作家の読書道 第249回:櫻木みわさん

2018年に作品集『うつくしい繭』でデビューし、第2作『コークスが燃えている』、第3作『カサンドラのティータイム』で話題を集める櫻木みわさん。大学卒業後はタイに移住、その後東ティモールに滞在など海外経験を重ね、その間も作家を志していた櫻木さんの読書遍歴は? 帰国して作家デビューに至るまでのお話なども。リモートでたっぷりうかがいました。

その1「女の子たちの話が好きだった」 (1/7)

  • ぐりとぐら [ぐりとぐらの絵本] (こどものとも傑作集)
  • 『ぐりとぐら [ぐりとぐらの絵本] (こどものとも傑作集)』
    なかがわ りえこ,おおむら ゆりこ
    福音館書店
    990円(税込)
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  • そらいろのたね
  • 『そらいろのたね』
    なかがわ りえこ,おおむら ゆりこ
    福音館書店
    990円(税込)
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  • 小さい魔女 (新しい世界の童話シリーズ)
  • 『小さい魔女 (新しい世界の童話シリーズ)』
    オトフリート・プロイスラー,ウィニー・ガイラー,大塚 勇三
    学研プラス
    990円(税込)
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  • モモちゃんとアカネちゃんの本(1)ちいさいモモちゃん (児童文学創作シリーズ)
  • 『モモちゃんとアカネちゃんの本(1)ちいさいモモちゃん (児童文学創作シリーズ)』
    松谷 みよ子,菊池 貞雄
    講談社
    1,210円(税込)
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  • おちゃめなふたご (ポプラポケット文庫 412-1)
  • 『おちゃめなふたご (ポプラポケット文庫 412-1)』
    エニド ブライトン,田村 セツコ,佐伯 紀美子
    ポプラ社
    627円(税込)
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  • 赤毛のアン 赤毛のアン・シリーズ 1 (新潮文庫)
  • 『赤毛のアン 赤毛のアン・シリーズ 1 (新潮文庫)』
    ルーシー・モード・モンゴメリ,Lucy Maud Montgomery,村岡 花子
    新潮社
    825円(税込)
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――幼い頃の読書の記憶を教えてください。

櫻木:絵本が好きでした。立原えりかさんの『そよかぜのてがみ』は、今でも文章を憶えています。それと、小学校1年生の時に、「先生あのね」みたいな作文に、「中川李枝子さん」というタイトルで文章を書いているんです。「中川李枝子さんはすごいと思います」という1文から始まって、最後には「中川李枝子さんを見習って、立派な作者になります」という文で終わる熱い内容でした。なので、当時は中川李枝子さんの信奉者だったんだと思います。中川さんの絵本は『ぐりとぐら』はもちろん読んでいたと思いますし、作文には『そらいろのたね』や教科書に載っていた「くじらぐも」のことを書いていました。ただ、「くじらぐも」は今でも憶えていますが、『そらいろのたね』は憶えていなくて...。そうした内容も作文を書いたことも、その後はずっと忘れていたんです。
 よく憶えているのは、プロイスラ―の『小さい魔女』が大好きで、持ち歩いていたことです。お出かけする時も、サンリオのバッグにその本を入れて持っていっていました。

――どこでも読み返せるように、ということですか、それともお守りみたいな感覚で、ですか。

櫻木:たぶん、両方ですね。繰り返し読んでいましたし、あとはやっぱり、自分も魔女になりたいと思っていたので。小さい魔女にはカラスの相棒はいるけれど、わりと1人で楽しく元気に修行したりして暮らしているので、そういう感じに憧れがあったのかもしれません。

――「作者になりたい」と書かれていたということは、自分でもお話を作ったりはしていたのでしょうか。

櫻木:そうですね。宿題の日記帳にも、よくお話を書いていました。小学1、2年生の時、担任の先生がすごくいい先生だったんです。20代の女性の先生で、たぶん本が好きな方で、授業の合間に松谷みよ子さんの『ちいさいモモちゃん』などを読み聞かせてくださって、私の作文も楽しみにしてくれていました。それで張り切って、長いお話を書いていました。いちばん長かったのは、『がまくんとかえるくん』シリーズの「お手紙」が教科書に載っていたので、がまくんとかえるくんとクラスの子30人全員出てきて、体育館で大きなケーキを作るお話でした。

――櫻木さんはプロフィールに福岡県出身とありますが、どんな環境で育ったのですか。

櫻木:福岡の筑豊の町で育ちました。図書館も本屋さんもない町で、しかもすごい坂を上ったところにある家に住んでいたんです。木に囲まれて、裏に小川が流れていて、周りは山や田んぼばかりの場所に母が家を建てて、犬や鶏を飼い、キウイとかモモとか栗とかいった実が食べられる木を植えて、という。なので山の子みたいにして育ちました。

――思い切り野山を駆け回るような?

