第17回 「口調」を整える

▼全体を整える

 インタビュー原稿の最終工程は「口調」を整えること、内容の重複に関して一考するというものだ。これを調整作業というのだろうけど、やってるほうとしては、語感にあるような消化作業的な雰囲気はない。これもまた、構成と同じく大事な局面だと思う。
 まず、出来上がった原稿を通読するところから始めよう。前振り、話題の導入、雑談、テーマ的な話、互いの見解などをチェックする。
 不思議なもので構成をパターン化すると下のように簡略だが示すことができる。

① 導入部
② 対象者の①への返答
③ インタビューアーの切り返し
④ 対象者による③から派生した内容
⑤ 対象者による①の回答的内容の補足
⑥ インタビューアーの例外を求める質問
⑦ 対象者による⑥の回答と派生した内容
⑧ ⑦で生まれた脱線の話
⑨ テーマに関わる話
⑩ インタビューアーのまとめ
⑪ 対象者によるまとめ

 この十一段階には組み合わせがあるけれど、基本線だといっていいだろう。まず、読み返しながら、繰り返しがないかを探す。

▼話題のリフレインは悪いものではない

 繰り返し=割愛という方向は「しつこく」なければ活かしていてもいい。吉本隆明の語りをまとめたものやインタビュー集で目につくのは話題のリフレインだ。吉本に関しては鑑賞篇になる後段で分析するので詳細をここでは述べないでおく。顕著なのはシリーズ「吉本隆明が語る戦後55年」(三交社)でのことだ。
 例えば、吉本が彼の著作「定本 言語にとって美とはなにか」(角川ソフィア文庫)に関して語るとき、自己表出について言い換えながら何度も説明する。この言い換えがクセモノで、非常に狭義な内容であったり、または拡大化したものであったりするので、読者はその都度、吉本の理論へ考えを巡らせてしまう。こういった主題への迂回と接近を繰り返す喋りは、より深い理解の道筋を開くことになって、けっして割愛していいものではない。
 したがって割愛するべき繰り返しは、単一の内容で、主題や話題を膨らませるものではない語りの部分、冗長になると考えられる部分だ。インタビューは枝葉が多いほうが豊かではあるけれど、基本はソリッドなものを大事にしたい。ソリッドを心がけつつも、そこにリフレインがかかり、内容を豊かにするならば活かす。そういった理解で「重複」を捉えたら良いのではないだろうか。
 僕の場合は以下のやりとりが、リフレインさせようと思ったものに当たる。

―つまり、喜屋武さんは沖縄県の政治主体には中国共産党寄りの人物と、純粋に琉球政権を願う人物と、日本国に属したうえで在日米軍を排斥したいという三種が存在すると言うんですね?
喜屋武「米軍占領下からずっと、その三派は存在しておりました。中共指導による人間は浸透化されて別の二派に潜り込んでいるので目立ちません。けれど琉球政権論者も先鋭的でありますから、同じく、中共指導の浸透化支持者とは色合いは薄くではありますが、日本国に属した形での米軍排斥に加担しておるのです(以下略)」
―整理しましょう。中共指導の独立派、琉球政権樹立派、日本国の立場からの米軍排斥派の三つがあるんですね?
喜屋武「中共派が生まれたきっかけは一九四九年の中国本土での内戦で逃れてきた共産党員と接触したことが言えます。もっと毛沢東が勝利すると同時にその党員は帰還するのですが、彼らに教えを受けた人物たちがいた。また、共産党政権が生まれたと同時に大陸へ渡ったシンパですね。彼らの思想の根幹には琉球王国があり、宗主国としての中国というのがある。それは琉球政権派も同じで、日本を頼むに足りぬと考えているわけです。三派ありながら色合いを異にした二派と日本をよりどころとした一派がいるのです」

 ここで僕は沖縄の米軍排斥運動に関わる人物の政治的立場を初めて訊いた。喜屋武さんははじめは独立運動、次に日本への帰属を求める運動に身を投じた老人だ。彼の知っている沖縄の政治地図は僕にとって初めてなので、一度訊いて書き起こし、まとめてしまえばいいのだが、読者にそういった三派があることを示すためにも、敢えてまとめず、確認として訊き直したのだ。それをまま原稿に活かした。これによって三派の政治的立場がよりよくわかるだろうと狙ったからだ。
 また相手のインタビュー時の立場や空気を伝えるためにしつこい内容を活かす場合だってある。これは内容の広がりというより、ライヴ感を伝えるものだ。

―経産省としては新型リアクターを導入するというのは織り込み済みなわけですか?
経産省キャリア「まあ......それはね」
―ここはハッキリと伺いたのですが。
経産省キャリア「新型リアクターは事故以前から計画推進されていたのでね」
―導入の話は我が国一国だけの方針だった?
経産省キャリア「まあ......そうなるとね」
―お願いします、どうなんでしょうか。
経産省キャリア「織り込み済みなわけだけど、そこにはホレ、アメリカやフランスといった原子力推進国との連携があるんですよ」

 字数の問題で上のやりとりは以下のようになってしまった。そうなると印象が違うことに気がつくはずだ。

―新型リアクター導入というのは既定路線ということだったんですね。
経産省キャリア「アメリカ、フランスとの連携もあり、事故以前からこれは決められた織り込み済みの事案だった」

 これでは役人がせっつかれて困惑しつつ答えるのではなく、ズバッと答えている印象だ。インタビューで描かれる人物像にいくぶんかの変化が生まれる。ちょっとしたことだが、こうやって話者の性格は変容する。

▼口調や沈黙で人物像は変化する

 月刊宝島でのインタビューを例に引く。

Q「生活保護を厳格化するということは大前提なのですね。厳格化で不公平も是正できると?」
T1「......ええ」
T2「ええ」
T3「ええ......」

 これでも話者T氏の印象は変る。1だと迷いのなかで、厳格化することでの効果を認める人物。2だと厳格化を信じるきっぱりとした人物像。3だと答えながらも、なにか吹っ切れないものをもった人物と受け止められる。
 このように「......」ひとつでも印象の変化は生まれるものだ。
 重複の問題を終えるとこういった、ニュアンスの処理に手をつけていく。
 簡単なニュアンス処理は語尾を整えるあたりだろうか。私見だが、やたらと「ね」とか「よ」が末尾につくのはよろしくない。相手のフレンドリーさが際立つけれど、読者には「馴れ馴れしいひと」という印象だって持たれかねない。なので、インタビューの序盤から中盤までは、「ね」「よ」を取っていく。またタメ口表現も取る。かわりに「です」や「ます」をつけて改まった感じを作る。

X「だからね、消費税法案じたいが、国を傾けると私は思ってたんだよ。だいたいが、税法を変えただけでだよ、この国が持ち直すと思うかい? 思わないだろう?」

 と、いう勢いの良い発言を変える。

X「ですから、私は消費税法案じたいが国を傾けるという持論を持っておりました。所詮、税法を変えただけで国家が持ち直すと思えますか? 到底、難しいですよ」

 このように話ぶりを変化させる。ただ、ずっとこの調子だと堅苦しい。だから後半のやり取りはラフで行くことにする。

―政権を是非に取り返して、未来のある政治を行なってくださいよ!
X「そりゃそうだ。全てがいま、失われた十年、いやそれ以上の遅れによって国民は追い詰められとる。こっちは死ぬ気でやってやるつもりですよ、本気でね、死んでいいんだ」

 インタビューアーが話者を好感の持てる人物にしたいと考えるならば、こういった細かい修正を施すのは常道だといえる。逆に悪印象を与えようと思えば出来る。僕はそういう狙いのインタビューをやったことはないけれど。