第291回:砂村かいりさん

作家の読書道 第291回:砂村かいりさん

小説投稿サイト「カクヨム」の第5回カクヨムコンの恋愛部門で、『炭酸水と犬』『アパートたまゆら』が特別賞をダブル受賞。二作とも書籍化されてデビューをはたした砂村かいりさん。恋愛小説に限らず、現代社会を生きる人々の葛藤や再生を丁寧に描く著者は、どんな本を読み、影響を受けてきたのか。愛読書について、たくさんの書名を挙げてくださいました。ご堪能あれ。

その8「小説を書き始める」 (8/9)

  • 炭酸水と犬 (PHP文芸文庫)
  • 『炭酸水と犬 (PHP文芸文庫)』
    砂村 かいり
    PHP研究所
    1,298円(税込)
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  • アパートたまゆら (創元文芸文庫)
  • 『アパートたまゆら (創元文芸文庫)』
    砂村 かいり
    東京創元社
    836円(税込)
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  • 黒蝶貝のピアス (創元文芸文庫)
  • 『黒蝶貝のピアス (創元文芸文庫)』
    砂村 かいり
    東京創元社
    990円(税込)
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  • 苺飴には毒がある (ポプラ文庫 す 3-1)
  • 『苺飴には毒がある (ポプラ文庫 す 3-1)』
    砂村 かいり
    ポプラ社
    814円(税込)
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  • マリアージュ・ブラン
  • 『マリアージュ・ブラン』
    砂村 かいり
    PHP研究所
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  • 今日のハチミツ、あしたの私 (ハルキ文庫 て 2-1)
  • 『今日のハチミツ、あしたの私 (ハルキ文庫 て 2-1)』
    寺地はるな
    角川春樹事務所
    682円(税込)
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  • 夜空に泳ぐチョコレートグラミー (新潮文庫)
  • 『夜空に泳ぐチョコレートグラミー (新潮文庫)』
    町田そのこ
    新潮社
    737円(税込)
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  • スター (朝日文庫)
  • 『スター (朝日文庫)』
    朝井 リョウ
    朝日新聞出版
    792円(税込)
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――小説を書き始めたきっかけは。

砂村:タイミングは明確に憶えています。結婚して何年も経ち、仕事も変わって派遣社員として働いている中で、2017年の年末に軽い気持ちでカクヨムのアカウントを作ったんです。プロの小説家になろうとまでは思っていませんでした。作品の登録時にカテゴリーを選ばなくてはいけないんですが、自分にはミステリやホラーは書けないだろうからと、身近な題材として恋愛を選びました。翌年1月から書き始めたのが、『炭酸水と犬』だったんです。仕事の行き帰りのバスの中でiPhoneのメモ帳に小説を書いては、それをコピーしてカクヨムのフォーマットに貼り付けて、パソコンに触れる時にちょっと手直しをして、というのをやっていたんです。わりと早期から読者さんがついてくれて、毎話「次はどうなる?」などと熱心なコメントが寄せられ、張り合いになりました。クライマックスが近づいてくると「正座待機!」などと盛り上がってくれて、更新した瞬間にPVがどっと増えるんです。高揚感がありました。
『炭酸水と犬』は第4回カクヨムコンに応募して、読者投票の期間ではランキング上位にいたのですが、結局受賞はせずに終わったんですよね。そもそもラノベのサイトで一般文芸をやっている自分は異端派だったので、ラノベが賞を獲るのが順当だろうと自分でも納得していたんです。その翌年に『アパートたまゆら』を書き始めました。『炭酸水と犬』はふたりの心が離れていく話だったので、『アパートたまゆら』では近づいていく恋人たちの話を書こうと思いました。『炭酸水と犬』で結構燃え尽きたところがあったので、次は肩の力を抜いて書きたい気持ちもありました。それで1年間かけてゆるゆると連載したら、それが第5回カクヨムコンで11週連続1位をとったんです。過去に応募した作品もまた出してよいと知って『炭酸水と犬』もエントリーしたら、そちらもまた上位になって。2作とも特別賞をいただきました。大賞作品は「書籍化確約」なのですが、特別賞は「書籍化検討」なんですね。ハラハラしましたが、両作品ともそれぞれ担当さんがついて書籍化作業が進んでゆき、2021年にデビューとなりました。

