第244回:小川哲さん

作家の読書道 第244回:小川哲さん

2015年に『ユートロニカのこちら側』でハヤカワSFコンテストで大賞を受賞しデビュー、『ゲームの王国』が日本SF大賞と山本周五郎賞を受賞、『嘘と正典』が直木賞候補になり、現在新作『地図と拳』が話題の小川哲さん。今もっとも注目を浴びているSF界の新鋭は、どんな本を読んできたのか。作家を目指すきっかけなども含めたっぷりインタビューしました。

その7「新刊を読む生活」 (7/7)

  • ゲームの王国 上 (ハヤカワ文庫JA)
  • 『ゲームの王国 上 (ハヤカワ文庫JA)』
    小川 哲
    早川書房
    924円(税込)
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  • プロジェクト・ヘイル・メアリー 上
  • 『プロジェクト・ヘイル・メアリー 上』
    アンディ・ウィアー,鷲尾直広,小野田和子
    早川書房
    1,980円(税込)
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――それにしても、「満洲を書きませんか」と言われてここまでの物語を書き切るなんて、小川さんは無茶ぶりされても何でも書けそう...。

小川:可能な無茶ぶりと不可能な無茶ぶりがありますね。なんだろう、たとえば高校生の初恋の話書いてくれとか言われたらそれは難しい(笑)。知らないことを書くといっても、そこに僕にとって、感覚的に、文学というか小説になりそうなものがあるかどうかですね。

――小川さんは小説のジャンルについてはどのように感じていますか。

小川:あまり考えていないです。SFを書いてくれと言われたらSFのガジェットなり時代設定なりを考えようとは思いますけれど。
 たとえば、『ゲームの王国』を書いた頃から感じているんですけれど、SFと歴史小説って、やっていることは同じなんですよね。自分のいる時代とはまったく違う技術や常識や価値観、政治の形式の時代を書くという点では同じなんです、僕の中では。冲方丁さんとか宮内悠介さんとか上田早夕里さんといったSF作家が歴史ものや時代ものを書いているのは、たぶん一緒だからだと思うんですよね。逆に、歴史小説作家でSFを書いている人もいればいいのに。司馬遼太郎が書いたSFとか読みたかったですね。絶対面白いと思うんです。井上ひさしの『吉里吉里人』とか面白いじゃないですか。あれはSFの名作だと思うんですけれど、ああいうものが書けそうですよね。

――今、1日のタイムテーブルみたいなものって決まっていますか。

小川:日によりますね。取材とかの予定が入っていない日は、昼くらいから原稿をやって、嫌になったらやめる。喫茶店で仕事することが多いので、閉店の時間に終わりにすることが多いです。もちろん締切がある時は嫌になってもやめられないんですけれど。

――最近の読書生活は。

小川:今年から読売新聞の読書委員になったので、わりと新刊を読んでいます。昔は新刊はぜんぜん読まなかったのに。毎回読書委員で集まって、それぞれ気になった本を何冊か持ち帰って読んでどれを書評に取り上げるか決めるんです。読みたい本を持ち帰るので、もう、本当に趣味の読書ですよね。しかもそれで書評を書いてお金もらえるから、これを本業にできるならこれだけで生活したいって思っちゃいますよね(笑)。

――どんな本が面白かったですか。

小川:フィクションはあまり多くないんですが、今年最初に紹介したのはアンディ・ウィアーの『プロジェクト・ヘイル・メアリー』でした。あれはもう圧倒的に面白かったんで、発売前に「これで書かせてください」って言って書きました。あとは角田光代さんの『タラント』や、年森瑛さんの『N/A』も面白かったですね。
 ノンフィクションはいっぱい紹介したんですが、あまり話題になっている気がしないものでいうと、『ザ・コーポレーション キューバ・マフィア全史』。アメリカで暗躍したキューバ・マフィアが誕生して消えていくまでの実録ノンフィクションです。
 吉丸雄哉さんの『忍者とは何か 忍法・手裏剣・黒装束』もめちゃくちゃ面白かったですね。忍者はどういうふうにして生み出されたのかっていう内容です。たとえば手裏剣なんて絶対に銃にかなわないし、弱いじゃないですか。黒装束だって、あんなの着てたら見られた瞬間に忍者だって分かってしまう。なのになぜそうした忍者が生み出されたのかを、忍者忍術学を研究している大学教授が説明してくれている。この本に万城目学さんのことが出てきたので、万城目さんに「出てますよ」とメールしたら、自分が書いた時にはこういう本がなかったから大変だった、って返信がありました(笑)。

――万城目さんが『とっぴんぱらりの風太郎』を書いた時に、ということですね(笑)。

小川:そうです。

――誰にも命令されない生活は、どれくらい達成できていますか。

小川:まだまだですね。雑誌の締め切りとか守らなきゃいけないし。書き下ろしの印税だけで生活できるようになるのが一番の夢ですね。村上春樹さんレベルの作家なら、締め切りを催促されたりせず、原稿を書き終えたら一方的に出版社に送りつけてそれで生活できるじゃないですか(笑)。

――あはは。でも確かに読者として、作家が焦らずじっくり時間をかけて取り組んだ小説は読みたいですし、それで生活も安定してほしいです。

小川:そういうのがいいですよね。僕もその時のベストを尽くした作品を出していきたいです。

――今後の刊行予定を教えてください。

小川:10月に『君のクイズ』という、「小説トリッパー」に一挙掲載した話が本になります。クイズプレイヤーが主人公で、大会の決勝で、問題文が読まれてないのに対戦相手がボタンを押して正解したというところからスタートして、なんであいつは問題文が読まれる前に正解が言えたのかを調べていく、みたいな話です。あとは新潮社で書いた短篇がたまっているので、年明けのどこかでたぶん出ると思うんですね。河出書房新社でも短篇がたまっているので、そんなに遠くないうちに出るんじゃないかなと思っています。

(了)

  • ザ・コーポレーション キューバ・マフィア全史 上
  • 『ザ・コーポレーション キューバ・マフィア全史 上』
    T・J・イングリッシュ,T. J. English,峯村利哉
    早川書房
    3,300円(税込)
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  • 忍者とは何か 忍法・手裏剣・黒装束 (角川選書 661)
  • 『忍者とは何か 忍法・手裏剣・黒装束 (角川選書 661)』
    吉丸 雄哉
    KADOKAWA
    2,640円(税込)
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  • とっぴんぱらりの風太郎 上 (文春文庫)
  • 『とっぴんぱらりの風太郎 上 (文春文庫)』
    学, 万城目
    文藝春秋
    792円(税込)
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