第283回:渡辺優さん

作家の読書道 第283回:渡辺優さん

2015年に『ラメルノエリキサ』で第28回小説すばる新人賞を受賞、翌年同作を刊行してデビューした渡辺優さん。最新作『女王様の電話番』は直木賞候補にもなって話題に。ミステリ要素やSF要素を取り込みつつ、現代社会のありようや人々の心情をさまざまな形で描き出す作風は、どのように育まれてきたのか。読書遍歴を中心に来し方をおうかがいしました。

その3「読書に戻った大学生時代」 (3/7)

  • スカイ・クロラ (C★NOVELS BIBLIOTHEQUE)
  • 『スカイ・クロラ (C★NOVELS BIBLIOTHEQUE)』
    森博嗣
    中央公論新社
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  • 女王様の電話番
  • 『女王様の電話番』
    渡辺 優
    集英社
    1,980円(税込)
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  • 悲しみよ こんにちは (新潮文庫)
  • 『悲しみよ こんにちは (新潮文庫)』
    フランソワーズ サガン,Sagan,Francoise,万里子, 河野
    新潮社
    649円(税込)
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  • わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫 イ 1-6)
  • 『わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫 イ 1-6)』
    カズオ・イシグロ,土屋 政雄
    早川書房
    864円(税込)
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――高校卒業後、進学先はどのように選んだのですか。

渡辺:もう本当に自我がないというか。特に将来の夢もなかったので、とりあえず県内の大学に行っておこうと思いました。その頃は海外への憧れが若干あったので、国際文化学科という、今はなくなった学科に入りました。

――海外への憧れというのは。

渡辺:たぶん、英語が話せるのって格好いいな、くらいのスタート地点だったと思います。それと、高校生の時からうっすらと、将来自分が週五で一日八時間働ける気がしなくて。だから職場に通う仕事でなく、家でできる仕事とか、フレキシブルな仕事に就きたいと考えていたんです。それで、とにかく英語を話せれば翻訳家や通訳といった、一般企業に就職するのではない仕事に就けるかなと目論んだ気がします。
それと、海外ではバカンスが二か月とれると知って、羨ましすぎると思って。日本の社会人の夏休みの少なさに絶望していたので、いっぱい休みが取れる海外に行って働きたい、と思っていたことを今思い出しました。

――週五で働ける気がしなかった、という話は以前もおうかがいしましたよね。たしか、朝がめちゃくちゃ弱くて...でしたっけ。

渡辺:はい。私、実は高校を二年生で一回退学しているんですが、その理由が、本当に朝が辛すぎるということだったんです。今にして思えば、十代の起立性のなにかで、朝が弱いホルモンバランスだったのかなという気がするんです。本当に起きられなくて、もう無理だとなって一回高校を辞め、で、高校卒業の資格を取って、同級生と同じタイミングでしれっと大学に入りました。
高校ですら毎日通うのがこんなに嫌なのだから、会社員になって朝から晩まで働くなんて体力的にも無理だろうと思っていて、そうではない仕事につかないと生きていけないという危機感もちょっとありました。

――その後、朝起きられるようにはなったのですか。

渡辺:それ以降、週五で朝早起きする生活をたぶん一回もしていないと思うんですよね。だから確かなことは言えませんが、高校時代に比べたら起きられるようになった気がします。
早起きも、一日とか二日だけなら苦痛じゃないんです。それを習慣にしなきゃいけないとなると気力が続かないので、高校時代以降は長いスパンで早起きし続ける生活を避けてきました。大学の授業を選ぶ時も、必修以外は絶対に一限を避けていました。

――国際文化学科では、英語もみっちり勉強できたのですか。

渡辺:私の通っていた大学には、国際文化学科とは別に英文科もあったんですね。英文科はもう英語をみっちりやる科でしたが、国際文化学科は、ちらっとタイ語をやったりスワヒリ語をやったりとかしていて。私、スワヒリ語の成績がすごくよかったんですけれど、今はまったく憶えていないです。

――大学時代の読書生活はいかがでしたか。

渡辺:やっと読書に戻ってきました。友人がすごい読書家だったというのが一番のきっかけでした。

――さきほどおっしゃっていた、辻村深月さんを愛読しているご友人ですね。

渡辺:そうです。その友達の影響でいろいろ読みました。辻村さんの他には、伊坂幸太郎さんも大学時代におおむね読み倒したと思いますし、森博嗣さんの作品も読みました。ジャンルにこだわらずに本屋さんでパラパラ見て選ぶのが好きだったので、海外小説も結構読みました。その頃に読んだ本のほとんどはもう作者さんもタイトルも憶えていないけれど、鞄には常に一冊本が入っていました。
とにかく読めていればいいというか。読書に何かを求めているというより、音楽を聴いたりするのと同じ感覚で、習慣として読んでいる感じでした。

――大学時代の読書で「これが好きだった」というものを挙げるとすると?

渡辺:書名を挙げるとしたら、森博嗣さんの『スカイ・クロラ』シリーズですね。大好きになりすぎて、一瞬だけ、パイロットを目指そうと思って要件を調べたことがありました。ちょうど大学3年生くらいで、就活しなきゃいけない時期で、ちょっと現実逃避でもあったんですけれど、ワンチャンなれないかなと思って。とにかく体力が必要だと知って諦めました。

――そういえば、『女王様の電話番』刊行記念の齋藤明里さんとの対談で、サガンの『悲しみよ こんにちは』の話をされていましたよね。

渡辺:ああ、『悲しみよ こんにちは』を読んだのも大学生の頃です。GARNET CROWというバンドが大好きだったんですけれど、作詞担当の方が『悲しみよ こんにちは』や、カズオ・イシグロさんの『わたしを離さないで』といった海外小説をベースに曲を作ったりされていたので、元ネタの本を読もうと思って読んだんです。それでカズオ・イシグロさんにはまって結構読んでいました。

――カズオ・イシグロはどの作品が好きでしたか。

渡辺:最初に読んだ『わたしを離さないで』が大好きでした。いちばん読み返したのはこの本だった気がします。

――好きな本は何回も読み返されていますが、再読ってどういう楽しみがあると思いますか。たとえば『わたしを離さないで』は途中で驚きの事実が判明しますが、再読する時はもうそれを知りながら読むわけですよね。

渡辺:全部分かった上で読む醍醐味もあるかもしれないです。私、テレビゲームとかも二周するタイプなんです。本もまず何も知らない状態で楽しんで、次に知っている状態で楽しんでいます。たぶん、二周目まではそういう楽しみ方をしていますが、三周目以降になると、同じ音楽を何回も聴くのと同じ感覚な気がします。もう読んでいること自体が楽しい、みたいな感じです。

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