――3作目が『黒蝶貝のピアス』。前職で辛い思いをして退職した20代の環が、小さなデザイン会社に転職。その会社の社長は偶然にも、環が幼い頃に一度だけ会って憧れた地元アイドルだった菜里子。上司と部下として出会い直した2人の日常が綴られていきます。

砂村:「好きなものを書いていい」と言われて考えていた時、夫から「女性アイドルが好きなんだから書いたら?」と提案されて。それで、現役のアイドルではなく、ステージを降りた人と、アイドルを目指したけれど叶わなかった人の物語が浮かびました。

――4作目『苺飴には毒がある』は、友達だけど自分を傷つけてくる"毒友"を描く青春小説でした。こういう友達、心当たりのある読者も多かったと思います。

砂村:昔の友人関係をふりかえって、「あれは"毒友"だったと思う」ということをSNSにつぶやいたことがあったんです。それを見ていた編集者さんに「それを小説に書いてみませんか」とお声がけいただきました。自分の小学校から中学3年までの経験を随所に取り入れた作品になりました。真面目な子ほど自分の感情を後回しにして、他人の屈折した感情にふりまわされて傷つく傾向がある気がします。わたしも今ならあれはある種のハラスメントだったとわかるんですが、当時は言語化できずにいました。なので、中学や高校は3年の間に人間関係が変化してゆくものだし、今悩んでいる人もどうにか乗り切ってほしい、という思いをこめました。

――4作目『マリアージュ・ブラン』は友情結婚をした男女の話ですね。

砂村:多様性が広まったといっても、今の日本社会は成人した男女の結婚をゴールとしている印象があります。それなら、逆に結婚制度を利用して結びつくふたりがいてもよいのではないかと思いました。それに夫婦って、何年も共に暮らしていると友達同士のようになっていったりしますから、最初から友達同士の夫婦がいてもいいんじゃないかと思いました。ただ、恋愛や性愛に興味のない者同士といっても、思考がぴたりと一致しているわけではない。なので、男女それぞれの視点から、ちょっとずつ異なる部分を書いていきたいなと思いました。

――デビューしてからの読書生活はいかがですか。

砂村:書き手になったことで、また新たな作家さんをいっぱい知ることになりました。デビュー前は作品を書くことに時間をかけていたし、受賞後も書籍化まで気を揉むことややるべき作業も多くて、あまり本を読めていなかったんです。デビュー作が無事に出た後でまた書店に行く機会が増えて、寺地はるな作品に出会ったりして。最初に読んだ『今日のハチミツ、あしたの私』でドはまりして、そこからすべての作品を読んでいます。同時期に町田そのこの『夜空を泳ぐチョコレートグラミー』を読んですごいなと思い、他の作品にも手を伸ばしていきました。寺地さんも町田さんもSNSで交流してくださって。作家同士としてお話しできるようになったというのは自分の中で革命でした。
それから朝井リョウも尊敬しています。長編では『スター』がしみじみと好きで、短編集では『もう一度生まれる』と『どうしても生きてる』が至高だなと思っています。
担当編集者さんが本をくださることもあります。東京創元社の担当さんが「砂村さんは絶対に好きだと思う」と言って奥田亜希子の短編集『白野真澄はしょうがない』をくださり、読んでみたら確かにめちゃめちゃ好きでした。白野真澄という同姓同名だけどまったく立場や人格の異なる5人の話で、それがすごくおもしろくって。奥田さんの作品もほぼすべて読みました。すばる文学賞を受賞したデビュー作の『左目に映る星』はアイドルおたくと社会人女性の話で、これは恋愛になるのかならないのかというきわどさに、存分にどきどきさせられました。
伊藤朱里を薦めてくれたのはポプラ社の担当さんでした。「『君は誰かのどうでもいい人』は絶対好きだと思いますよ」と教えてくれて、読んだらやっぱりはまりました。伊藤さんの作品も全部読んだんじゃないかな。
こうした作家さんたちの作品はどれも、特別な人ではなく、実際に身近にいるような人たちが主人公なのがいいですよね。誰でもなり得る立場や状況にある人たちの、生活や人生の変遷や、さまざまな人との関わりの中での気持ちいいことも気持ちよくないことも鮮やかに描かれていて。不都合も不条理も優れた筆致で読ませてくれるので、たまらないです。
それと、最近「小説幻冬」で青山七恵の「蝶の夢」という連載をずっと読んでいまして、そういえば芥川賞受賞作の『ひとり日和』以来読んでいなかったなと思い至り、青山七恵の既刊を次々に読むというブームが到来しました。去年出た『記念日』はもう、去年買った本のなかで最上位に入るくらい大好きな作品です。女性の心理がもうやばいですよっていうくらい細かくリアルに描かれていて、本当におもしろい。さりげない言葉選びに笑わされたりもして。やっぱり、独自の言語感覚を持つ人たちに惹かれますね。
櫻田智也にも、「紙魚の手帖」に掲載されていた短編をきっかけにはまりまして。

