3月20日(水)
夜、とある出版社の方からお誘い頂いた飲み会に出席する。
それはJ出版社の営業Kさんの退職と、その後任Mさんの送別会&歓迎会のようなものだった。僕自身Kさんと数度しかお会いしたことがなく、またMさんとはまったく面識がなかった。だから本当に出席しても良いのか、ちょっと気が引けていた。
当日、その場にやってきたメンバーを見てさらに腰が引ける。なんとY書店系列の多くの文芸担当者がズラズラと並んでいるのだ。それぞれ各店でお会いしているとはいえ、仕事以外のつき合いなんてまったくない。もちろん飲み会で同席したことすらないのだ。どうしたらいいんだ…とちょっと逃げ出したい気持ちになる。
そしてその周りを囲む10社近くの出版営業マン。それがほとんど仕事の枠を越えた人間関係を築いていて、書店さん、営業マンともにとても砕けたフランクな場になっているのだ。なかにはお子さんを連れてきた書店員さんもいるほどで、話を聞けば、かつてから横浜をテリトリーとする営業が集まり、このような会が催されていたとか。思わずそんな敏腕営業マンに脱帽し、尊敬の眼差しを向けてしまった。すごいもんだ。
こういう集まりにせっかく出席できたのだから、それぞれに挨拶をし、顔を売るのがきっと営業マン本来の姿なのだろう。しかし、そうは思いつつも、何だか腰が動かない。そういうことを嫌らしく感じてしまう自分もいて、しばし自問自答の戦いをしていた。こちらは情けないダメ営業マンだ。
すると厚木店でお世話になっているSさんが逆に近寄って来てくれて
「杉江さんと飲んだことなかったですよね、今日は杉江さんとサッカーの話と本の話を存分にしようと思って」と優しい言葉をかけてくださる。Sさんがサンフレッチェサポだということを先月訪問した際に聞いていたが、そんな深い話はしたことがなかった。
その後は、もう顔を売るなんてことはすっかり忘れてしまって一段とダメ営業マン化していく。なぜなら僕が唯一話せる話題のふたつ、サッカーと本の話で良いならいくらでも盛り上がれるのだ。Sさんが話すレッズの弱点には素直に頷き、それぞれのお薦め本を手帳にメモし合う。
楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、特に浦和までの帰路が遠い僕は一足先に失礼せざるえない。結局、顔は売れなかったなあと心のなかで反省していたところ、Sさんから一言頂く。
「こんなに本の話ができて、うれしかったですよ」
僕にとって、これ以上の誉め言葉は、きっとないだろう。営業としてはダメだろうけれど、まあ、それでも良いやと開き直って、ニコニコしながら、夜でもまったく人出の絶えない繁華街を抜け、横浜駅へ向かった。