作家の読書道 第291回:砂村かいりさん
小説投稿サイト「カクヨム」の第5回カクヨムコンの恋愛部門で、『炭酸水と犬』『アパートたまゆら』が特別賞をダブル受賞。二作とも書籍化されてデビューをはたした砂村かいりさん。恋愛小説に限らず、現代社会を生きる人々の葛藤や再生を丁寧に描く著者は、どんな本を読み、影響を受けてきたのか。愛読書について、たくさんの書名を挙げてくださいました。ご堪能あれ。
その1「就学前から本の虫だった」 (1/9)
――いちばん古い読書の記憶を教えてください。
砂村:幼稚園の年長になるまで両親とともに祖父母の家で暮らしていたので、その家で読んだ記憶のある本になります。いちばん古いかはわかりませんが、まず『おばけのバーバパパ』のシリーズが大好きでした。家に全冊揃っていたわけではないんですが、駅前のデパートの中に児童図書館が入っていて、そこから借りたりもしました。
「バーバパパ」シリーズはフランスのアネット・チゾンとアメリカのタラス・テイラーという絵本作家夫婦が作者で、日本の絵本にはないような、微妙なくすみが入った色使いが特徴的なんですよね。ピンクはピンクでも、白みピンクにわずかにグレーが入っているような色味で、子どもながらに美しいなと思っていました。「バーバパパ」シリーズは今でも結構グッズが出ているので、見つけると買ってしまいます。文房具とか。
ジョン・バーニンガムの『ねえ、どれがいい?』も図書館で借りた記憶があります。究極の選択を迫ってくる絵本なんです。お城で食事か気球で朝ごはんか川でおやつ、どれがいいか、みたいな素敵な選択肢もありますが、クモのシチューとカタツムリの団子とムシのおかゆとヘビのジュースのどれがいいとか、迷子になるなら霧の中、海の上、砂漠、森の中、人ごみのどれがいいとか、全部が嫌な選択肢だったりもして。それがどんどん残酷なものやえぐいものになっていくんです。絵本って子どもにポジティブなものを与えるものだと思われがちですが、早期にそれを覆された感がありました。シュールな絵本でした。
かこさとしの『からすのパンやさん』と、パン屋さんの子どもが大きくなってお菓子屋さんを開く『からすのおかしやさん』も好きでした。描かれているパンやお菓子がとにかく美味しそうで、非常にそそられました。大人になってから思うのは、これってビジネスの話、企業サクセスストーリーでもあったんだなということです。子どもたちは4羽いて、その中のチョコくんがおかし屋さんになるんですが、他の子たちが蕎麦屋さんや八百屋さん、てんぷら屋さんに関わってゆく作品も後年刊行されました。出てくる食べ物も表現も多彩で、からすたちがいきいきと商売をやっている姿に魅せられました。
あとは馬場のぼるの『11ぴきのねこ』シリーズ。これは有名ですよね。これも今でもグッズが展開されていて、見つけると買ってしまったりします。シリーズにはハッピーエンドの話とアンハッピーエンドの話が半々ずつあるんですよね。最初の『11ぴきのねこ』は、大きな魚をたいらげて満腹になって終わるけれど、悪い企みをして罰が当たって終わる話もある。子どもに夢を見せないというか、甘くない現実を描いたものだったなと思います。『からすのぱんやさん』シリーズも『11ぴきのねこ』シリーズも、大人になってから全巻揃えました。
他には定番の『ぐりとぐら』、『はらぺこあおむし』、『おしいれのぼうけん』、『ももいろのきりん』や『きんぎょがにげた』......。今思うと『きんぎょがにげた』の五味太郎さんの絵本も、他のものにはない独特な色彩感覚に惹かれていました。
それと、松谷みよ子の「モモちゃん」シリーズは、幼くして最初に触れた文学じゃないかなと思います。
――『ちいさいモモちゃん』『モモちゃんとプー』『モモちゃんとアカネちゃん』などのシリーズですね。
砂村:モモちゃんのお父さんとお母さんが離婚するんですよね。幼児でも読める作品に、当時はおそらくタブーとされていた離婚というテーマを盛り込んだ松谷みよ子は本当にすごいなと思います。しかもその表現が秀逸なんですよね。夜中にお母さんがお父さんの帰りを待っているんだけれども、お父さんの靴だけが戻ってくるとか、お父さんの不倫相手のメタファーとして「金色の宿り木」と言い表したりとか。今思い出しても鳥肌が立つような表現がありました。松谷さんの作品は『オバケちゃん』も強烈に印象に残っています。これは明るいキャラクターと夜の雰囲気が絶妙に溶けあったシリーズで、後に青い鳥文庫で買い揃えました。昔好きだった絵本や児童文学は大人になってから買いまくって、大人の視点で読み返したりしています。
――絵本や児童文学以外によく読んだものはありましたか。
砂村:幼児期から動物図鑑や昆虫図鑑を結構観ていました。カタツムリの殻の中にマイマイツムリが頭を突っ込んでカタツムリを溶かして食べたりとか、体内に蜂の卵を産みつけられた青虫が、孵化と同時に幼虫たちに内側から全身を食い破られたりといった、グロテスクな写真や説明を「怖いよ」と思いながら眺めていました。水辺の生き物の飼い方の本はボロボロになるまで読みましたね。家に実際ザリガニやヤドカリなどもいましたが、飼う予定のない魚や両生類の飼い方も熱心に読みこんでいました。