――昆虫好きの青年、魞沢泉がさまざまな謎に遭遇するシリーズですね。『サーチライトと誘蛾灯』などの作品があります。

砂村:あのシリーズが好きすぎて、iPhoneで「魞」の字が一発で変換できるように単語登録しました(笑)。最新刊まですべて追っています。
それと、海外作品ではチママンダ・ンゴズィ・アディーチェの短編集『なにかが首のまわりに』を読み、心臓をドンと突かれるような感じというか、魂をぐるんとひっくり返されるような感じがするほど衝撃を受けました。ナイジェリア文学ははじめて読んだんですが、同じ地球にいる女性作家が書いたものだという事実に打ちのめされたというか。感銘を受けたというような平易な言葉では表せないくらいに衝撃を受けて、全編を通して殴られ続けながら読み切った感覚でした。今年、『半分のぼった黄色い太陽』が文庫になりましたよね。買わなきゃ。この人は追っていくぞと決めています。
それと、ルシア・ベルリンですね。『掃除婦のための手引き書』も、著者自身が各地を転々として、少女時代にはチリの鉱山のキャンプで暮らしていたこともあったり、大人になってアルコール依存症になったりして......そういう波乱の人生が反映された短編集です。アメリカの作家ですが、大学で研究した文学とはまた違う地平に立っていると思います。
最近は現代世界が不穏すぎるせいか古代に惹かれ、シュメール人関連のものも掘っています。講談社学術文庫の小林登志子著『シュメル人』という本がおもしろいです。SNSやYouTubeで太古の文明に関するネタを発信している人がいるけれど、真偽不明だったり私見が入っていたりするので、ちゃんと書籍で情報を得ようと思って読み始めました。これが素晴らしくおもしろくて。シュメール人って、白内障手術や脳外科手術も行ったとされているし、なぜか太陽系の惑星を全部把握していたそうです。不思議ですよね。

――その後、漫画は読まれていますか。

砂村:ちょっと前になりますが、瀧波ユカリの『臨死!!江古田ちゃん』は全巻持っています。風刺が素晴らしくて、あれを読まずして現代は語れないと思っています。今は『わたしたちは無痛恋愛がしたい』を連載されていて、これも集めています。恋人同士の不均衡だったり、夫婦間のハラスメントだったり、いろんな角度から現代の価値観が持ち込まれていて、これは男性にも読んでほしいと切実に思います。読んで苛立って放り投げるような男性とは付き合わないほうがいいですよね。踏み絵ですね。
東村アキコにドはまりした時期もありました。ドラマ化もされた『主に泣いてます』のギャグのセンスの高さにやられました。岡田あーみん、うすた京介、東村アキコはギャグの感性を満たしてくれる三大作家です。東村アキコはギャグ漫画だけではないですけれど、小ネタがすごすぎます。『かくかくしかじか』という、美大に入って結局いろいろあって漫画を描いている自伝的な漫画も素晴らしいですね。
これもだいぶ前ですが『ゴールデンカムイ』にもはまり、最初は漫画アプリで読んでいましたが、結局紙のコミックを買い揃えました。さらにずっと前ですが、久保ミツロウ『モテキ』はサブカル恋愛もののバイブルだと思っています。ドラマも映画も最高でした。

