
作家の読書道 第265回:行成薫さん
2012年に『名も無き世界のエンドロール』(応募時タイトルは「マチルダ」)で小説すばる新人賞を受賞、以来さまざまなエンタメ作品で読書を楽しませてきた行成薫さん。幼い頃からエンタメを本から摂取し、10代の頃から音楽活動を開始していた行成さんが愛読してきた作家や作品、そして小説を書き始めたきっかけは?
その5「現代小説を摂取する」 (5/7)
――その頃の読書生活はいかがですか。
行成:デビュー前の2年間からデビュー直後のまだ時間があった頃は、現代小説をいっぱい読んでいました。それは今でも影響を受けていると思います。
横山秀夫さんの『半落ち』とか、乙一さんの『暗いところで待ち合わせ』とか、万城目学さんの『鴨川ホルモー』とか。桜庭一樹さんの『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』はあのキャラ設定であんな結末になるんだとびっくりしたし、奥田英朗さんの『サウスバウンド』は、僕は角川文庫版で読んだのですが、上下巻で全然違うのがすごいなと思いました。あれは家族の話ですが、上巻では活動家ではちゃめちゃで嫌な父親が、下巻で沖縄に舞台を移した瞬間にすごく格好よく見えてくるんですよね。その価値観の逆転と、きれいな構成が好きでした。
他に貴志祐介さんの『黒い家』は、本を読んではじめて途中でページを飛ばしました。怖くて(笑)。東野圭吾さんの『容疑者Xの献身』も読んで、すごく綺麗な作品だなと感じました。
――そういう時の読書って、わりと技術的なことを意識して読みますか、それとも純粋に読者として楽しみますか。
行成:僕、作家にとってはいい読者 だと思うんですよ。あまり勉強という考え方はなく、とりあえず作者に身を任せて読んで普通に驚いてます。デビューして間もない頃、座談会でお会いした葉真中顕さんの 『ロスト・ケア』を買って読んだ時も、見事にやられましたし。
――読書記録などはつけていますか。
行成:まったくつけないです。記録をつけるほど読んでいないと思うんですけれど、そもそも収集癖がないんです。小さい頃、ビックリマンシールが流行していた時も、僕は友達からチョコをもらっていたタイプで(笑)、シールは要らなかった。本も、読んだ記録をつけるために読むとなると本末転倒かなと思っています。
――どの本をいつ読んだか忘れてしまいませんか。
行成:ああ、本当に申し訳ないんですけれど、読んだ本の内容はほぼ忘れます よね。読んだ本を一言一句憶えているような人もいますが、僕はそういうタイプではないです。でも、読んだ時の感情とか、すごく印象に残ったことは憶えているので、無駄になってはないと思っています。
なので、知り合いの作家さんの本も、読んだのに内容を忘れてしまうので、会った時に突っ込まれるとやばいなと思っています(笑)。
自分が読書をした時にとにかくキャラクターの名前を覚えられないので、自分の作品では、なるべくニックネームで呼ばせたり、カタカナ表記にして単純化するなどして、読者の方に憶えてもらおうとしています。