10月24日(木) 炎の出張日誌 京都篇
慣れぬ出張のせいか、それとも深酒のせいか胃腸がボロボロに。トイレから抜け出せぬほどヒドイ下痢に襲われる。そこへプラスしてベットでの睡眠による腰痛。おまけに気が張っているため早朝5時過ぎに目を覚まて、睡眠不足も加わってのトリプルダウン。いや、久しぶりにレッドゾーンを振り切ったフル営業をしているため、パンパンに張った足も痛く地獄の4連打。とにかくオレンジジュースをやたらに飲んで出発までベットに寝ころんでテレビを眺める。
ワイドショーやニュース番組のなかで『ハリーポッター 炎のゴブレット』の話題が何度も出る。昨朝ホームから眺めたY書店の早朝発売風景が映り、そして静山社の社長であり、翻訳者の松岡氏がコメント。
「とにかくこの本を届けたい一心で、利益も原価も計算していません」
こちらはいつも利益と原価を計算し、頭を抱えて本を売り歩く営業マン。ボロボロの身体に染みる夢の一言、ヨダレを垂らしつつ思わず耳を塞いでしまった。チクショー。
京都への移動はちょうど来た「こだま」に乗り込む。アッという間に京都。こんなに近かったのかと驚きつつ、あまりに早く到着してしまったため、お店はどこも開いていない。
駅前の街路図を眺め、仕方なく(本当に仕方なく)東本願寺を見物。いわゆる寺社仏閣に興味のなかった人間も時代小説を読み出すと、歴史の町・京都に俄然興味が湧く。寺田屋も池田屋も各藩邸跡も、それから特に竜馬が死んだ近江屋も覗きたい。おお、今まで3回京都を旅したことがあるはずなのに、そのときは早く帰りたい一心だったのが信じられない。
しかししかし今回は出張なのだ。し・ご・と。今日も訪問したい書店さんがガッチリあって、それ以外どうすることもできそうにない。ああ、駅前の観光客や修学旅行生が羨ましい。おい! いきなりGAPで買い物してどうすんの? ちゃんと観光しないと後でおじさんみたいに後悔するよ、なんて女子高生に説教をしてしまいそうになる。
そうこうしているうちに時間は過ぎ、お店の開店時間がやってくる。まずは京都駅の書店さんを2件訪問。どちらでも非常に優しい対応を受け、最後は「また来てくださいね」なんて言葉を頂く。思わず「絶対来ます」と答えそうになるが、座右の銘が『質素倹約』の発行人浜本の顔がポカリと浮かぶ。とりあえず「頑張ります」と答えるのが精一杯の返事だった。
昼時になると事務の浜田からしつこいくらい「今日は何を食べましたか?」というメールが携帯に入る。しかし僕は好き嫌いが多く、食事にはまったく関心がない。どこに行こうが別に食べたい物もなく、いや名物に限って食べられない物が入っているので、昨日は駅の立ち食いうどんで済ませ、今日も駅地下のどこでもあるトンカツ屋でロースカツ定食を食す。
さあ、移動開始と京都の地下鉄に乗って、北大路O書店、烏丸御池のK書店と訪問。しかしO書店さんは担当者がお休みで、K書店さんは事務の浜田が「ぴあMAP文庫 大阪・神戸・京都」に出張前大量なフセンを貼り、マーカーまでして営業ルートを製作してくれたのだが、その場所がまったく間違っていて訪問できずに終わってしまう。残念無念、2泊3日の駆け足営業では後戻りが出来ない。
さてさて、京都の中心街、四条河原町にやっと辿り着く。たぶん今まで3度の訪問で3度とも来ているはずの繁華街。しかし、まったく記憶にないのが恐ろしい。
M書店さんを覗き(担当者さんお休み)、次はH書店さんへ移動。こちらは『本の雑誌』10月号「自在眼鏡」コーナーで紹介した「夏の文庫 裏百選」を開催したお店。是非とも担当のIさんやAさんにお会いしたいと考えていた。
お店に入って「ム、ム、ム」と唸る。いきなり店頭の一番良い棚に大崎善生の『パイロットフィッシュ』と『アジアンタムブルー』がドーンと並べられているではないか。これはこれは、僕がいつも東京で見ている青山ブックセンター系か同系列の渋谷店と同じ趣向、完全なるセレクトショップで書店員さんの売りたい本(読んで欲しい本)が伝わってくる展開だ。
運良くIさんやAさんにお会いでき、話を伺ってみると立地のマイナス要因をプラスに転化させる発想らしいとわかる。
「やっぱりS書店さん跡地で、廻りは老舗のM書店さんやJ書店さんに囲まれているんで普通にやっていたらダメなんですよ。だからちょっとアピールする形で、ここに来たら面白い本が見つかるて感じにしたいんで、いろいろとやってます」
いやはやそれにしてもその意気込みが棚や平台から間違いなく伝わってくるし、店員さん達が作っている『ROLL OVER&DIE!』という小冊子もカッコイイし内容もすこぶる充実。何だかここに来るまでの他の書店さんも含め、全国の書店員さんが1冊の本を売るために、たゆまぬ努力をされている。思わず深い感動を覚えてしまった。
その後は、J書店さんへ。こちらも入って「アヤヤ」と驚く。このJ書店、池袋のJ書店さんと同じ系列で、もちろん古さで行ったら関西が本拠地だから、こちらが古い。それにしてもJ書店さんはどこまで行ってもJ書店。高い棚にしっかり本が並べなられ、平台なんてほとんどない。その徹底的な姿勢にまたまた感動を覚え(実は翌日の大阪でもっと感動する)担当のFさんと話し込んでしまった。そしてFさんが本誌の愛読者だと知る。
この出張で感じたこと。僕がいつも廻っている首都圏の書店さんは、『本の雑誌』や単行本が並んでいるのがある程度当たり前だった。しかし手の回らなかった地域では、注文制の単行本を見つけるのが難しい。特に既刊本なんて瀕死の状態だ。
まったく自社の本がささっていない棚を前に何度もガックリし、たまに品揃えをしっかりしてくれているお店を発見すると、なんだか家に帰ってきたような安堵感を覚えてしまう。そしてFさんのように読んでくれている書店員さんがいると思わず抱きつきたくなるほど嬉しい。
僕は京都の町で深く反省した。ゴメンね、編集部。君たちが一生懸命作っている雑誌や本に対して、僕はいつも偉そうに文句ばっかり言っていたけど、君たちが作ってくれた本によって、今僕は見知らぬ土地で、見知らぬ人に優しく応対されているんだ。これは決して僕の力じゃなくて編集部の人達の力だよ。そう本の力。今回のことを肝に銘じて、これからもうひとつ違った見方で意見していくよ。ほんと今までゴメン。
最後にD書店さんを訪問し、本日の泊まらせて頂くことになっている化学同人のYさんの会社に向かった。ちょっとした偶然が起こり(またしても本誌が絡む)僕はどんどん京都を好きになっていく。パープルサンガを応援できるかわからないが、この地に住むのも悪くない、いや一生に一度は住んでみたいとまで考えていた。
ところがところが、雑談を交わしていた化学同人社長Sさんが最後に一言。
「そうそう、今日来たら絶対言わなきゃと思っていて忘れていました。浦和レッズ、負けて、首位から落ちちゃったね、ハハハハ」
さすが傷口に塩を塗りこむ関西人。京都に住むのは絶対に辞めた…。