第259回: 多崎礼さん

作家の読書道 第259回: 多崎礼さん

数々のファンタジー作品で人気を集め、今年は全五巻のファンタジー大作『レーエンデ物語』(現在第三巻まで刊行)が大変な話題となっている多崎礼さん。幼い頃に指針をくれた作品、ツールを与えてくれた小説、はまりまくった作家やシリーズ……。ファンタジーよりもSFに多く触れてきたという意外な事実も。多崎さんの源泉が見えてくるお話、ぜひ。

その5「SFベースでファンタジーを書く」 (5/6)

  • 〈本の姫〉は謳う1 (C★NOVELSファンタジア)
  • 『〈本の姫〉は謳う1 (C★NOVELSファンタジア)』
    多崎礼,山本 ヤマト
    中央公論新社
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  • ゲイルズバーグの春を愛す (ハヤカワ文庫 FT 26)
  • 『ゲイルズバーグの春を愛す (ハヤカワ文庫 FT 26)』
    ジャック フィニイ,福島 正実
    早川書房
    924円(税込)
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  • レベル3 (異色作家短篇集)
  • 『レベル3 (異色作家短篇集)』
    ジャック フィニイ,Finney,Jack,正実, 福島
    早川書房
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――投稿時代、どういう賞に送っていたのですか。

多崎:ライトノベル系の賞が多かったですね。さきほど話した父に関するトラウマからか、文芸の賞を狙おうという気持ちは全然なかったです。

――デビュー作の『煌夜祭』はファンタジー作品ですよね。島々をめぐって物語を集めた語り部たちが、冬至の夜に集まってその物語を語り継ぐ煌夜祭。その年語られるのは、人を食べる魔物をめぐる話で...という話で、意外な展開が待っています。ファンタジーを書いたきっかけはなんだったのでしょうか。

多崎:当時はファンタジー全盛だったんですよね。ファンタジー作品が賞を獲ることが多かったので、じゃあ自分も一回書いてみるかと思って。その頃、臓器移植を受けた人がドナーの記憶や嗜好性を受け継ぐという話にすごく興味があって、そのネタで何か書きたいなと考えていたんです。それで、人を食べたら、その人の記憶が入ってくる、という設定はファンタジーのネタとして面白いのではないか、というところから入りました。

――そこからだったとは。島々が円形に浮かんでいるという、あの世界設定については。

多崎:あれはボーアモデルが頭にありました。人間は国境があると戦争をしてしまうから、じゃあ戦争がないように誰かが人工的に島々を作ったとしたら......などと、地図を考えていたら面白くなってきて。原子模型のように、核があって、そのまわりを電子がまわっているイメージで島々を配置するということをやってみたかったんですよね。
最初はすごく長いクロニクルを考えたんですけれど、とてもじゃないけれど投稿作に収まらないんですよね。面白い要素だけを選び出して語りという形で繋げていけば全部入るかな、と考えました。わりと行き当たりばったりですよね(笑)。

――そうやって書きあげた『煌夜祭』が第2回C★NOVELS大賞の大賞を受賞して、デビューが決まったという。

多崎:受賞してびっくりしました。本当に本当にびっくりしました。当時はまだ書店で働いていたので、働きながら自分の本も売りました(笑)。
 その後専業になったのは、働いていた本屋が潰れてしまったからなんです。デビューした時に編集さんに「仕事は辞めないでくださいね」と言われていたのでどうしようかと思い、編集さんにおうかがいを立てたんですよね。そうしたら、「いや、専業でもいいんじゃないですか」って言われました。なので、暮らしていけなかったらまた本屋でアルバイトすればいいや、くらいに考えて専業になったんですが、ありがたいことに今も専業でやっています。

――デビュー作がファンタジーだと、ファンタジー作家というイメージを持たれますよね。それはご自身ではどうだったのですか。

多崎:さあ困ったぞと思いました。2冊目に書かせてもらったのが『〈本の姫〉は謳う』という作品で、あれは二つの世界の話ですが片方はSFっぽくて、もう一方がファンタジーで。でもそのファンタジー要素にも全部、SF的な設定の裏打ちがあります。

――本を修繕する少年が、邪悪な存在とされる文字を回収するために〈本の姫〉と旅を続けているという物語ですよね。

多崎:「2001年宇宙の旅」のモノリスみたいなイメージですね。あれはモノリスが立っていることによって、猿から人間への進化が促されたという設定じゃないですか。あれと同じで、文字というものがあって、それが意思を持っていることにより進化が促されたという設定です。だからSFベースなんですよね。私はファンタジー的なものもSFベースで考えるというか、私の中ではファンタジーもSFも同じものみたいなところがあって......というと怒られるかもしれませんが。
でも、昔は許容範囲の広いSFもたくさんありましたよね。ジャック・フィニイの『ゲイルズバーグの春を愛す』なんて完璧にファンタジーだと思う。『レベル3』とか『マリオンの壁』とかも大好きでした。『ジョナサンと宇宙クジラ』を書いたロバート・F・ヤングもそうですよね。短篇の『たんぽぽ娘』なんて、すごくふんわりとしたSFですよね。ああいう、ファンタジーに近いようなSFが好きだったので、「ああいうのなら書ける」という感じで今までやってきた気がします。

――じゃあたとえば、万物に神が宿る世界が舞台の『八百万の神に問う』シリーズとかは、どういう発想だったのでしょう。

多崎:それもSFがベースにあります。彼らが神様と言っているのは、たぶん宇宙人なんですよ。思想を糧とする宇宙人が宇宙船でやってきて、共存共栄を図るために人間たちの思想を統一をしたら一回失敗しちゃって、それで新しく作り直したのが「楽土」だという。山の上に神の世界があるというのは、山の上に宇宙船があるからなんですよね。その磁場か何かの影響で、楽土に入れたり入れなかったりするという......。

  • ジョナサンと宇宙クジラ (ハヤカワ文庫SF)
  • 『ジョナサンと宇宙クジラ (ハヤカワ文庫SF)』
    ロバート・F ヤング,伊藤 典夫,網中 いづる,Young,Robert F.,伊藤 典夫
    早川書房
    924円(税込)
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  • たんぽぽ娘 (河出文庫)
  • 『たんぽぽ娘 (河出文庫)』
    ロバート・F・ヤング,伊藤典夫,伊藤典夫
    河出書房新社
    935円(税込)
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  • 八百万の神に問う2 - 夏 (C★NOVELS)
  • 『八百万の神に問う2 - 夏 (C★NOVELS)』
    多崎礼
    中央公論新社
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