
作家の読書道 第269回:前川ほまれさん
2017年にポプラ社小説新人賞を受賞した『跡を消す 特殊清掃専門会社デッドモーニング』を翌年刊行してデビュー、昨年『藍色時刻の君たちは』で山田風太郎賞を受賞した前川ほまれさん。看護師でもある前川さんが、小説家を目指したきっかけは? その読書遍歴と来し方についてたっぷりおうかがいしました。
その1「海辺の街のサッカー少年」 (1/7)
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- 『怪物くん(1) (藤子不二雄(A)デジタルセレクション)』
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――いつもいちばん古い読書の記憶からおうかがいしております。
前川:いちばん古い記憶というと絵本です。自分は東北出身で、やはり宮沢賢治にゆかりがあるので、家にも結構宮沢賢治の絵本がありました。『よだかの星』や『銀河鉄道の夜』などがあるなかで、特に『注文の多い料理店』が好きでよく読んでいた記憶があります。
――『注文の多い料理店』って、最後ちょっと怖いですよね。
前川:そうなんですよね。自分は今でも結構ホラーが好きなんです。
――東北のどちらのご出身でしょうか。
前川:宮城県の東松島というところです。仙台よりも石巻に近い、どちらかというと田舎の海沿いの街です。
――わりと家に本があるおうちだったんですか。
前川:母が漫画も含めてかなり本を読んでいて、自分も幼少期から絵本はよく買ってもらっていました。小学生くらいの頃は小説よりも漫画をよく読んでいましたが、那須正幹さんの『ズッコケ三人組』シリーズにははまって、誕生日の時などに買ってもらっていました。
漫画は藤子不二雄Ⓐさんの『怪物くん』などを古本屋さんを回って買っていました。母がよく「ジャンプ」を買っていたので、『SLAM DUNK』とか『ドラゴンボール』なども読みましたね。それと、地元の少年団みたいなところに入ってサッカーをしていたので、『キャプテン翼』などのサッカー漫画もよく読んでいました。
――ごきょうだいと本の貸し借りなどはされましたか。
前川:ふたつ下の弟がいるんですが、自分とはちょっとタイプが違って。弟はどちらかというとゲームが好きなんですが、自分はゲームを一切せずに本や漫画を読んでいたんです。
ゲームは今でもちょっと苦手なんですよね。たぶん、操作がうまくできなくて。周りの友達も、ゲームの話よりもサッカーの話ばかりする子が多かったです。
――小学生時代、学校の図書室は利用していましたか。
前川:先ほど言った『ズッコケ三人組』シリーズや、『もしかしたら名探偵』などの「あなたも名探偵」シリーズなどの児童書を借りていました。
それと、動物が好きだったこともあって、赤川次郎先生の『三毛猫ホームズ』シリーズは小学校高学年の頃にめちゃくちゃはまりました。
――シリーズものが多いですね。
前川:あまりこだわってはいなかったんですけれど、シリーズだと本棚にいっぱい並んでいるので、そこから面白そうなタイトルを抜き出す習慣がありました。
あとは、怪談ものやお化けが出てくる本もよく借りていました。
――怪談ものというと、民話系とか都市伝説系とかありますが、どういうものが好きだったのですか。
前川:ラフカディオ・ハーン、日本の名前でいうと小泉八雲の『耳なし芳一』とか。怖いなりにすごく好きで、そういう物語を読んでいました。
――学校の国語の授業は好きでしたか。
前川:好きでも嫌いでもなかったんですが、得意なほうだったとは思います。教科書に掲載されている谷川俊太郎先生の詩などを先読みしていました。教科書に載っていたものでは俵万智さんの『サラダ記念日』も記憶に残っています。
――その頃、将来何かになりたいと思っていましたか。
前川:当時は結構本気でサッカー選手になりたいと思っていたかもしれません。小学生の頃にJリーグが始まって、カズのようなスター選手がいて、サッカーが熱くなっていく時期ではあったんですよね。自分はそんなに上手くないんですけれど、唯一、本当に夢中になっていたものだったので。だから読書もサッカーの合間に、ゲームはできないし家に本がいっぱいあるから読むか、という感じでした。自分で何か書きたいとか創作したいとは思ってもいなかったです。
――本の他に、アニメや映画など楽しんだエンタメはありましたか。
前川:自分が小学生の頃は『ドラゴンボール』が一世を風靡していたので、そのアニメ映画を観に行きました。近所に公民館があって、そこで毎年夏休みなどに『ドラゴンボール』や『SLAM DUNK』のアニメ映画を上映していたんです。うちは両親が共働きだったので、祖母と弟と一緒に観に行っていたことはすごく憶えています。
――海沿いの街に住んでいたとのことですが、海で遊んだりはしましたか。
前川:自転車で10分も走れば海だったんですけれど、観光地のような砂浜の海ではなくて、テトラポットがあって、漁船が泊まっているような海だったんです。なのであまり海水浴をした記憶はないです。高校生時代に防波堤の上から釣りをしたりはしていました。