第267回:大槻ケンヂさん

作家の読書道 第267回:大槻ケンヂさん

ミュージシャンとしての幅広い活動はもちろん、文筆活動でも絶大な人気を誇る大槻ケンヂさん。エッセイでも多くの本や映画に言及されてきた大槻さんに、いま改めて読書遍歴をおうかがいしました。ご自身が小説を書くきっかけとなった話や、最近、小説や読書について感じていることのお話なども。

その4「アジア旅行記、オカルト本」 (4/6)

  • 深夜特急1 ー 香港・マカオ〈文字拡大増補新版〉 (新潮文庫)
  • 『深夜特急1 ー 香港・マカオ〈文字拡大増補新版〉 (新潮文庫)』
    沢木 耕太郎
    新潮社
    605円(税込)
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  • 12万円で世界を歩く (朝日文庫 し 19-1)
  • 『12万円で世界を歩く (朝日文庫 し 19-1)』
    下川 裕治
    朝日新聞出版
    792円(税込)
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  • 河童が覗いたインド (新潮文庫)
  • 『河童が覗いたインド (新潮文庫)』
    河童, 妹尾
    新潮社
    737円(税込)
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  • 哀愁の町に霧が降るのだ (上) (小学館文庫 し 2-7)
  • 『哀愁の町に霧が降るのだ (上) (小学館文庫 し 2-7)』
    椎名 誠
    小学館
    957円(税込)
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――思い出したというのは、なんでしょう。

大槻:僕の中高大学時代は、若いもんが海外旅行なんてなかなか行けなかったんですよね。特にインドなんて行けなかった。僕はアジアの旅行記が大好きで、バックパッカーたちの聖典みたいに言われていた蔵前仁一さんの『ゴーゴー・インド』とか『ゴーゴー・アジア』、沢木耕太郎さんの『深夜特急』、下川裕治さんの『12万円で世界を歩く』、妹尾河童さんの『河童が覗いたインド』といったアジア放浪本を相当読んでいたんですよ。
それで、23、4歳の頃にはじめてインドに行ったんです。「本に書いてある通りだな」っていうのが一番の感想でした。本に書いてあることを確認しに行った旅みたいになっちゃった。蔵前さんの本なんて、ご本人がイラストレーターだから克明な絵が描かれてありますしね。昔はカルカッタと呼ばれていたコルカタの、バックパッカーたちが集まるサダルストリートという安宿街に物乞いの人がたくさんいるっていうことも本で読んでいたから、行ったらショックを受ける前に「ん? 書いてあった通りだな」って思った。確認の旅になっちゃったのは失敗でした。本も読めばいいってものでもない。でも、それから30年40年経ってますから、今行くとまた全然違うんでしょうね。
そういう旅行記を読みつつ、エッセイもたくさん読みました。80年代くらいには昭和軽薄体なんて言われかたもした、「~しちゃったんである」みたいな書き方のライトエッセイですね。椎名誠さんとか、嵐山光三郎さんとか、南伸坊さんとか。椎名さんで最初に読んだのは『さらば国分寺書店のオババ』だったかな。そこから『哀愁の町に霧が降るのだ』や『インドでわしも考えた』など、もう、超読みましたね。
そういう、難しいことを簡単に分かりやすくお喋り文体で書く、みたいなことが80年代にものすごく流行って、中島らもさんもその流れの一つに入れてもいいのかもな。そのあたりは僕はもう本当に影響を受けました。

――ノンフィクションはよく読みますか。

大槻:ノンフィクション、とは言いがたいんですけど...30歳手前くらいの頃に、UFOとかそれ系のオカルト本が出るとわりと買う、という時期がありました。92年くらいかな、と学会というのが設立されたんです。このあいだ亡くなったSF作家の山本弘さんなんかが立ち上げて、たとえばオカルト本などを懐疑的に読んでいくっていう集まりです。その現象が実際はどうなんだっていうのを突っ込みをいれながら読んでいくんですよね。僕もそういう、とんでもないことが書いてあるオカルト本を面白がる懐疑派としていろいろ読んでいました。
最初に、新人物往来社から出た、稲生平太郎さんという方の『何かが空を飛んでいる』を読んだんですよね。喋り口調の文体で、UFO現象をひとつの都市伝説、民間伝承ととらえて、そうした伝承はなぜ生まれたのかを考察していくんです。UFO現象は妖精や妖怪といった伝承とどこがどう合致するのか、みたいなことも書かれてあった。そういう考え方は海外にはあったんですけれど、日本ではそれほど知られていなかったんですよ。それまでUFOについては、空飛ぶ円盤や宇宙人が本当にいるのかどうかという論争が主だったんですよね。そうした「いる」「いない」ではなく、UFO現象という物語をどう解釈するかという考え方が、当時の僕にはものすごくショッキングで、そこからズルズルっと入っちゃいました。
この方ももう亡くなっちゃったんですけれど、志水一夫さんというオタク的なものを論評する人が書いた『UFOの嘘』という本もありました。UFO番組なんかにどれだけ演出が施されているのかを勉強していく本で、これも斬新だった。志水さんはと学会の会員だったので、そこからと学会の人たちの怪しげな事件に対する興味の持ち方に僕も興味を持ったんです。一時期、と学会本は出せば売れる状態で、ものすごくたくさん本が出ていたので、それもあってあまり小説を読まなくなっちゃったのかな。
コロナの時には陰謀論懐疑派の本がたくさん出ましたけれど、そういうのも面白く読みました。Qアノンについてとか。最近はオカルトに対して、ビリーバーとは言わないけれど、そこまで否定派でもなくなってきています。ないこともなくもないかもしれないな、くらいにはなってきているかな。

  • インドでわしも考えた (集英社文庫)
  • 『インドでわしも考えた (集英社文庫)』
    椎名 誠,山本 皓一
    集英社
    638円(税込)
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  • 何かが空を飛んでいる
  • 『何かが空を飛んでいる』
    稲生平太郎
    国書刊行会
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