『美女と竹林』森見登美彦

●今回の書評担当者●精文館書店中島新町店 久田かおり

 京都に住みたいと思っていた。
 私がまだ紅顔の美少女だったころ、友達のセンチメンタルジャーニーに付き合って訪れた嵯峨野にたたずみ、はらりはらりと降り続く雪を手に受け誓ったのだ。
「京都の大学に行って一緒に住もうね」
 結果から言うと彼女は東京に私は名古屋に進学した。乙女の約束ほど守られぬものは無い。
 それでも京都に住みたいと思っていた。ナゼと問われると困るのだけれど、とにかく「京都」と言う響きに心惹かれるのだ。なんせ千年の都である。おいでやすである。どすえである。

 東大生と京大生とどっちが好きか、と聞かれたら、迷わず「京大生」と答える。弊衣破帽に高下駄はいて哲学の道辺りをうつむき加減に(ここが大事)歩く姿に萌えるのであり、決して不忍池大また闊歩ではダメなのだ。
そんな古都に住み、天下無敵の京大卒の名をほしいままにする最近話題の作家のうちの一人がモリミーこと森見登美彦氏である。

 登美彦氏との出会いは衝撃であった。彼のデヴュー作『太陽の塔』(新潮社)は長年のあこがれ京大生像を電子レンジに入れた生卵のごとく、わちゃわちゃに破裂させてくれたのだ。嗚呼、腐れ京大生め!!
 その元腐れ京大生登美彦氏が『小説宝石』に連載していたエッセイをまとめたものがこの『美女と竹林』である。多分エッセイのはずである。いや、エッセイだよね?う~ん、エッセイなのかなぁ...
 
 なんせ作者が自分のことを「登美彦氏」と呼び、まるで他人事のように語るのである。
その登美彦氏が幼き頃よりこよなく愛し続けている「竹林」について植物学的に熱く熱く語る...  
というのは全くの嘘で、同僚の保有する荒れた竹林を手入れし、将来MBC(モリミ・バンブー・カンパニー)を設立する足がかりとするのだという訳の分からない夢のために友達や出版社のヒトを巻き込み、がこがこがしがしとただただ竹を切る、ひたすら切る、いや切りたいと思っているのだけれど何かと忙しくて切る暇が無い、仕方ないから頭の中で切ってる場面を想像しよう、妄想しよう、あぁ幸せだな~。って一体どこまでが本当でどこからが嘘なんだよ!!

とにかく天才モリミーは頭の先から爪先まで妄想で出来ている、ということが分かる一冊である。

尚、モリミーの妄想系以外の本も読みたい方には『有頂天家族』(幻冬舎)をオススメする。これはホント。

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精文館書店中島新町店 久田かおり
精文館書店中島新町店 久田かおり
「活字に関わる仕事がしたいっ」という情熱だけで採用されて17年目の、現在、妻母兼業の時間的書店員。経験の薄さと商品知識の少なさは気合でフォロー。小学生の時、読書感想文コンテストで「面白い本がない」と自作の童話に感想を付けて提出。先生に褒められ有頂天に。作家を夢見るが2作目でネタが尽き早々に夢破れる。次なる夢は老後の「ちっちゃな超個人的図書館あるいは売れない古本屋のオババ」。これならイケルかも、と自店で買った本がテーブルの下に塔を成す。自称「沈着冷静な頼れるお姉さま」、他称「いるだけで騒がしく見ているだけで笑える伝説製作人」。