第259回: 多崎礼さん

作家の読書道 第259回: 多崎礼さん

数々のファンタジー作品で人気を集め、今年は全五巻のファンタジー大作『レーエンデ物語』(現在第三巻まで刊行)が大変な話題となっている多崎礼さん。幼い頃に指針をくれた作品、ツールを与えてくれた小説、はまりまくった作家やシリーズ……。ファンタジーよりもSFに多く触れてきたという意外な事実も。多崎さんの源泉が見えてくるお話、ぜひ。

その3「極貧の大学生時代」 (3/6)

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――大学生時代はいかがでしたか。

多崎:家を出たくて、意図的に遠くの山の上のほうにある理系の大学を選び、レポートが忙しいからと言って2年生から一人暮らしを始めました。でもそれが本当に極貧生活で。1か月に家賃込みで5万5000円で暮らさなきゃいけなかったんですよ。家賃が3万5000円で、光熱費などを払うと手元に1万残るか残らないかくらい。それで1か月暮らすので、本を買う余裕がありませんでした。本屋も図書館も町まで行かないとなかったんですが、バスは片道200円で往復400円かかる。歩いていくとなると帰り道がもうものすごい坂道で、登山みたいになるという。そもそも実験やってレポート書いて予習復習やって忙しかったので、本を読んでいる暇もあまりなかったんですけれど。

――小説を読んだり書いたりするのが好きなら文系に進みそうな気もするのですが、理系だったのですか。

多崎:そうですね。学生時代は小説家になりたいと思っていなかったので。高校生の頃は今でいうキャビンアテンダントさんになりたかったんですよ。なぜかというと、飛行機が大好きだったから。馬鹿でしょう?(笑)本当は機長になりたかったんですけれど、頭が悪いのと目が悪いのと身長が基準に達していなかったのとで無理だったので、大学で英文科にいってキャビンアテンダントさんになるつもりで勉強していました。でもふと、「あれは女の職場じゃないか」と気づいたんですね。今自分はクラスで同年代の女子とこれだけ話が合わなくて、ともすればちょっといじめられることもあるのに、女の職場でやっていけるわけがないなと突然気づいたんです。それで断念しました。
じゃあ自分は何になりたいんだろうと考えた時に、CMを作るような映像作家になりたいなと思って。それで工学部で画像工学を教えてくれる大学に行きました。

――いろいろ意外すぎるんですけれど、飛行機が好きになったのはなにかきっかけがあったのですか。

多崎:姉が当時付き合っていた彼氏が、新谷かおるさんの『エリア88』という漫画を貸してくれたんですよ。どハマりしました(笑)。漫画を禁止されていたとはいえ、はじめて読んだ漫画というわけでもなかったんですけれど、新鮮でしたね。飛行機ってめちゃ格好いいと思いました。もともと子供時代にスーパーカーにはまったし、新幹線が大好きで見に行きたいって駄々こねたりしてたし、バイクも好きだったので、乗物全般、メカ全般が好きだったんです。で、飛行機は速いし格好いいし空を飛ぶじゃないですか。航空基地祭に行ってしまうくらいはまっていました。

――そこから映像に行ったというのは、映像も好きだったのですか。

多崎:洋楽が好きで、MTVで海外のアーティストのプロモーションビデオをよく目にしていたんです。当時は日本人アーティストはそれほどプロモーションビデオを作っていなかったんですが、海外の人は必ずといっていいほど作っていて、それがショートムービーみたいで好きだったんです。後になって、映像が好きというより、話を作るのが好きだったんだって気づくんですけれど。当時は映像とか写真系、広告系に進みたいと思って進学先を選びました。

――大学時代、まったく本は読まなかったのですか。

多崎:私がお金がなくて本とか漫画を買えないことを友人たちは知っているので、「なにか読むものがほしい」というと、みんな「これいいよ」って言って貸してくれるんです。それで、友達が『銀河英雄伝説』を貸してくれました。これはもうあまりにも好きすぎてどうしても自分でも欲しくなって、町に買い出しに行くついでに古本屋さんを三、四軒まわっては探して集めていました。その後、ちゃんと新刊で買い直しましたよ!
田中芳樹さんは他の作品も読みましたが、やはり長篇では「銀英伝」がすごく好きでした。それと、『流星航路』という短篇集は何度繰り返して読んだか分からないくらい好きでした。ブラッドベリで素地ができていたからなのか、短篇はやっぱり好きでしたね。
他には、友人が『ジョジョの奇妙な冒険』を全巻貸してくれたんです。紙袋にごっそり入ってました。読んで、なんて面白いんだろうと思いました。勉強が手につかなくなるからもうやめてーと思いながらも、どうしても続きが気になって1冊、もう1冊と読んでいました。

――大学時代、小説は書いていましたか。

多崎:書いていました。机の上にレポートの山があって、隣に小説を書くための山があって、レポートを仕上げたら、「さ、遊ぶか」という感じて小説の山を引っ張り出す感じでした。ただ、長い話は考えられなくて、短い話が多かったですね。本編のない外伝みたいなものを書いていました。

――アイデアに枯渇することってなかったのですか。

多崎:全然なかったです。自分が好きなシチュエーションがいつでも楽しめるよう、自分を満足させるために書いていたので枯渇ということは全然ないし、枯渇するなんて考えたこともなかったです。授業中でも、「これ面白いな、物語のネタになるな」などとずっと考えていました。

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