第240回:大前粟生さん

作家の読書道 第240回:大前粟生さん

2016年に短篇「彼女をバスタブにいれて燃やす」が「GRANTA JAPAN with 早稲田文学」の公募プロジェクトで最優秀作に選出されてデビュー、短篇集では自由な発想力を炸裂させ、『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』や『おもろい以外いらんねん』、『きみだからさびしい』などの中長篇では現代の若者の鋭敏な価値観を浮き上がらせる大前粟生さん。今大注目の若手を育ててきた本と文化とは? リモートでおうかがいしました。

その3「オススメ本を読み漁る」 (3/6)

  • 星を継ぐもの (創元SF文庫) (創元推理文庫 663ー1)
  • 『星を継ぐもの (創元SF文庫) (創元推理文庫 663ー1)』
    ジェイムズ P.ホーガン,池 央耿
    東京創元社
    770円(税込)
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  • 夏への扉 [新版] (ハヤカワ文庫SF)
  • 『夏への扉 [新版] (ハヤカワ文庫SF)』
    ロバート・A・ハインライン,まめふく,福島 正実
    早川書房
    924円(税込)
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  • 猫語の教科書 (ちくま文庫)
  • 『猫語の教科書 (ちくま文庫)』
    ポール・ギャリコ,Gallico,Paul,灰島 かり
    筑摩書房
    626円(税込)
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――高校卒業後、同志社大学の文学部に進学されていますが、進学先はどのように選んだのですか。

大前:まず、一人暮らししたい、というのがありました。その後の人生についてすごく考えたんです。実家から通える距離の大学に進学したら中高生の頃の暮らしとあまり変わらないだろう、大学生になっても今のままの暮らしをしていたら、これから先もずっと今のままなんじゃないか、と勝手に思っていました。とにかく一人暮らしできるくらいの距離の大学に行きたいなと思って、京都の大学を受験したんです。

――大学生活は楽しかったですか。

大前:楽しかったですね。最初の2年は奈良との県境近くにあるキャンパスに通っていたので周囲にあまり文化的な施設はなかったんですが、そこで繁忙期だけ不動産店のアルバイトをしたんです。そのことで、学生にとってはある程度まとまったお金と時間ができたので、なにか趣味でもほしいなと思い、読書を始めたんです。2ちゃんねるのまとめサイトに「お前らオススメの本あげとけ」みたいなスレッドがあったので、それを参考にいっぱい本を買って読みました。それが今の自分の直接的なルーツなんだろうなとは思います。

――どんな本が挙がっていたのですか。

大前:SFの名作が多かったと思います。『星を継ぐもの』とか『夏への扉』とか。カート・ヴォネガットもあったし、日本の作家なら筒井康隆さんとか。
 他にも、ポール・ギャリコの『猫語の教科書』とか、ヘッセの『デミアン』やゲーテの『若きウェルテルの悩み』も挙がっていました。伊坂幸太郎さんの『重力ピエロ』や桜庭一樹さんの『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』もそのサイトで知って読んだんだと思います。
 本は自分で買ってもいたんですけれど、授業の関係で大学の図書館に行ったら結構小説も沢山あると気づき、ちょこちょこ借りてもいました。読んで面白かった作家の他の作品を読んだりもしていました。

――ヴォネガットや筒井さんはどのあたりが好きでしたか。

大前:ヴォネガットは『スローターハウス5』とか『タイタンの妖女』とか。話の筋というよりも、文章の言い回しやリズム感が面白かったです。筒井さんは最初に読んだのが『旅のラゴス』だったんです。そこから他の作品も読みましたが、やっぱりいちばん面白かったのが『旅のラゴス』です。長い時間にわたる旅の話だったからこそ、めちゃくちゃ読書したなという気分になれました(笑)。

――読書記録はつけていましたか。

大前:いえ、読んだら読みっぱなしでした。1冊1冊について思いをめぐらすというより、はやく次の何かを読みたい、という気持ちでした。大学の講義の最中も、授業を聴くのと並行して小説の文庫本を読んだりしていましたね。

――大学時代、読書以外に打ち込んだことや夢中になったことはありましたか。

大前:映画を観るだけのサークルに入ったんです。プロジェクターで部室の壁に投影して、観たい人だけが観る集まりでした。実家にいた頃は年に1回「名探偵コナン」の映画を観に行くくらいの生活だったので、この時に、短期間に集中していろんな映画を摂取した感じです。
 どちらかというと、ド直球で名作と言われている洋画が多かった気がします。「レオン」は何回も観たし、「ファイト・クラブ」もよく憶えています。ちょっとサスペンスの要素があるものが多かったのかな。
 観たい映画がある人がいつ上映するか決めて、メーリングリストで「来たい人はよかったら」と伝えたりして。部室が空いていれば突発的に一人で観ることありましたし、申請すれば部室に泊まることもできたので、夜通しそこで映画を観ていたこともありました。

――すごく楽な集まりですね。先ほど、子どもの頃はあまり人と会話しなかったというお話がありましたが、その後変化はありましたか。

大前:あまり変化はなかった気がします。映画サークルでも、誰かと一緒にいても上映中は一人で観ているわけだし、終わった後も感想を言い合うわけでもなくて、それが居心地よかったです。人といると話を盛り上げないといけない、みたいになるのが苦手だったんです。その点、自分にとって映画や本って、黙ったままそこにいられる空間ができるのがよかったのかもしれません。

――とすると、就職活動とか、社会に出て働くことを考えると憂鬱ではなかったですか。

大前:すごく憂鬱でした。高校生の時からもう就職活動が憂鬱だったんです。小説を書き始めたのも、それがきっかけです。大学3年生の時に就職活動をはじめて、エントリーシートを作ったり面接に行ったりしていたんですが、ずっと働きたくないなと思っていて。読書が好きだという理由で東京の出版社を複数受けて、面接のスケジュールが被っていたので2週間くらい東京に滞在したことがあったんです。お金がないからずっとネットカフェに泊まって、それでめちゃくちゃ疲れてしまって。気分転換をしたくなって、なにか作ろうかなと考えた時に、いちばんお金がかからないの方法が小説を書くことだったんです。作家になりたいとかではなくて、ただただ、文章を書いていると他のことを考えずにすむというか、気が楽になるから書いていました。高校の時に「ホムペ」で書いていたのとあまり変わらない感じでした。毎日ひとつ書いてネットにアップする、というのを200日くらい続けました。

  • 若きウェルテルの悩み (岩波文庫)
  • 『若きウェルテルの悩み (岩波文庫)』
    ゲーテ,Goete,Johann Wolfgang Von,道雄, 竹山
    岩波書店
    500円(税込)
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  • 砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない A Lollypop or A Bullet (角川文庫)
  • 『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない A Lollypop or A Bullet (角川文庫)』
    桜庭 一樹
    KADOKAWA
    300円(税込)
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  • スローターハウス5 (ハヤカワ文庫SF ウ 4-3) (ハヤカワ文庫 SF 302)
  • 『スローターハウス5 (ハヤカワ文庫SF ウ 4-3) (ハヤカワ文庫 SF 302)』
    カート・ヴォネガット・ジュニア,和田 誠,伊藤典夫
    早川書房
    792円(税込)
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  • タイタンの妖女 (ハヤカワ文庫SF)
  • 『タイタンの妖女 (ハヤカワ文庫SF)』
    カート・ヴォネガット・ジュニア,和田 誠,浅倉久志
    早川書房
    836円(税込)
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