  • もういちど生まれる (幻冬舎文庫)
  • 『もういちど生まれる (幻冬舎文庫)』
    朝井 リョウ
    幻冬舎
    792円(税込)
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  • どうしても生きてる (幻冬舎文庫)
  • 『どうしても生きてる (幻冬舎文庫)』
    朝井 リョウ
    幻冬舎
    858円(税込)
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  • 白野真澄はしょうがない (創元文芸文庫 LA-お 1-1)
  • 『白野真澄はしょうがない (創元文芸文庫 LA-お 1-1)』
    奥田 亜希子
    東京創元社
    748円(税込)
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  • 左目に映る星 (集英社文庫)
  • 『左目に映る星 (集英社文庫)』
    奥田亜希子
    集英社
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  • きみはだれかのどうでもいい人 (小学館文庫 い 49-1)
  • 『きみはだれかのどうでもいい人 (小学館文庫 い 49-1)』
    伊藤 朱里
    小学館
    869円(税込)
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  • ひとり日和 (河出文庫 あ 17-2)
  • 『ひとり日和 (河出文庫 あ 17-2)』
    青山 七恵
    河出書房新社
    803円(税込)
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  • 記念日
  • 『記念日』
    青山 七恵
    集英社
    2,200円(税込)
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  • サーチライトと誘蛾灯 (創元推理文庫)
  • 『サーチライトと誘蛾灯 (創元推理文庫)』
    櫻田 智也
    東京創元社
    792円(税込)
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  • なにかが首のまわりに (河出文庫 ア 10-1)
  • 『なにかが首のまわりに (河出文庫 ア 10-1)』
    チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ,くぼた のぞみ
    河出書房新社
    1,265円(税込)
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  • 半分のぼった黄色い太陽 上 (河出文庫 ア 10-5)
  • 『半分のぼった黄色い太陽 上 (河出文庫 ア 10-5)』
    チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ,くぼた のぞみ
    河出書房新社
    1,650円(税込)
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  • 掃除婦のための手引き書 ――ルシア・ベルリン作品集 (講談社文庫 へ 11-1)
  • 『掃除婦のための手引き書 ――ルシア・ベルリン作品集 (講談社文庫 へ 11-1)』
    ルシア・ベルリン,岸本 佐知子
    講談社
    1,045円(税込)
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  • シュメル人 (講談社学術文庫 2856)
  • 『シュメル人 (講談社学術文庫 2856)』
    小林 登志子
    講談社
    1,540円(税込)
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  • 臨死!! 江古田ちゃん(1) (アフタヌーンコミックス)
  • 『臨死!! 江古田ちゃん(1) (アフタヌーンコミックス)』
    瀧波ユカリ
    講談社
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  • わたしたちは無痛恋愛がしたい ~鍵垢女子と星屑男子とフェミおじさん~(1) (&Sofaコミックス)
  • 『わたしたちは無痛恋愛がしたい ~鍵垢女子と星屑男子とフェミおじさん~(1) (&Sofaコミックス)』
    瀧波ユカリ
    講談社
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  • 主に泣いてます(1) (モーニングコミックス)
  • 『主に泣いてます(1) (モーニングコミックス)』
    東村アキコ
    講談社
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  • かくかくしかじか 1 (マーガレットコミックスDIGITAL)
  • 『かくかくしかじか 1 (マーガレットコミックスDIGITAL)』
    東村アキコ
    集英社
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  • ゴールデンカムイ 1
  • 『ゴールデンカムイ 1』
    野田 サトル
    集英社
    594円(税込)
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