第283回:渡辺優さん

作家の読書道 第283回:渡辺優さん

2015年に『ラメルノエリキサ』で第28回小説すばる新人賞を受賞、翌年同作を刊行してデビューした渡辺優さん。最新作『女王様の電話番』は直木賞候補にもなって話題に。ミステリ要素やSF要素を取り込みつつ、現代社会のありようや人々の心情をさまざまな形で描き出す作風は、どのように育まれてきたのか。読書遍歴を中心に来し方をおうかがいしました。

その2「読書よりゲームにはまる」 (2/7)

  • もものかんづめ (集英社文庫)
  • 『もものかんづめ (集英社文庫)』
    さくら ももこ
    集英社
    429円(税込)
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  • さるのこしかけ (集英社文庫)
  • 『さるのこしかけ (集英社文庫)』
    さくら ももこ
    集英社
    462円(税込)
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  • たいのおかしら (集英社文庫)
  • 『たいのおかしら (集英社文庫)』
    さくら ももこ
    集英社
    792円(税込)
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  • まる子だった (集英社文庫)
  • 『まる子だった (集英社文庫)』
    さくら ももこ
    集英社
    682円(税込)
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  • 永遠の仔(一)再会 (幻冬舎文庫)
  • 『永遠の仔(一)再会 (幻冬舎文庫)』
    天童 荒太
    幻冬舎
    781円(税込)
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  • 魔法騎士レイアース(1) (なかよしコミックス)
  • 『魔法騎士レイアース(1) (なかよしコミックス)』
    CLAMP
    講談社
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  • HUNTER X HUNTER 1 (ジャンプコミックス)
  • 『HUNTER X HUNTER 1 (ジャンプコミックス)』
    冨樫 義博
    集英社
    484円(税込)
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  • ラメルノエリキサ (集英社文庫)
  • 『ラメルノエリキサ (集英社文庫)』
    渡辺 優
    集英社
    594円(税込)
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――ご両親の本棚で、『まあじゃんほうろうき』以外に読んで面白かったものはありましたか。

渡辺:さくらももこさんのエッセイですね。母が『もものかんづめ』とか『さるのこしかけ』と『たいのおかしら』や、『まる子だった』など後続のシリーズもすべて持っていて、それをすごく楽しく読みました。エッセイというものを読んだのはたぶんそれが初めてで、エッセイは面白くて笑えるものなんだという認識で生きていました。
それと、今思い出したんですけれど、小学生時代に母が天童荒太さんの『永遠の仔』を読み始めて、「すごく面白いから」といって貸してくれたんです。それで私も読み始めたんですけれど、途中で急に母が「これはまだ読んじゃ駄目」って言い始めて。「高校生になったら読んでいいよ」と言われたんですね。そっちが薦めたのに、ここから面白くなりそうなところで急に止められるなんて納得いかないと思って反発をおぼえました。でも、高校生になってから読んでみたら、実の親からの性的虐待など重たいテーマが書かれてあって、まあ母が止めたのもしょうがないかな...とちょっと納得しました。親からストップがかかったのはその一件だけで、それ以外はわりとオープンになんでも読ませてもらっていました。

――漫画は読まれましたか。

渡辺:すごく好きでした。幼稚園の頃は「なかよし」派でした。「りぼん」派はおしゃれな子たちというイメージで、「なかよし」派はわりとオタク傾向が強かった気がします。CLAMPさんの『魔法騎士レイアース』のような魔法少女系というか、女の子がファンタジーの世界で戦う漫画がすごく好きでした。
その後、兄の影響で少年漫画を読むようにもなりました。なので、基本的に異世界ファンタジーばかり読んできたかもしれないです。現実世界で恋愛をする女の子たちが出てくる漫画を読み始めたのは高校、大学に入ってからくらい。小中学生時代はもう、兄が持っている異能力バトル系の漫画ばっかり読んでいました。いまだに『HUNTER×HUNTER』がめちゃめちゃ大好きで、今も新刊が出たら買って読む漫画のひとつです。

――中学生時代、小説はいろいろ読みましたか。

渡辺:中学高校はわりと読書から離れていて、そこまでたくさん読んだ記憶がなくて。『バトル・ロワイアル』にどはまりして、「ハリー・ポッター」は新作が出たら読んで、あとは本屋さんにふらっと入って、目についたものをジャケ買いしていました。それで辻村深月さんの本も買って読みました。その後、大学に入ってからいちばん仲良くなった友達がすごく本を読む子で、辻村さんの大ファンだったんです。その子が持っている辻村さんの本はほぼ借りたので、その時点で刊行されていた作品は全部読んだんじゃないかなと思います。ただ、中高生の頃はそこまで本を読んでいた記憶がないんです。

――なにか他のことに打ち込んでいたのですか。

渡辺:中高時代はテレビゲームにはまって、そればっかりになっていた時期でした。兄もゲームオタクだったので、その影響をもろに受けてずっとゲームをやっていました。中学時代、最初に入った部活が剣道部だったんですけれど、早く帰ってゲームやりたいのになんで部活をやらなくちゃいけないんだろうって気持ちが強すぎて。たしか2年生の最初くらいに辞めて帰宅部になって、晴れてゲーム三昧の中学時代を送ることができるようになって嬉しかった記憶があります。

――どんなゲームが好きだったんですか。

渡辺:小学生の頃から「ポケモン」の赤と緑はやっていたんです。中高生の頃は「ファイナルファンタジー」とか「バイオハザード」とか。あ、あと「幻想水滸伝」というゲームをめっちゃやっていたことを思い出しました。もう、ゲームのせいで私は目が悪くなったと思っています。

