WEB本の雑誌

3月28日(木)

 朝、出社してみると、僕の机の上に3枚のCDが置かれていた。それは
『WISH YOU WERE HERE』PINK FLOYD
『AS DECADE OF HITS(1969-1979)』THE ALLMAN BROTHERS BAND
『HARD RAIN』BOB DYLAN
であった。きっと発行人の浜本の物だろう。

 僕の机は、社内で一番窓際にある。その配置に意味があるのかどうかはちょっとわからないが、とにかくその窓際にCDプレイヤーが置いてあるため、誰かが何かの曲を聴きたいときは僕の机に座ることとなる。金子は先端の音楽を聴き、浜田はセンチメンタルな音楽を好む。

 浜本は仕事に息詰まると、自分が青春時代に聴いていたであろう音楽をかける。昨日は『本の雑誌』5月号の下版前日というこで、かなり切羽詰まった様子だった。きっと徹夜仕事になったのだろう。

 僕は、机の上に置いてあった3枚のCDを見つめながら、果たして一体、深夜に浜本はどんな気持ちでこれらの歌を聴いていたのかを想像した。

 たぶん楽しかった学生時代を想いだし、そして今のつらさを忘れようとしたのではないか。浜本にしてみれば、出世欲もないまま、何気なく仕事をしているうちに、いつの間にか勤めていた出版社の発行人になってしまったのだ。発行人というのは普通の会社でいえば、社長である。責任は山のように増え、そのプレッシャーは計り知れない。そして我が社には、椎名と目黒という大きな壁がある。だからこそ読者の期待も大きい。浜本は前発行人目黒という壁に何度もぶつかり跳ね返され、また立ち上がって挑むしかないのだ。

 浜本が発行人となるとき、僕たちはそれぞれ呼び出された。
「あのさ、僕の下で働いてくれる? 目黒さんや椎名さんみたいに魅力もないし、給料も今までどおり悪いけど…」
と自信なさげな顔で質問されたのだ。
「何を言っているんですか。やりますよ、やります。僕らにしか出来ない『本の雑誌』を作りましょうよ」
と僕は答えたのだ。いつも僕は口だけなんだけど…。

 朝からそんな日のことを思い出してしまった。ガンバレ!浜本!