作家の読書道 第291回:砂村かいりさん
小説投稿サイト「カクヨム」の第5回カクヨムコンの恋愛部門で、『炭酸水と犬』『アパートたまゆら』が特別賞をダブル受賞。二作とも書籍化されてデビューをはたした砂村かいりさん。恋愛小説に限らず、現代社会を生きる人々の葛藤や再生を丁寧に描く著者は、どんな本を読み、影響を受けてきたのか。愛読書について、たくさんの書名を挙げてくださいました。ご堪能あれ。
その3「幸福な読書空間」 (3/9)
――その後の読書は。
砂村:ティーンズハートと双璧をなしていた集英社のコバルト文庫では、藤本ひとみの「まんが家マリナ」シリーズにはまりました。「万年崖っぷち三流まんが家」で、容姿がよいわけではないマリナがいろんな事件に遭遇するのですが、彼女が毎回、ハイスペックなイケメンにモテまくるんです。マリナの本命はブレずに和矢という幼馴染みなのですが、絶世の美青年が次々に現れて、一緒に困難に立ち向かううちにみんなマリナのことを好きになっちゃうんですよね。事件も殺人から古代ローマへのタイムスリップまで、実に多彩で。これもシリーズを全巻揃えていたんですけれど、『まんが家マリナ恋心事件 愛は甘美なパラドクス』まで来たところで、別のシリーズに切り替わってしまったのが残念でした。津原やすみ作品も藤本ひとみ作品も、多感な時期にのめりこんでいたので、自分にとって青春時代の根幹にある作品群という位置づけです。
――漫画は読みましたか。
砂村:そうですね。「りぼん」や「なかよし」の作品がどれも大好きだったんですが、母親に少女漫画を禁止されてしまって。公文やピアノの帰りに祖母の家に立ち寄って夕食を食べて帰る習慣があったのですが、あるとき祖母が「りぼん」を買ってきてくれたんです。付録にノートがついていて、豪華だからと言って。それで姉と一緒にむさぼり読んだんですけれど、それを3号くらい繰り返した頃に、母に見つかってめちゃめちゃ怒られて禁止されました。それでもおばあちゃん家なら読める、という抜け道はありましたが。
その頃特に好きだったのは、岡田あーみんのギャグ漫画『こいつら100%伝説』。もう、お腹がよじれるくらい笑いました。これも個人の好みですけれど、あれほど振り切ったシュールな笑いと教養や知性を感じさせる、はちゃめちゃにおもしろい作品を描く漫画家さんって、その後見かけなかったのではと思うくらい。わたしは岡田あーみんのすごさは国宝級だと思っています。そのあとの『ルナティック雑技団』もめちゃくちゃおもしろかったです。
あとは「りぼん」で『ちびまる子ちゃん』の原作も読んでいて、アニメも観ていました。クラスの男子たちもあのアニメは観ていたのが印象的でしたね。そういえば付録か別冊かなにかで、岡田あーみんとさくらももこがコラボした漫画がありました。今思うと豪華すぎて、信じられないです。
――ところで、公文に通われていたんですね。
砂村:小3くらいから姉と一緒に公文に通って英語と数学を習い、早々に英検をとり始めていました。姉より先にプリントが終わった時に、待っていられるスペースがあったんです。畳一畳ぶんくらいのスペースにパイプ椅子が一脚置かれていて、それを取り囲む三方の壁に本棚が取りつけられているんですね。今思えば、教室運営をしていた先生のセンスで揃えられた本たちだったんですが、小学生が読んでおくべき児童文学からちょっと昔の少女漫画までがずっしりと詰め込まれていて、宝箱の中にいるようでした。いつも姉より先に自分のプリントを終わらせて、そこで本を読みながら待っていたんですが、もう夢中でしたね。手あたり次第に読んでいました。世界の名作みたいなものはだいたいそこで読みました。グリムやイソップも一通り読んで、実際のおとぎ話って結構残酷なんだなと知りました。読書環境として本当に、たまらなかったです。
――そうやって読書の幅を広げていったんですね。
砂村:はい。星新一を読み始めたのも、たぶん小学校の高学年くらいだったと思います。超有名な『ボッコちゃん』に始まって、『ようこそ地球さん』とか『エヌ氏の遊園地』とか。あまりにおもしろいので、のちに大人買いして、黄緑の背の新潮文庫を全部揃えました。この頃からSFってすごいなと感じていたし、宇宙人と接触する話や博士が何かを発明する話が好きだったんですよね。星新一って、今を予見していましたよね。よく言われるのは「声の網」というショートショートで、あれは後に出てくるインターネットのことが書かれている。ホログラムで出てくる恐竜や怪獣にキックやパンチをするゲームの話もありますが、その後wiiが出てきている。全国民に番号が振り分けられて、何をするにも番号を問われる話は、今思うとマイナンバーなんですよね。どれも予見しているし、話自体もきっちりおもしろいし、本当に偉大な人だったなと思います。言葉や表現に無駄がないところ、それでいてちゃんと余韻を感じさせるところもすごく好きでした。大尊敬しています。
――その後、ご自身でお話を書いたり絵を描いたりはされていたのですか。
砂村:小4の時に、学校のクラブ活動の時間に絵本クラブに入って、自分の絵本を作りました。といっても、ホチキスか何かで留めたような簡単なものですが。当時、緑色が好きだったので、「緑の国」という物語を書きました。緑色が大好きな「緑」という名前の女の子が、緑一色しかない国に行くんです。イラストも最初はカラフルで、途中からは全部緑になっていく。緑だけの国で満足して、最初のうちは多幸感いっぱいに過ごしているのですが、だんだん違和感を抱き始めて、やっぱり元の世界に戻ることを所望し、またいろんな色があるこの世界に戻ってくるという話でした。
――まさに、多様性の話じゃないですか。
砂村:小5、6の頃にはクラスの友人と創作小説と創作漫画を同時進行でノートに書いて、交換して読み合っていました。ノートを何冊消費したかわからないくらい続けました。これも親に見つかって気まずい思いをするのですが(泣)。
あと、作文コンクールでよく入賞していたんですが、嫌な記憶があります。小3か小4の時に『ごんぎつね』の感想文を書いて母に見せたら、「こんなの駄目」といってぱーっと消され、書き直されてしまったんですね。逆らうこともできずそれを提出したら、入賞しちゃったんです。わたしは自分の言葉を取り上げられた気持ちで、自尊心というか、自分の魂みたいなものがズタボロになりました。
自分の言葉で書かないと何の意味もないという気持ちは揺らぎません。のちにカクヨムコンの恋愛部門で11週連続1位になった時、「自分で複数のアカウントを作って星を入れているんだ」とか「業者を買っているんだろう」などとネットに書きこんだ人たちがいましたが、わたしは実力以外のものを使って結果だけ出すことに何の価値も感じないんですよ。自分の魂に嘘ついてどうするんですかね。それをあたりまえに思わない、信念もプライドもない人が存在するんだなとその時、知りました。