それと、『からだのひみつ』『恐竜のひみつ』『宇宙のひみつ』の3冊の漫画も、就学前から読んでいました。恐竜の名前を全部覚えて太古に思いを馳せたりしましたね。人体の構造や機能もその本で覚えましたし、今でも宇宙がすごく好きなので、そこは本を与えてくれた親に感謝しています。歴史上の人物や世界の偉人の人生を漫画にしたものなどもよく読んでいました。
思えばこの時期から、創作の種みたいなノートを作っていました。テレビで耳にしたアイドルの歌の歌詞を書き留めたり、1ページくらいのお話を書いてみたり、イラストを描いてみたりして。アイディアノートというほどではないですけれど、思いついたことを書き留める癖はこの頃からあったようです。
幼児期はこんな感じです。
――では、小学校に入ってからは。
砂村:小学校に図書室があるので、読書がめちゃめちゃはかどりました。好きだったのは、寺村輝夫の『ぼくは王さま』シリーズ。シュールな物語とシンプルでほっこりする絵柄という、独特の世界観がたまらなかったのを憶えています。
これはみなさん読んでいると思いますけれど、矢玉四郎さんの『はれときどきぶた』『あしたぶたの日ぶたじかん』『ぼくときどきぶた』も好きでした。
児童館にあった図書コーナーもよく利用していました。そこで江戸川乱歩の少年探偵団のシリーズを借りて読んだりもしました。
世界の児童文学にも手を伸ばしていきました。ブライトンの『おちゃめなふたご』は、イギリスの女子高校生の、寮生活の話なんですよね。親元を離れて友達と食事も勉強も就寝も共にするという、自分には想像もつかない生活の様子が新鮮でした。寮には多彩なキャラクターがそろっていて、飽きない展開に魅せられました。
自分もそういう話を書いてみたいなと思い、いろんなキャラクターを考えてノートに書き留めましたね。外国人っぽい名前をつけた十数名の少女たちを誕生させていました(笑)。この時期は、憧れるとすぐに真似していたんです。
あとはリンドグレーンの『長くつ下のピッピ』。ピッピの奔放さや、自分の日常とはかけ離れた暮らしに想像力をかきたてられ、強烈に憧れました。海外の児童文学の女の子が活躍する話から、めちゃくちゃ刺激をもらっていたと思います。
同じ頃に『赤毛のアン』も読みました。わたしが持っていたのは村岡花子訳のもので、子ども向けにリサイズされたものなどいろんなバージョンで読んでいました。大人になってから、『赤毛のアン』から『アンの娘リラ』まで、新潮文庫版を大人買いしました。
それと、ハウス食品提供の「世界名作劇場」で放送していた『若草物語』。アニメを観て大好きになり、オルコットの原作が気になって読みました。四姉妹の中でも体の弱い三女のベスに感情移入していました。その時に読んだのは子ども向けのバージョンで、大人になってちゃんと読んだら、アニメも子ども向けの本もかなりマイルドにしてあったことを知りました。原作にはかなり壮絶なエピソードやえぐい展開もあるんですよね。
――少女が主人公の海外文学を多く読まれていますが、少女小説は読まれましたか。
砂村:小学4年くらいから少女小説に触れ始めました。当時、小学4、5年生になるとクラスの女子はみんな朝の読書時間に講談社X文庫ティーンズハートを読むようになって、わたしも「こういうのが流行っているんだ」と影響されて。手に取ってみたら、あっという間にはまりました。
まず折原みとから入ったのかな。『桜の下で逢いましょう』から始まる三部作があって。それぞれヒロインが変わるんですが、いずれも天使の男の子と恋をする話なんです。相手が天使だから叶わないに決まっていて、もうめちゃくちゃ泣きました。今でもわたしは恋愛小説を読むし、自分でも書きますけれど、この頃の少女小説の名作って本当にすごかったと思います。
小林深雪や花井愛子も読みました。ティーンズハートブームの火付け役でもある花井さんは当時、毎月のように出版されていて、この頃をふりかえる本も出されていますよね。『ときめきイチゴ世代 ティーンズハートの1987-1997』とか。花井さんの『山田ババアに花束を』は、映画作品も観に行きました。高校の厳格な女性教師と、彼女と敵対する奔放な女子高校生の体が入れ替わる話です。
なぶらひみも好きでしたね。『おしかけデストロイヤー』とか『異星人ハンバーガーデート』とか。キレのある文体や飽きさせない展開に夢中でした。もう本当に、おもしろい少女小説がいっぱいあるんです。
......というのは前フリでして。
――はい。
砂村:これは各所で話しているんですが、少女小説でいちばんはまったのは、津原やすみさんです。






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