WEB本の雑誌

8月8日(木)

 前にちょっと書いたことがあるけれど、出版社と取次店間における本のやりとり(流通)には「届け」と「集品」がある。「届け」は出版社が取次店の集品口へ自ら本を持っていくことで、「集品」は取次店が廻ってきて出版社から引き取るということ。出版社として楽なのは、もちろん「集品」だけれど、取次店だってそれなりに物量がなければ無駄になるため、基本的に集品をしてもらえるのは大手・中堅出版社だ。

 本の雑誌社はチビ会社なので、もちろん「届け」。しかしさすがに自分たちで行うのは無理があるので、共同倉庫会社のM社に依頼している。共同倉庫会社とは、何社かの出版社の在庫を保管し、毎日トラックで取次店を往復し、注文品の納品をしたり、あるいは返品を受け取ったりしているところだ。

 その共同倉庫会社M社から毎週まとまって、取次店から受けた注文分のデータがやってくる。例えば『笑う運転手』○冊、『なまこのひとりごと』△冊という表と注文の短冊をコピーした用紙が一緒になっている。

 今朝そのデータをペラペラ眺めていて、おかしな数字にぶちあたる。『日本読書株式会社』が異様に出荷されているのだ。これはどこかで紹介されたのか?と首を傾げるが、それだったら本の雑誌社で受ける電話やFAXの注文も増えるはず。おかしい。あわてて短冊のコピーを確認すると、あややや。

 実は9月発売予定の新刊がこの『日本読書株式会社』の第2弾なのだが、その書店さん向けに作った新刊案内の仮題が『新・日本読書株式会社』というあまりにベタでわかりにくい物だった。M社の出荷担当者に、気をつけるように言っておかなきゃとチラシが出来上がったときに考えていたのに、ついつい日常の仕事に埋もれ忘れてしまっていた。納品間違い。参った。

 短冊に押されている番線印(書店さんのハンコ)を確かめると、いつも訪問している国立のM書店さんと立川のO書店さんであった。出荷日を確認すると既に数日経っている。あわてて会社を飛び出し、中央線に乗り込んだ。

 国立のM書店さんは、僕が敬愛する山口瞳氏の著作に何度も登場する町の正しい書店さんである。現在はその頃と店長さんが変わっているようだが、記述されている雰囲気は今での受け継がれている。そして現店長のYさんは部類の本好きで、いつも訪問する度、面白かった本の話を教えてくれるのだが、その読書眼はかなり厳しい。もちろん仕事だって厳しい。うーん、これは怒られるだろうなと覚悟を決めた。

「スミマセンでした」
事情を話、すぐさま謝った。もちろんYさんも納品を見て気づいていた。
「誤出荷分は返品してください」
と僕は当たり前のことを伝えた。

 するとYさんそれまで僕の話を聞くため閉じていた目をバシッと見開き、一言。
「いや、入ってきた分はちゃんと売るよ。その変わり、新刊が漏れるようなことはないように」

 まさに職人の言葉か…。山口瞳氏がこのお店を愛した気持ちがよくわかる出来事だった。何だか僕は思わず震えてしまった。

 その後、Y店長さんは、いつも通り本の話をしてくれた。今回誉めていたのは『グレイブディッカー』高野和明著(講談社)だった。「メシを食ってワインを飲みながら、一気に読んじゃったよ、いやー面白かったよ」

 いつかYさんに誉められる本を作りたい。