作家の読書道 第283回:渡辺優さん
2015年に『ラメルノエリキサ』で第28回小説すばる新人賞を受賞、翌年同作を刊行してデビューした渡辺優さん。最新作『女王様の電話番』は直木賞候補にもなって話題に。ミステリ要素やSF要素を取り込みつつ、現代社会のありようや人々の心情をさまざまな形で描き出す作風は、どのように育まれてきたのか。読書遍歴を中心に来し方をおうかがいしました。
その6「デビュー後の読書生活」 (6/7)

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- 『追撃の森』
- ジェフリー・ディーヴァー,土屋 晃
- 文藝春秋
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――デビューしてからの読書生活は、何か変化がありましたか?
渡辺:国内のものより海外の本を多く読むようになったかもしれないです。自分がものすごく集中して書いている時に日本語で書かれた小説を読むと、その本の作者との距離の近さが気になってしまうというか。書いている作家さんを意識してしまうんです。海外小説だと翻訳者さんが挟まるおかげで、ちょっと距離を感じながら読めるのでいいんです。
やはり、読書の原体験が自然発生的にそこにある本を読むという感覚だったので、作者の存在を意識せずに読みたいんですね。だから自分がデビューする時も、あまり個性が出ない作家名にしようとは最初から思っていました。
――ああ、そうだったんですね。
渡辺:本当は性別も分からないほうがいい、くらいに思っていました。なんなら覆面作家でいきたかったんですけれど、そんなことを言っている場合じゃないというか...。
でも、自分の本が読まれる時も、自然発生した本を読んでいるような気分でいてほしいなという気持ちは、いまだにちょっとあります。
――海外小説を選ぶ時は、どのように選んでいますか。面白かった本を教えてください。
渡辺:もう本当にジャケ買いです。書店さんでタイトルや表紙を見て内容を勝手に想像して、最初の部分をちょっと読んでから買います。
海外小説って面白いなって最初に思ったのが、アダム・ファウアーさんの『数学的にありえない』です。数学の天才が陰謀に巻き込まれるミステリで、若干SFっぽさもあります。同じ作者の『心理学的にありえない』もものすごく面白くて。
『火星の人』や『プロジェクト・ヘイル・メアリー』のアンディ・ウィアーさんは全作品読んでいます。それと、ジェフリー・ディーヴァーさんも好きで。『追撃の森』とかがスリラー系で、すごく面白かったです。
海外のものは犯罪小説とか、元CIAが...といったものばかり読んでいます。
――その場を仕切る探偵が出てくるものはあまり読まないわけですか。
渡辺:探偵が出てくるものも好きです(笑)。ただ、探偵のキャラクターは好きにならないというか。アンソニー・ホロヴィッツも大好きで、『メインテーマは殺人』とかのホーソーン&ホロヴィッツのバディものシリーズも読んでいるけれど、その二人が好きなわけではないという感じです。
――一日のルーティンはどんな感じでしょうか。
渡辺:この一年半くらい、眼精疲労がひどくなってルーティンが崩れてしまっているんです。もともとルーティンはあまりない人間ですが、一応朝起きた時は朝から仕事をすることにしていて、紅茶を淹れて、それを飲みながら午前中はできる限り仕事をします。以前は午後も頑張って仕事をするかゲームをするかだったんですけれど、今は画面が長く見られないので、YouTubeのゲーム実況を耳だけで聞いたり、芸人さんのラジオを聞いたり。
眼精疲労になってからAudibleを聞くようになりました。もともとは自分と本の間に読む人が入ってくることに抵抗を感じてAudibleは利用していなかったのですが、聞き始めてみたらとても面白い体験でした。文字で本を読む体験とはまた違っているとは思うんですけれど、目を使わなくてすむ趣味としてAudibleを聞くことにはまり始めています。
――Audibleで聞くのに向いている小説と向いていない作品ってあると思いますか?
渡辺:あると思います。難しい専門用語がたくさん出てきたり、人がいっぱい出てきたりする話は、すぐにページを戻して確認するということができないので...。それと、朗読の感じも合う合わないがあるなと思います。作品によって淡々と読んでくれるものと、ラジオドラマのように感情をこめて読んでくれるものがあったりするんです。それは好みによると思います。
――これはAudibleで聞いてよかった、という作品はありますか。
渡辺:Audibleではまって一気に読んだのが、マーク・グリーニーの『暗殺者グレイマン』のシリーズです。冒険小説になるのかな。元CIAの人間が組織に追われて、どんどん刺客が襲いくるなか頑張って人質を救助に向かう、みたいな話です。結構淡々と読んでくれて、どんどん殺人者が襲い掛かってくる展開が分かりやすいんです。これはずっと聞いていられるなと思いました。
――専門用語や登場人物が少ないのですか。
渡辺:わりと重火器の名前とか旅客機の名称も出てくるんですけれどすっと聞き流せるし、人が次々死んでいくので、名前を憶えなくていいというか(笑)。重要な何人かの名前を憶えておけば混乱することもなく、お皿洗いをしながらでも、「いいぞいいぞ」「頑張れやっつけろ」みたいなテンションで楽しく聞いていられます。
それとはまったく違うんですけれど、ずっと読んでみたかったけれど手を出す機会がなかった古めの本もわりとたくさん聞けるんです。アゴタ・クリストフの『悪童日記』の三部作がAudible入っていたのではじめて聞いたんですけれど、淡々とした読み方をしてくれていて、すごく楽しく聞けました。『ベロニカは死ぬことにした』もAudibleで聞きました。それはお皿洗いをしながらではなく、じっくり聞くという形でしたが楽しい体験でした。