――ところで、剣道部に入ったのはどうしてだったのですか。

渡辺:一応、部活は必修だったんです。ただ、平成のその頃は、運動部に入らなければ人ではないみたいな空気があって...。

――この連載で他の方からも同じようなことを聞いたことがありますが、そんな空気があったというのが驚きです。

渡辺:本当は美術部に入りたかったけれど、運動部か吹奏楽部に入らないといじめられると思ってしぶしぶ運動部に入ったんです。そういう空気があったのって、私の世代だけなんでしょうか。高校も部活必修だったんですけれど、図書部に入りました。部活に入りたくない人のための部活がちゃんと用意されていて(笑)、それが図書部だったんです。月に一回くらい図書委員の代わりに図書室の受付に入る、みたいな部活でした。

――高校時代は、小説はぜんぜん読まなかったのですか。

渡辺:学校帰りに本屋さんに寄った記憶はたくさんあるんです。漫画を買ったり、文庫本コーナーで本を選んだりしたことは憶えています。文章を読むのが好きだったので、立ち読みして、でも一冊を読み切るでもなく...。小説が好きというより、活字が読みたいだけだった気もします。
その頃に、森博嗣さんの小説を手に取ってパラパラ立ち読みしたと思うんです。大学になってから森博嗣さんにすごくはまって読んでいたら、「あれ、この文章読んだことがあるな」と気づいたことがあって。高校時代立ち読みしていた本はこれだったんだ、と思いました。

――その頃はまだ、小説家になろうとは考えてなさそうですよね。

渡辺:真剣には考えていませんでした。でも、なりたいなとは思っていた気がします。現実的に目指す職業じゃなくて、「石油王になりたい」とか「ハリー・ポッターの魔法学校に行きたい」と同じような空想上のラインで「小説家になりたい」と思っていました。だから、その頃にはもう、小説は自然発生するものではないと気づいていたと思います(笑)。

――振り返ってみて、どういう子供だったと思いますか。活発だったのか、それとも。

渡辺:小学生くらいまではすごく活発だったと思います。兄がふたつ年上で、近くに住んでいるいとこもふたつ上で、ふたつ上同士が遊んでいるところに混ざろうと必死でした。年上の子たちに追いつきたいという、ハングリー精神というか闘争心みたいなものがすごく強い子供でした。ものすごく活動的で、小学校の時は学芸会では毎回主役をやりたがるし、小学校三年生で初めてクラス委員制度が導入された時も立候補してクラス委員をやりました。みんながやりたがらないことをやりたがるし、劇では一番いい役をやりたがる感じでした。
でも、なぜかそのマインドが中学生で失われたんです。自分でも何があったんだろうって思うくらい性格が変わって、できるだけ目立ちたくないという方向になりました。

――デビュー作の『ラメルノエリキサ』を読んだ時、作中に何度も「クソガキ」という言葉が出てきたりして過激な印象だったので、お会いしたら渡辺さんがすごく静かな雰囲気の方だったのでギャップを感じた記憶があります。

渡辺:引っ込み思案になってからも闘争心はどこかに残っていて、小説を書いているとそれが出てくるような気がしています(笑)。
大人のちょっとした間違いをすごく言いたがる子供だったんです。嫌いな先生はすごく嫌いで、「大人って汚い」って思っているようなタイプの子供でした。高校時代はだいだいの先生が嫌いで、常に心の中で文句を思っていたんです。私は同級生のみんなも同じように、あの先生のこういうところがおかしい、とイライラしているだろうなと思いながら生きていたんですけれど、それを友達に喋った時に、「え、いい先生じゃん」みたいに言われてしまって。イライラしていたのは自分だけだったのかと衝撃を受けました。

――では、表立って教師に反発するようなことはせず...?

渡辺:私の高校時代は平成ど真ん中の、男女平等への過渡期みたいな時期だったんです。学校の掃除当番も、男子はこのエリアで、女子は職員室で先生たちが使った食器を洗う、といった割り振りがされていたんですね。私はそれに対してラクでいいな、くらいにしか思っていなかったんですけれど、友達が「これはすごくおかしなことだ」と言い始めて。「性別によって分けられるのは意味が分からないし、職員室の掃除なんて先生が自分でやるべきだ」と言うんです。人に言われると「なるほどな」と思いがちな人間だったので、私も本当にその通りだなと思って。友達が「先生に言いに行こう」と言い出して、本当に先生に不満をぶつけに行ったんです。でも、いざ先生の前に来たら、友達が一言も喋らなくて、私が言わなきゃいけない空気だなと感じて。それで、すごく頑張って主張したというのが、高校時代の数少ない思い出のひとつです。

――そのあと友達は何か言ってましたか。

渡辺:「何も言ってくれなかったじゃん」と言ったら、「そっちがめちゃめちゃ喋りだすから、こっちがなにか言う暇がなかった」って言われました。もしかしたら私がスイッチはいっちゃっていたのかもしれません。なので、私はスイッチを入れてもらうと頑張れるタイプかもしれないです。

――結局、職員室の掃除の件はどうなったのですか。

渡辺:先生もちゃんと聞いてくれて、職員室の掃除はなくなって、男子が掃除していたところを女子もやるように改善されたんです。それで「おおっ」と思った記憶がありますね。ちょっとした成功体験じゃないですけれど、嬉しかったです。

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