『プリンセス・トヨトミ』万城目学

●今回の書評担当者●東山堂 外販セクション 横矢浩司

 生まれて初めてTVドラマのDVDーBOXなるものを買ってしまったのが去年のこと。その作品『鹿男あをによし』は、作り手の方々の原作へのリスペクトやチャレンジ精神が随所で感じられた素晴らしい作品でした。本屋大賞のコメントの中には万城目さんの原作に肩入れする声もありましたが、作品への愛と細部の忠実さは必ずしも一致するものではなく、求められるのはもっと別のなにかだと僕は思っていて、原作同様ドラマのほうも大いに楽しみました。(ちなみに脚本を担当された相沢友子さんは、今年公開される映画『重力ピエロ』でも脚本で関わっているとの事。期待が膨らみますねー)

 でもってその映像特典の中には、著者の万城目さんのインタビューも入っています。動くお姿を拝見したのは本屋大賞の発表会をネットで中継した時以来かしら。つい先日の「週刊ブックレビュー」にもこの『プリンセス・トヨトミ』を携えて出演されていましたね。新刊が出るたびに思うのは、こんなにも身近にいそうな風貌でありながら、一筋縄ではいかないこの独特の面白さはなんなんだ!ってことですよ。このギャップがこれだけプラスに作用する方もそうそういないのでは?(ってなんか失礼な言い方になってないか心配だなあ)

 東京からの出張で大阪を訪れた会計検査院トリオ「松平」「鳥居」「旭」。地元の商店街で暮らす中学生の少年少女「大輔」と「茶子」。揃いも揃って個性的なキャラクターの面々に、大阪城と豊臣家にまつわる「裏」の歴史が絡みだし、物語は予想もつかない展開へ。中盤からは最後まで一気読みの一大エンターテイメント!

 日本史でいちばん好きだった時代に関する話だったのですぐに引き込まれました。作品の構成上、いいなあと思った部分についてほとんど何も書けないのが残念ですが、これまでの万城目作品に魅了されてきた人なら、日常と歴史、このふたつの要素の絶妙なミックス具合、今回も存分に楽しめることでしょう。それと「えー?」という声が聞こえてくるのも覚悟の上で言ってしまうと、筋立ても世界観も全く違うけど『ザ・ロード』(コーマック・マッカーシー)と並ぶ、「父親と息子の時間」についての物語だとも思いました。なぜだか最近こういう話に弱いんです。『鹿男』のキャラがちらりと登場するのもうれしいですね。

 さてさて、今年の本屋大賞の発表会も、もうすぐですね。毎年のことですが、この時期僕の所属する部署は繁忙期に突入していて(教科書、教材関係の仕事です)、休日返上で作業をしています。本屋大賞の時期にいちばん文芸書から遠ざかるような気がするんですが、まあそういう仕事なので。参加される書店員の皆様、準備に関わる方々、発表会が無事成功しますように、ここ盛岡から祈っております。

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東山堂 外販セクション 横矢浩司
東山堂 外販セクション 横矢浩司
1972年岩手県盛岡市生まれ。1997年東山堂入社。 東山堂ブックセンター、都南店を経て本店外販課へ配属。以来ずっと営業畑。とくに好きなジャンルは純文学と本格ミステリー。突然の指名に戸惑うも、小学生時代のあだ名“ヨコチョ”が使われたコーナータイトルに運命を感じ、快諾する。カフェよりも居酒屋に出没する率高し。 酒と読書の両立が永遠のテーマ。