
作家の読書道 第240回:大前粟生さん
2016年に短篇「彼女をバスタブにいれて燃やす」が「GRANTA JAPAN with 早稲田文学」の公募プロジェクトで最優秀作に選出されてデビュー、短篇集では自由な発想力を炸裂させ、『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』や『おもろい以外いらんねん』、『きみだからさびしい』などの中長篇では現代の若者の鋭敏な価値観を浮き上がらせる大前粟生さん。今大注目の若手を育ててきた本と文化とは? リモートでおうかがいしました。
その6「最近面白かった本は...」 (6/6)
――お忙しいと思いますが、1日のタイムテーブルって決まっていますか。
大前:執筆時間帯は決まっているわけではなくて、とりあえず毎日2400字くらい書けたらいいな、と思ってやっています。自分の小説の場合、それくらいの長さが一場面分にちょうどいい感触があります。それは毎日続けることで、自分の書けるラインの底上げをしたい。体調が悪い日でも、出てくる想像力は体調がいい日とあまり変わらないようにしておきたいんです。
――散歩もよくされているようですが。
大前:時間があれば行くようにしています。日光を浴びておきたいので、日中に散歩したいですね。結局、日々の自分の気分や機嫌とかって身体のコンディション次第だなと思うんです。辛いことがあったりしても、散歩とかサウナに行くとわりと忘れることが多いです。
――今年、東京に越されたそうですね。散歩コースは開拓中ですか。
大前:開拓中で、今はひとつ見つけたくらいです。京都に住んでいた頃は鴨川沿いを散歩していたので、東京でも川や自然がある散歩コースを見つけたいですね。
――本を読むのはどんなタミングが多いですか。
大前:お風呂に入っている時が多いです。入浴しながらコツコツ読んでいく感じです。
――最近読んで面白かったのは。
大前:浅倉秋成さんです。
――へええ。いきなりミステリ系の方が出てきましたね。超話題作『六人の嘘つきな大学生』でしょうか。
大前:それをまず手に取って面白かったので、『教室が、ひとりになるまで』を読んでみたら、こっちのほうが僕の好みでした。
――とある高校で、不思議な能力を受け継いた少年が、連続する生徒の自殺の謎を探っていく話ですよね。緻密に作られたミステリです。
大前:文章がものすごく好きなんです。無駄がなくて、的確な表現で。なんていうのか......個人的に、どんどんはやいテンポで畳みかけてくるあの文章が、物語にとってすごく誠実だなと感じます。
同時代に生きていて、めちゃくちゃ小説や文章が上手な人がいてくれることが嬉しいですね。元気が出ます。浅倉さんもそうだし、すぐ思い浮かぶ方だと、柴崎友香さんや藤野可織さんも自分の中でそういう存在です。町屋良平さんも『ほんのこども』ですごいことを書いているし。いろんな作家さんがいて、いろんなことを書いてくれているから、だからこそ自分は自分が書くものを書けるのかなとすごく思っています。
――歌集『柴犬二匹でサイクロン』の他に、今後のご予定は。
大前:去年「文藝」に掲載した「窓子」という、ホラー小説を幽霊の側から書いた話があって、それと書き下ろしの短篇と合わせた本が今年中には出るかなあ、という感じです。それと、『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』の英訳版が出る予定です。
(了)