永らくご愛読いただいておりました「たのしい47都道府県正直観光案内」は、第19回奈良県より「本の雑誌」に連載が移りました。当ホームページでは宮田珠己さんの新連載「無脊椎水族館」をスタートしました。合わせてお楽しみ下さい。

第17回 沖縄県

 沖縄県について書こうとして机に向かいながら、私は今途方に暮れています。みんな大好きな沖縄県。本屋に行けば、たくさんの沖縄本があふれています。今さら私が何を付け足すことがあるでしょうか。

 そもそも私が沖縄に行くときは、ほぼ海に浮かんでいるのであって、陸の上にいったい何があるのかよく知りません。

 美ら海水族館に、世界遺産首里城、国際通りに泡盛に沖縄民謡に、ひめゆりの塔? あとはどんな観光上のチョイスがあるのでしょう。何もないと言いたいわけではありません。知らないのです。きっと知る人ぞ知るディープなスポットがいろいろあるでしょう。これはどの県でもそうですが、とくに沖縄については黙っちゃいられない人が多そうです。

 そんなわけで、他人は知りませんが、私が見たところ、沖縄県には海しかありません。それもシュノーケリングで楽しめる浅い海。それで十分なのが沖縄県であり、私に言わせればあとは全部おまけにすぎません。異論はあるかと思いますが問答無用。沖縄まで行って海に入らないでどうする。

 沖縄県民はあまり海で泳がないと聞きますが、本土からきた観光客にとっては、あんな青い海を見せられて黙って見ていることなどできるわけがありません。あの青い水面の下には、そこらじゅう美しいサンゴ礁があって、カラフルな熱帯魚が群れ泳いでるはず、そしてときどきはイルカやマンタや、運が良ければクジラだって見られるはず、そんな期待に胸を膨らませてしまいます。

 でもこれが実はそう簡単な話ではありません。

 たしかにビーチへ行けば、青い海と白い砂、そして熱帯魚なんかも少しいるでしょう。しかし、沖縄本島中心部のビーチで、いつかテレビで見たあの竜宮城のようなサンゴ礁に出会えるかといったら、それはちょっと難しい。沖縄ならどこの海でもあんな感じと思ったら大きな間違いなのです。

 本島でいうと、美ら海水族館のある本部半島か、ずっと下って糸満市の大渡海岸あたりまで行かなければ、なかなかいいサンゴの海には出会えません。真栄田岬は有名ですが、ダイビングならともかく、シュノーケリングで気軽に楽しもうと思っても、水中は岩ばかりだったりします。

 なので、真の竜宮城を訪れたいと思うならば、離島に行くことをおすすめします。

 一番いいのは、慶良間諸島に渡ること。那覇の泊港から日帰り可能なので、渡嘉敷島、座間味島、阿嘉島のどれかに渡って海へ突入すれば、素晴らしいサンゴに出会うことができるでしょう。というか、那覇まで行って、慶良間諸島に渡らない意味がわかりません。

 那覇に行く=慶良間諸島に行く

 これが常識です。

 異存もいろいろありそうですが、耳を貸す気はありません。

 さて沖縄には他にも離島がたくさんありますが、全部の海を知っているわけではないので、なかでもとくに大きな宮古諸島、八重山諸島について書いてみたいと思います。

 2015年に伊良部大橋が完成し、宮古島とすでに繋がっていた池間島、来間島、そして伊良部島と繋がっていた下地島、これら5つの島が車で行き来できるようになりました。

 もしあなたがてっとり早くサンゴ礁の海を堪能したいのであれば、宮古諸島はうってつけです。まあ、沖縄本島以外はたいがいうってつけなんですが、なかでも宮古諸島はどこで海に入っても、だいたいきれいというパラダイスです。これが八重山諸島になると、島によって個性がありすぎて、どこでもいいというわけにはいかなくなります。八重山よりも範囲の狭い宮古群島は、その意味でシュノーケラー天国といえるでしょう。

 宮古島の吉野海岸、新城海岸、来間島の橋を渡ってすぐ左、池間島の北側の小さなビーチ、さらに下地島の中ノ島など、どこを潜っても大丈夫。ただ宮古島の与那覇前浜にはサンゴはありません。ここは白砂を楽しむビーチ。あとイムギャーマリンガーデンは地形が複雑で面白そうに見えますが、入ってみると汽水のせいで、水中メガネで見るとぐにゃぐにゃになってしまうのが、やや残念です。

 何、そんな細かい情報いらない?

 もっと陸のことも書け?

 そうですか。では少しだけ。伊良部島の北側に佐和田浜という遠浅のビーチがあります。ここは海の中に大きな岩がごろごろ転がるふしぎな景色が特徴です。大津波によって海中の岩が運ばれてきたといわれています。

 面白いのは干潮時。遠浅の海がはるか2キロも後退し、まるで砂漠のような景色に変わるのです。そしてその砂漠に転がる大量の岩。これを見たとき、私はスターウォーズに出てくる惑星タトゥイーンを思い出しました。ここは絶景といっていいでしょう。

 八重山諸島にいきます。

 宮古諸島よりもたくさんの島があり、そのそれぞれが際立った個性をもつ八重山は、この世の天国です。石垣港離島ターミナルに立つと、船の行先としてたくさんの魅力的な島の名前が掲示されていて、じっとしていられない気分になります。

 そして石垣島といえば、マンタ。ボートで見にいけば簡単で安全なので、乗るといいでしょう。浜から海に入ってすぐ楽しめた宮古と違い、八重山でシュノーケリングするにはボートに乗ることが多くなります。白保や、米原はビートエントリーも可能ですが、いいスポットは結構沖にあることが多いのです。

 一方ボートは、いろいろと個性的なスポットに行けて楽しいのですが、乗れば当然お金がかかります。その点は注意しておいたほうがいいでしょう。

 気軽に海に入るには黒島などがいいですが、ボートに乗る予算があれば西表島が強力おすすめです。海底一面がすべてサンゴに覆われた絶景を楽しむことができます。

 日本最南端(有人島のなかで)の波照間島にも、すばらしいビーチがありますが、サンゴをたくさん見るには沖まで泳ぐことになります。また台湾に近い与那国島は、黒潮の流れが速くシュノーケリングには向きません。ここではむしろボートからワイヤーで引っ張ってもらって海中遺跡を見るのが面白い経験になるでしょう。