櫻木:駆け回るというより、庭でじーっと虫とか葉っぱを眺めていたりして(笑)。でも木のぼりや竹馬は好きだったし、近所の子たちと忍者部隊を結成して基地を作ったりもしました。そういう場所だったので、家では本しか娯楽がなくて、父親が町に行く時に本を買ってきてくれるのを楽しみにしていました。

――じゃあ中川李枝子さんの絵本なども学校の図書室ではなく、お父さんが買ってきてくれたものだったのしょうか。

櫻木:そうかもしれません。私は小学校はいくつか転校しているんですが、最初に通った小学校では低学年は図書室を使わせてもらわなかったので。

――あまりテレビを見たりラジオを聴いたりはしなかったのですか。

櫻木:テレビはアニメくらいしか見ていませんでした。魔法っ子が出てくるようなアニメや「ドラえもん」も好きだったんですけれど、心惹かれたのは「妖怪人間ベム」ですね。このインタビューのお話をいただいてからいろいろ思い出していたんですけれど、自分は異国を旅する、みたいなものが好きだったのかなと思って。「妖怪人間ベム」も異国情緒があるというか、暗い感じのヨーロッパの町並みを、家族でもない3人が放浪しているお話じゃないですか。その雰囲気が好きだったのかもしれません。

――なるほど確かに異国情緒ありましたね。読書は、その後児童書なども読むようになったわけですよね。

櫻木:はい。小学校低学年の頃は『おちゃめなふたご』シリーズが大好きでした。挿画の田村セツコさんの鉛筆画も好きで。その後、村岡花子さん訳の『赤毛のアン』のシリーズにもハマって、1巻から10巻まで何回も読み返しました。

――『おちゃめなふたご』は双子の姉妹が寄宿学校に入る話だし、『赤毛のアン』ももちろん、海外での女の子たちの暮らしが分かって楽しいですよね。知らない食べ物とかも出てくるし。

櫻木:素敵な女の子がいっぱい出てくる話が好きだったようです。私は今でも素敵な女の人に会うと憧れるし、女友達が大好きなので、女の子が素敵な女友達に出会っていろんな話をしたりする場面に惹かれたんだと思います。
『赤毛のアン』は孤児のアンが引き取られてグリーンゲイブルズに来た頃の話も好きなんですけれど、ギルバートと結婚した後、ギルバートが学生時代のマドンナと再会して、その2人を見ながらアンが「ギルバートはきっと自分との結婚を後悔して、彼女と結婚していたらよかったって思っているに違いない」みたいに思っているシーンがすごく好きでした(笑)。嫉妬の感情に興味があって、ぐっときたんですよね。結局、ギルバートは全然そんなことを考えていなかったんですけれど。

――海外文学を読むことが多かったのでしょうか。

櫻木:ミヒャエル・エンデの『モモ』も特別に好きでした。国内作品は、講談社の「少年少女日本文学館」という、芥川龍之介や太宰治、夏目漱石、宮沢賢治といった日本の近代文学の作家の作品が一通り入っているシリーズを読んでいました。
 その全集に安岡章太郎の「サアカスの馬」という話が入っていたんです。それまで素敵な女の子たちの話が大好きだったんですが、それは格好悪い男の子の話でした。でもそれが、すごく胸に響いたんですね。みっともないことや惨めなことも、小説的、詩的なものに反転させることができるんだと学んだというか。その時に文学に出合ったのかもしれません。

――全集だから、太宰や夏目は長篇ではなく短篇が入っていたということでしょうか。

櫻木:漱石は『坊っちゃん』なども入っていて読みました。太宰は『走れメロス』だった。今思うとすごく丁寧な仕事をされていて、子供が知らないような言葉や風習は全部、脚注や写真で説明がしてありました。

  • モモ: 時間どろぼうとぬすまれた時間を人間にとりかえしてくれた女の子のふしぎな物語 (岩波少年少女の本 37)
  • 『モモ: 時間どろぼうとぬすまれた時間を人間にとりかえしてくれた女の子のふしぎな物語 (岩波少年少女の本 37)』
    ミヒャエル・エンデ,ミヒャエル・エンデ,Michael Ende,大島 かおり
    岩波書店
    1,870円(税込)
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