたりして。僕は個人で文章を書いていました。蚊の起源についてとか(笑)。誰かの真似なんですよね。だらだらと文章を続けていって、最後に「という情報もあったりするが、これは真っ赤な嘘である」みたいな落とし方をするのが、たしか「ホムペ」で書かれる文章のジャンルのひとつとしてあったんです。面倒くさくなって数か月で更新は辞めてしまうんですけれど。
――中高時代、部活は何かやっていましたか。
大前:中学の時はバレーボール部でした。でも先輩たちが引退したら急にやる気がなくなってしまって、練習には参加していましたがあまり熱心ではなかったと思います。
高校の時は、家から学校が遠かったんです。20キロくらいありました。今思うとなんでそんなことができたのか分からないんですが、片道1時間半くらいかけて自転車で通学していました。親に車で送ってもらったこともありましたが、だいたい自転車でしたね。
――すごく鍛えられそう...! 学校帰りに書店に寄る、なんてことはありましたか。
大前:TSUTAYAに寄って漫画を買ったり、たまに映画を借りて帰ったりもしていました。受験勉強が始まると参考書を買いに行ったりもしていました。