
作家の読書道 第249回:櫻木みわさん
2018年に作品集『うつくしい繭』でデビューし、第2作『コークスが燃えている』、第3作『カサンドラのティータイム』で話題を集める櫻木みわさん。大学卒業後はタイに移住、その後東ティモールに滞在など海外経験を重ね、その間も作家を志していた櫻木さんの読書遍歴は? 帰国して作家デビューに至るまでのお話なども。リモートでたっぷりうかがいました。
その3「中学から寮生活」 (3/7)
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――中学校生活は。
櫻木:『おちゃめなふたご』に憧れていたので、私、中学校の時にうっかり寮に入っちゃったんです。でもすごく厳しいシスターが管理してる寮で、真夜中のパーティもできなかったんですけれど。
――中学生で寮に入る人って多かったんでしょうか。
櫻木:たぶん珍しかったと思うんですけれど、自分が住んでいるところが田舎すぎたんです。中学に進学する頃は、母がもっと自然の中で育ってたら面白いんじゃないかというだけの理由で、本当の修験道の山みたいなところに引っ越していたんですよ。山伏の宿坊だった家を借りてリノベして。参道の石段をずっと降りていった先に小学校はあったんですけれど、同級生は5人だけ。中学校はすごく遠くなるので、それで受験して都会の学校に行ってもいいかもね、という話になって。それでカトリックの女子校に進みました。
――どんな日常を送られたのでしょうか。
櫻木:私は小学生のころ、街で「あの子長靴はいてるよ」と笑われたりしていたんですが、福岡市のその女子校は、すごくお嬢様学校で、福岡市の著名人とか代々医者のおうちの子も来ていました。中学生でオメガの腕時計をつけていたり、ホテルのバーで父親とご飯を食べていたり。私はどこの山の子だって感じだったと思いますが、私のことをすごく大事にしてくれる子たちもいて、それでやっていけた。
あと、実家がまた引っ越しをして、遠いけれど何とか通える距離になったので、寮を出て、通学するようになりました。塾に入って、そこで公立中学の子たちと仲良くなって、それがすごく楽しかった。
読書生活では、現代作家を読むようになりました。山田詠美さんが大好きになって、山田さんの本をお守りのようにして鞄に入れていました。
最初に読んだのは『放課後の音符(キイノート)』や『風葬の教室』で、そこからもう大好きになって、高校生になってはじめて買った香水は山田さんの小説に出てきた香水だし、大学生になってはじめて飲んだお酒は山田さんの小説で知ったジントニックでした。山田さんの小説から物事を教えてもらっていました。
――なぜそこまで心に刺さったのだと思いますか。
櫻木:そうですね...。いま思ったんですけれど、魅力的な女性とか、格好いい大人とはこういうものだ、ということを書かれている方だと思うんですね。そこにしびれたのかもしれません。
――『放課後の音符(キイノート)』とか『蝶々の纏足』のような10代の子たちが主人公の小説だけでなく、『ジェシーの背骨』とか『トラッシュ』とか...いろいろ読まれたわけですね。
櫻木:はい、全部読みました。ただ友達に薦めたら、友達のお母さんからは遠回しに叱られました(笑)。「まだ早い」って。
――そういう本は、書店で見つけたのですか。
櫻木:はい。文庫で買っていました。山田さんのエッセイがきっかけで、宇野千代さんや森瑤子さんも読みました。あとは友達が村上龍さんのファンだったので、自分も『限りなく透明に近いブルー』、『コインロッカー・ベイビーズ』などを読んでいきました。村上龍さんの作品では、これは大学生のときに読んだものですが、『映画小説集』も好きでした。
筒井康隆さんにも夢中になりました。国語の先生が授業中、ぽろっと筒井さんの『七瀬ふたたび』が面白いとおっしゃって、それで七瀬シリーズの『家族八景』『七瀬ふたたび』『エディプスの恋人』の三部作から入りました。同じ先生がふと口にしたことで林真理子さんの『葡萄が目にしみる』も読んで、とても印象に残っている一冊です。宮本輝さんもいろいろ読んで、『錦繍』を特に好きでした。
――その頃は、「中川李枝子さんのような作者になりたい」と書いたことは忘れていたわけですか。
櫻木:まさに、それまで忘れていたのが、山田詠美さんの小説を読んで思い出したんです。
やっぱり自分も文章を書くようになりたいと思いました。ただ、山田さんのエッセイもその時出ているものは全部読んだんですけれど、山田さんはよく「発酵」という言葉を使われているんですね。小説を書く時でも待つ時間、発酵する時間が大事、みたいに書かれていて。自分はまだ中学生だからこの発酵の時間が必要で、小説を書けるのは今すぐではないんだろうな、と思っていました。
――国語の授業は好きでしたか。この連載で読書感想文についてうかがうと、みなさんいろいろだなと思うんです。
櫻木:私も過去の回を拝読していますが、「読書感想文は嫌いだった」という方も多いですよね。たぶん「嫌い」っておっしゃる方って、ちゃんと何を求められているかとか、フォーマットとかを分かった上でそうおっしゃっているんですよね。私はそれさえ分かっていなくて自由に書いていて、作文は好きでした。賞などももらっていました。
――部活は何かしていたのですか。
櫻木:寮の時は門限が厳しくて、学校のすぐそばにあるのに、運動部や演劇部といった時間のかかる部活が禁止だったんですよ。門限が6時なんですが5時に帰っても怒られる。
寮を出たあと、映画好きの友達と一緒に、皆で映画を観る部活を作ろうとしたのですが、必要な人数を集めて、顧問の先生も立てたのに、学校が面倒がって許可を出してくれなかった。つまらないなと思いました。
ただ、好きな先生は何人かいて、その先生にインタビューをしたくて、最終的には新聞部に入りました。先生に好きな本や好きな音楽を教えてもらって、自分も摂取していました。
――先生に教えてもらって良かった本はありましたか。
櫻木:さきほどの筒井康隆さんもそうでしたが、「好きな本を貸してください」と言ったら『サラダ記念日』を貸してくださって、そこではじめて現代短歌を読みました。
――好きな先生にインタビューしにいったということは、あまり人見知りとかそういうタイプではなかったわけですね。どういう少女だったのかなと思って。
櫻木:自分が変な人間なのではないかという不安はずっとあるんですが、すごく人見知りなところと、人懐っこいところの両方がある感じだったと思います。
――寮にいた頃は、それほど門限がはやいとなると、夜はどう過ごされていたのですか。
櫻木:お喋りしたり、イヤホンでラジオを聴いたりしていました。漫画も禁止されていたんですが、「りぼん」をこっそり買って回し読みしていました。矢沢あいさんとか、さくらももこさんとか、岡田あーみんさんとかが連載をされていた頃です。吉住渉さんが全盛でした。友達が貸してくれて『SLAM DUNK』も。