作家の読書道 第283回:渡辺優さん
2015年に『ラメルノエリキサ』で第28回小説すばる新人賞を受賞、翌年同作を刊行してデビューした渡辺優さん。最新作『女王様の電話番』は直木賞候補にもなって話題に。ミステリ要素やSF要素を取り込みつつ、現代社会のありようや人々の心情をさまざまな形で描き出す作風は、どのように育まれてきたのか。読書遍歴を中心に来し方をおうかがいしました。
その5「作家デビューと作風について」 (5/7)
――2015年に『ラメルノエリキサ』で小説すばる新人賞を受賞し、翌年同作を刊行してデビューされましたよね。じゃあ、毎回違う新人賞に応募されていたのですね。
渡辺:そうですね。早く結果を知りたくてしょうがなかったので、書き上げたタイミングでいちばん締め切りが近くて、規定枚数の中に収まる賞に送っていました。とにかくすぐ出せるところに出すという感じでした。
――『ラメルノエリキサ』は、どんなに小さなことでも不快な思いをしたら必ず復讐する高校生の少女が、夜道で何者かにナイフで切り付けられ、復讐心を燃やして犯人捜しを始めるという青春ミステリですね。
渡辺:それまで男性主人公を書いてきたので、三作目は女の子の一人称で書きたいなと思いました。ストーリーを進めるにあたり、なぜ警察官でもない女の子が犯人を捜す必要があるのか理由をつけなきゃと思って。自分で復讐したいから、という理由にするために主人公の性格を作っていったところがあります。
――主人公と家族との関係なども描き込まれ、軽快な文章も魅力でした。受賞が決まった時はどんな気持ちでしたか。
渡辺:嬉しかったです。三作書いて力突きた感があって、これで駄目だったら諦めるかな、くらいに思っていたんです。一作目、二作目を書いている時は応募した後にすぐ次の小説を書き始めていたんですけれど、『ラメルノエリキサ』を応募した後は何も書いていなくて。ちょっと疲れたからいったん休もうくらいの気持ちでいたので、受賞はすごく嬉しかったです。
ちょうど、正社員になってもいないのに思い切ってひとり暮らしを始めてお金がないなと思っていた時期でもあったんです。住民税か何かを払うのが厳しいから副業を始めなきゃと思っていたところだったので、「払える...!」という感覚がすごくありました(笑)。
――この先、作家として作風や方向性などはどうしていくのか、なにかビジョンはありましたか。
渡辺:それがなくて。どうしようと思いました。何本かアイデアのストックを持った状態でデビューするのが理想的だというのは情報として知っていたので、自分にはストックがないなと焦りました。
――でもその後、順調にいろんな切り口の作品を発表されてきましたよね。たとえば『アイドル 地下にうごめく星』は、たしか実際に地下アイドルのライブに行かれたのがきっかけでしたよね。
渡辺:職場に地下アイドルオタクの人がいて、その人に仙台の地下アイドルのライブに連れていってもらったんです。その時に見た光景や気持ちが出発点になっている感じです。
だいたい、その時その時に触れたものや、興味を持ったものに影響されて書いている気がします。たとえば『カラスは言った』は、エドガー・アラン・ポーの「ザ・レイヴン」という詩をはじめて読んだ時、カラスが話しかけてくるシチュエーションがすごく格好いいと思っていた経験に影響されています。
――『カラスは言った』はまさに、カラスが突然話しかけてくるところから始まる物語です。他に、『クラゲ・アイランドの夜明け』は、殺人や傷害が起きない海上の楽園で自殺者がでるという。これはSFっぽい設定ですよね。SFも読まれていたのかなと思いました。
渡辺:SFも読んでいたと思いますが、本当にジャンルを気にせずに読んでいたので、後からそういえばあれはSFだったのかなという感じで...。
ただ、SFはゲームのほうからの影響が強いかもしれません。文章を読んでからどの選択肢を選ぶかでストーリーが変わっていくノベルゲームも結構好きだったんです。そのなかでSFっぽいゲームとして印象に残っているのが、「Ever17」です。女の子を攻略していく感じのゲームなんですけれど、舞台が水中水族館みたいなアミューズメントパークなんです。オープン初日に女の子と「俺」が事故でそこに閉じ込められて、どんどん酸素がなくなっていくなかでどうやって生き残るのか、みたいなストーリーです。それが結構ループものの要素があったり、若干人工知能が関わってきたりして、今思えばSFでした。すごくはまったゲームだったので、その影響はあるかもしれないです。
それと『クラゲ・アイランドの夜明け』は、たしかその頃森美術館で「未来の建築」みたいな展示をやっていて、そこで見た水中コロニーが印象に残ったんです。それがきっかけで考え始めた話でした。
――では、『私雨邸の殺人に関する各人の視点』はどういう出発点だったのでしょうか。あれは探偵不在のミステリですよね。
渡辺:館もののクローズドサークルミステリが書きたいという気持ちで、編集の方に若干無理を言って、お願いしました。
私はクローズドサークルのミステリが大好きなんですけれど、探偵という役割のキャラクターを好きになることはあまりなくて。昔、その場を仕切ってくる先生にイライラしていたので、先生的な役割の人に対する反発心が生まれるのかもしれません。なぜ警察でもないのに仕切るんだという目線に立ってしまいがちなので...。探偵がいないミステリといえばアガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』などもあるし、特に斬新なことをやろうとは思ったわけではなく、自分の好きな群像劇的なところだけを書きたかったので、探偵はいなくてもいいかなという気持ちでした。
――『月蝕島の信者たち』も、孤島に新興宗教の信者たちが集まるクローズドサークルのミステリです。
渡辺:自分はクローズドサークルのどこが好きかと考えてみると、異常な状況に置かれた人間の心理とか、人間関係がこじれたりひずんだりしていく群像劇のところだなと思うんです。それをちょっと特殊なコミュニティで起きるところが見たいなと思いました。
その頃、友人にスピリチュアル系の団体にはまっている子がいまして。その子は、そのことを俯瞰で見て面白おかしく喋ってくれるんですね。どこまで本気で言っているのか分からないところがありましたが、話を聞いて、同じものを信じる集団というのもちょっと面白いなと思っていて。ちょうどオンラインサロンのコミュニティというものにも面白さを感じていたので、新興宗教というよりネットを通して集まってきた信者たちという設定にして、ある種滑稽な部分も出せたらいいなと思っていました。
――読者として好きなクローズドサークルものは、どのあたりですか。
渡辺:それこそ綾辻行人さんや有栖川有栖さんも楽しく読みました。私は本当に節操のない読書をするので、館ものがシリーズであることに気づかずに刊行順にこだわらず適当に手に取って楽しく読んでいました。島でのクローズドサークルものですごく好きだったものがあるんですけれど、本当にタイトルも作家名も思い出せなくて......。
ゲームでもやった記憶があります。最初に触れたクローズドサークルミステリって、もしかしたら「かまいたちの夜」だったかもしれないです。それと脱出ゲームも、閉鎖空間のなか数人で脱出を目指す、というところが似ていますよね。私はクローズドサークルミステリとシチュエーションスリラーを同じテンションで楽しんでいるかもしれません。
――渡辺さんの作品はミステリ要素のある作品でも、現代社会のなかでの違和感や、人間関係のなかで起きる微妙な心理を浮き上がらせていく部分が大きいと思うのですが、それは自然とそうなるのですか。
渡辺:自分が楽しいと思うところを書いて言ったら自然とそうなったという感じですね。でも、犯人当ては好きなので、そういうミステリ部分は、緻密に、大事に、ちゃんと読む人が考えたら当てられるように書いています。







