第253回: 高殿円さん

作家の読書道 第253回: 高殿円さん

ドラマ化された『トッカン―特別国税徴収官―』、『上流階級 富久丸百貨店外商部』などの多くのヒットシリーズを持ち、大阪キャバレーを舞台にした『グランドシャトー』や実在したコスメ会社創業者をモデルにした『コスメの王様』など、幅広い切り口でエンタテインメント作品を世に送り出す高殿円さん。幼い頃から水を飲むように本を読んできたという高殿さんの読書スタイルとは? 小学校時代の父親の入院、高校時代のワープロとの出会い、大学時代の阪神大震災など、その時々の重要な出来事を交え、読書遍歴を語ってくださいました。

その4「23歳で小説家デビュー」 (4/6)

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――就職はされたのですか。

高殿:私の頃はちょうど2000年問題があって、IT関連の求人だけはたくさんあったんですね。それで私も、大阪の船場のそうした会社に就職しました。
 でも書き上げた2本目の小説を角川学園小説大賞に応募したら、23歳でデビューすることになったんです。

――高殿さんは2000年に学園小説大賞の奨励賞に入選されたんですよね。

高殿:応募した小説は、西欧音楽が禁止された終戦間際の日本の学園ものでした。地下でジャズピアノを弾いている高校生の話です。それをどうしてライトノベルの賞に応募したのかという感じですが、変なやつが来たと思われたのか賞をいただき、でもあまりにもライトノベルではないのでこれでデビューはさせられませんと言われました。
 その時に、「角川ルビー文庫のティーン版の角川ティーンズルビー文庫というレーベルを作るのだけど、まだそこに作家がいないから書きなさい」と言われたんです。私以外の人はみんなスニーカー文庫からデビューしているし、私もスニーカー文庫で『アルスラーン戦記』みたいなものを書かせてもらえると思っていたのに、男の子と男の子がいちゃいちゃするものを書いてくださいと言われてびっくりしました。そこで一から勉強して書いたのが、デビュー作です(『マグダミリア三つの星』)。

――デビューが決まって、すぐ専業になられたのですか。

高殿:そうなんですよ。命知らずでしたが、会社と執筆は両立できないと思いました。大学4年の時に小説を書き終える喜びを知り、もっと書いて形にしたいと思ったタイミングで就職しなければならなかったんです。神戸からは通えないので、はじめはシェアハウスに住んで、自分で生活のことをしながら会社に通わなくてはいけなくて、土日もない仕事で、さすがにしんどかった。なにがしんどいかって、仕事がしんどいというよりは、小説を書くことにノリノリになっているのに書く時間がないということでしたね。当時、ライトノベル作家は3か月に1冊本を出すのが当たり前でしたから、やめないと書けなかったというのもありますね。
 神戸で震災を経験している作家さんと話すと、やはり「明日死ぬかもしれないとしたら、恥ずかしいことなんてない」って言うんですよね。震災を経験した人って、好きなものを好きなだけ摂取して、出し惜しみなくアウトプットして、思い切り活動したいって感じていると思います。私も23歳でデビューしたのは、そういう感覚があったからだと思います。明日死ぬかもしれないから、怖いものなんてないからって、すぱっと会社を辞めました。2年だけ小説家としてがむしゃらにやってみて、芽が出なかったらまた就職して、あとは普通の一般人のオタクとして暮らしていこうと思いました。

――専業になって、執筆に没頭されたわけですね。

高殿:はい。最速で2週間で1冊書いたりしていました。苦しかったことや理不尽だったこともいっぱいありますけれど、とにかく書くことが楽しくてしかたなかったので乗り越えられました。

――その後、角川ティーンズルビー文庫以外のところでも書くようになられて。

高殿:もともと自分がやりたいと思っていたレーベルではないので、レーベルに沿ったものしか書けないのはだんだん窮屈になっていきました。当初ライトノベルは3年奉公と言われていて、年季が明けるまでは他のレーベルでは書いてはいけないという鉄則があったんですね。そこから、ありがたいことに他社でも書けるようになって、そのたびにそこのレーベルの勉強をして書く、という感じでした。違うことがやりたくてたくて他の畑に行き、その畑で収穫できるものを勉強し、作付けをしてある程度収穫できるようになったらまた違う山を切り拓きに行くという、創作の畑の旅をしています。

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