
作家の読書道 第265回:行成薫さん
2012年に『名も無き世界のエンドロール』(応募時タイトルは「マチルダ」)で小説すばる新人賞を受賞、以来さまざまなエンタメ作品で読書を楽しませてきた行成薫さん。幼い頃からエンタメを本から摂取し、10代の頃から音楽活動を開始していた行成さんが愛読してきた作家や作品、そして小説を書き始めたきっかけは?
その7「新作と今後について」 (7/7)
――新刊の『ジンが願いをかなえてくれない』は短篇集です。これはどういう出発点だったのですか。
行成:光文社さんの「小説宝石」から短篇のお仕事をいただいたんです。テーマ短篇の競作を2篇ほど書いたときに、「どちらも普段スポットライトが当たらないような人たちの話なので、その方向性で短篇を書いていって1冊にまとめましょう」となって。
――各短篇のテーマは何だったのですか。
行成:「小説宝石」に最初に書いた「ユキはひそかにときめきたい」のテーマは「胸キュン」、「子供部屋おじさんはハグがしたい」が「中年男性」、「妻への言葉が見つからない」が「会えない人」だったかな...。「屋上からは跳ぶしかない」はもともと「4M25」というタイトルで、デビューして間もない2013年に「小説すばる」に書いた短篇でした。今回の本の話をしている時に、編集者さんに「昔こういう話を書いたんですよ」と言ったら収録されることになりました。結構前の短篇なので、いろいろ加筆修正して調整しましたけれど。
――「ユキはひそかにときめきたい」は、娘と一緒にアイドルのコンサートに行った母親が、奇妙な薬を手に入れる話。「妻への言葉が見つからない」は、パソコンのチャットで文章指南している男が、老人男性から相談を受ける話。「屋上からは跳ぶしかない」は契約社員として働く女性が、同じビルのブラック企業らしき会社に勤める青年と屋上で出会う......などと、いろんな状況の人たちが登場するのが面白かったです。テーマを与えられると、そうした人たちが浮かんでくるのですか。
行成:僕は思考の仕方がアーティストタイプじゃなくて、クリエイタータイプというか。自分の表現をしたいということではなく、依頼をいただいたらどれだけ期待に応えるかを考えるんです。なので、お題を出されたほうが割とやりやすかったりします。なにかポンとひとつ、「こういうのはどうですか」と言われたら、そこに自分のエッセンスと組み合わせて「こういう話はどうですか」とやりとりしていくのが僕はやりやすいです。
今回の表題作の「ジンが願いをかなえてくれない」の時は、「次はテーマフリーで」と言われて、それが一番大変でした(笑)。それで編集者と打ち合わせをさせてもらって、それまで書いてきたなかで「ユキはひそかにときめきたい」だけけファンタジーっぽい短篇なので、もう一篇ファンタジー要素のあるものを書きましょうか、ということになって。
――それで、ランプの魔人であるジンと出会う女子高校生の話となったのですね。行成さん、三題噺とか得意そうですね。
行成:ああ、ブログをやっていた時に、三題噺みたいなことはやりました。先ほど友達がお題をくれた話はしましたが、画像を5枚渡されて、これで小説を1本書け、みたいなこともやっていて。実は「妻への言葉が見つからない」は、当時「ラブ・レター」というタイトルでひとつ書けと言われて書いたものがベースになっています。締め切りまで時間がなくて追い詰められて、過去の自分の作品からヒントをもらってしまいました。
――その結果すごくいい話ができたのだからいいじゃないですか(笑)。最後に収録されている書き下ろしの「パパは野球が下手すぎる」も予想とは違う展開で、すっごくいいお話でした。
行成:そう言ってもらえるならよかったです。
――一日の執筆時間は、何時から何時まで、などと決まっているんですか。
行成:決まってないです。だんだんずれていきます。昼間書いていたのが、気づけば夜に書くようになって、深夜になって、朝型になっている、みたいな(笑)。
――ところで、作詞はもうされていないのですか。10代20代の頃って、どういう歌詞を書かれていたのでしょうか。
行成:当時書いていたものは、ものによりますけれど、どちらかというと恋愛とかではなく、生きづらい、みたいな感じの歌詞だったと思います。
デビュー後も、作詞の仕事は1回やったことがあります。「KASHIKAプロジェクト」という、アニメPV製作プロジェクトがあって、その第一弾PVとなった「KASHIKA」のシナリオ原案と、歌詞の担当をさせていただいたんです。曲は若いアーティストさんたちを集めてコンペをやって選ぶという形で、僕もついでにボーカルディレクションをちょっとやらせていただいたりして。
――あ、アニメの原案のお仕事もされているんですか。
行成:いえ、それがはじめてです。アニメーターの友人づてに、たまたまそんな話になって、「じゃあやろうか」みたいな感じでした。
――今後そういう活動も広げていくのでしょうか。
行成:ご依頼いただければ全力で頑張ります!お待ちしております!
――小説の執筆活動での今後のご予定は。
行成:秋ぐらいに文庫が一本出る予定で、書き下ろし長篇や文庫シリーズの企画も進行中です。 来年、光文社さんから出るアンソロジーにも参加する予定です。
(了)